第12話

『青野蒼太くんへ



 急にごめんね。

 ついさっきまで隣にいた人に手紙を書くのって、ちょっとおかしいね。

 今日は本当にありがとう。

 蒼太くんが声をかけてくれていなかったら、私は死ぬつもりでした。

 私はずっと、誰からも愛されないんだって、幸せになれないんだって、一人で腐ってた。

 でも蒼太くんは、私のことを思ってくれている人がいるって言ってくれて。

 死のうと思っていたのを止めに来てくれて。

 本当にうれしかった。

 そして何よりうれしかったのは、ずっと好きだったあなたが好きって言ってくれたこと。

 大好きな人に自分の存在を認めてもらえて、やっぱり私は幸せでした。

 こんな私を好きになってくれて、ありがとう』


「……」


 昨日あれほど泣いたのに、今日我慢していた分の涙がまた溢れ出す。



 俺こそ、お前に好きになってもらえてすごくうれしいよ。

 あの花火大会の夜、めちゃくちゃ幸せだったよ。

 なのに、なんで――。



『でも、私は蒼太くんに隠していたことがあります。

 謝らなきゃいけないことも』


「……?」



『あなたがこれを読んでいるときには、私はもういないでしょう』



「……!?」


 どういうことだ?

 玲奈、なんで……?



『実は私、1週間後に亡くなる人がいたら、わかっちゃうの』



 え……?

 何なんだ、それ……?



『冗談だと思うよね。

 でも本当なの。

 もうすぐ亡くなるって人を見たら、一瞬だけその人が亡くなる直前の光景が頭に浮かぶの。

 私のおばあちゃんのときや、親戚のおじさんや、人じゃないけれど、家で飼ってた猫や学校にいたウサギのときもそうだった。

 一瞬だけど、変な映像が頭の中に流れて、怖いと思ってたら、1週間後には本当に亡くなっちゃうの。

 5日前に洗面台の鏡を見たとき、自分が明日死ぬことがわかりました。

 正直ほっとしたかもしれない。

 だって、こんな能力ほしくなかった。

 死ぬ瞬間の映像は見えないんだけど、それでも本当に怖かった。

 誰がいつ死ぬかなんて、知りたくなかった。

 それに、転校してからもうまくいかないことが多くて、つらかった。

 だから、こんな人生が終わるって知って、やっといろんなことを心配しなくて済むんだ、って……』



 そんな過酷な人生を、彼女は……。

 俺はここで初めて、玲奈が死を望む気持ちを少なからず理解した。

 つらい運命を背負い、心に傷を負って、それでも生きてきて。

 玲奈のことだから、誰にも相談できずにずっと一人で頑張ってきたんだろうな……。

 さすがにそんな能力があることは想像できなかったけれど、悩んでいることぐらい気がついて、声をかければよかった。


 ごめん、本当にごめん……。

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