エピローグ

 年が明け、真一は北陸の小さな支社へ転勤になった。

 社内での真一の微妙な立場を考慮して社長と人事部長、営業部長が異動を決めた。北陸支社がリエの実家の近くだったのは、人事部長の配慮だろう。

 営業部長は支社を立て直して戻って来いと言って真一を送り出した。

 真一はリエに正式に結婚を申込み、二人は郁子の一周忌が終わってから式を上げた。

 二人はリエの実家の近くに新居を構え新婚生活を始めた。

 時が満ち、二人の間に子供が産まれた。女の子だった。



 真一とリエの新居。その縁側に置かれた揺りかごの中に赤ん坊が眠っている。真一は愛しそうに我が子を眺めた。

 真一は女の子の肩に郁子とそっくりな黒子ほくろを見つけても、驚かなかった。

 庭に植えた白バラの香りが縁側に満る。


(ねえ、私にも赤ん坊を見せて……)


 真一は赤ん坊を高く抱き上げた。


(この子は私達の子ね。リエさんと真一さんと私の……)

「ああ、そうだね」


 隣の部屋で洗濯物を片付けていたリエが怪訝そうに真一を振り返った。


「あなた、何か言った?」

「ごめん、独り言」


 真一は赤ん坊を揺りかごに戻した。






 原田真一の胸には今でも五条郁子の首が生えている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青樹加奈 @kana_aoki_01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ