3話ー2 赤煉と断罪と



「状況確認!どうなっています!?」


 【震空物質オルゴ・リッド】反応があった現場へ、もう数百メートルの海上。

 輸送機内で異変に気付いた当主の命で、すかさず現場周辺をスキャンする宗家部隊員。

 弾き出された結果――部隊員が緊急を要する事態であると察知し、当主への返答を返す。


「現在テセラ様が、正体不明のアンノウンと交戦中!【震空物質オルゴ・リッド】と【災魔生命体】の反応は共に消失しています……!」


 スキャン結果が光学モニターへ映し出されると、ヤサカニ裏門当主 れい がその異変の正体を確認し――思わず声を荒げる。


魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステム……!――まさか導師側にも適合者が……!?」


 すでに得ていた情報からの、大幅なズレを認識したヤサカニ裏当主は直ちに状況整理に入る。


――魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムは特性上、適合者とその使い魔となる者が二つで一つのシステムを構成する。


――システムは【L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジー】に該当する物であり、その使用に観測者【アリス】……または代行者の管理認証を得る必要がある。


――地球上において、確認される魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステム適合者は、魔族の王女テセラ、クサナギ裏門当主 桜花おうか――そのほか海外に一例のみである。


 情報のズレを修正し導き出された事態――恐らくは十中八九正確な解に近き状況を確信し、ヤサカニ裏当主は緊急の臨時対応を発動する。


「航空支援隊は現状の地域で待機!私が【ヤタガラス】で出ます!」


 輸送機内のひときわ大きな機体に向かうヤサカニ裏当主。

 通常のヤサカニ家陸戦部隊用ジャケットから、特殊パイロットスーツへ着替え目指した機体へ颯爽と乗り込んだ。

 人型をベースに変形機構を軸とし、両腕部及び脚部が畳まれた高機動戦闘を想定した形状で待機する

 エンジンの咆哮ほうこうと共に、ヤサカニ裏当主が発進準備に取り掛かる。


 完全な人型時全長は6~7m弱はあろう――細身だが複雑な機構を持つ機動兵装。

 肩口と脚部に推進機を持ち――【三神守護宗家】が扱う物である事を示す、陰陽の紋が胸・肩・腰部のプロテクターに刻まれる。

 そして、背部に折りたたまれた翼状の重力制御滞空ユニット。


 高機動型機動兵装ヤタガラスの準備完了に合わせ、輸送機後部ハッチが開放され――機動兵装に搭乗したヤサカニ裏門当主により、今現在交戦中の王女へ量子通信が送られた。


『テセラ!聞こえますか……!いったん引きなさい!』



****



 赤い稲妻、烈火の様な突撃。

 赤髪の少女が私をどんどん追い詰めます。


 ローディ君も、彼女に使えてる使い魔さんにはばまれ援護が見込めません。


 私の使える魔法術式は、ほとんど遠方からの砲撃ですが、大威力の物は使い魔の術式援護がなければ発動にとても時間をようします。

 今は、世界創生ロード・グラウバー標準装備の対空砲火武装で応戦してます。

 でも――


「当たって……!」


 空中での滞空状態から、背部より腰部へ囲む小径対空魔術砲――【世界創生ロード・グラウバー】を波乗りする様に操りながら、襲い来る赤き少女に照準を定め――

 小径砲撃が弾幕を張るも右に左に舞う様に回避され――すぐに烈火の如き再突撃が来ます。

 純粋な近接攻撃を持たない私の世界を司る力ロード・グラウバー――肉薄されたらこちらは成す術がありません。


 おまけにローディ君が援護のため半物質化したのは、きっと私たちの作戦ミスだったと思えます。

 戦闘する事は想定していましたが――コスモと言う少女にしか対応していない私達にとって、目の前の赤髪赤眼の魔法少女はとても手強い相手です。


――けど、さっきから二つの違和感が頭から離れません。


 一つは敵対者の彼女との交戦していると、奇妙な――何かが同調している様な不思議な感覚――

 一つは私が戦っているのは敵対者の魔法少女――でも、彼女が戦っているのは……もっと別の――


『――セラ!姫夜摩ひめやまテセラ……!応答しなさい……無事ですか!?』


 突然の通信に、敵対者の攻撃を回避しそこねそうになり――慌てて相手に対空射撃を浴びせて高空へ急上昇します。


「……れいさん!すいません……今敵対者と交戦中です!【震空物質オルゴ・リッド】は――」


『それについては後で報告を……今はすぐに引きなさい!』


 引けと言われても――「この状況から撤退は難しいのですが、」と返答しそうになった時、後方から数本の火線放火が敵対者を襲撃します。


 さすがに私も驚いて、後方――れいさんの乗る輸送機が来ているはずの方を向くと、私の横を凄い速度で滑空かっくうし敵対者に向かう大きな影。


「え……えぇぇと……。あれは……?」


 聞いてはいました。

 けれど見たのは初めてなので、私はしばし時が止まってしまいましたが――すぐに気を取り直して使い魔君に連絡です。


「ローディ君……いったん引こう!今れいさんが来てくれた!その――前に聞いてた……【疑似霊核機動兵装デ・イスタール・モジュール】……だったっけ?それに乗って!」


『こちらでも通信を確認した!敵対者の使い魔も異変に気付いて退いたみたいだ――今すぐ合流して後退しよう!』


 状況をすでに把握してか――ローディ君が素早い返答で対応します。

 そして、すぐ私は使い魔君と再同調励起どうちょうれいきし輸送機へ戻ります。

 使い魔君は、半量子体・攻撃形態である大鷲等へ変化する際――私へ異存した魔法力マジェクトロン同調をカットし制限付きですが、彼単体の魔法力マジェクトロンで活動が可能です。

 簡単に言えば――私が常時電源と繋がるパソコン本体で、使い魔君はケーブルを介して魔法力マジェクトロンを常時充電する子機や携帯端末。

 必要な時に接続を切って、充電した力により制限付きで活動すると言う感じです。


 その同調励起どうちょうれいきした直後、私の肩口で浮かぶローディ君は、少し元気がなさそうな顔でした。

 きっと自分のミスだと落ち込んでると思います。

 後で励ましてあげないと……。



****



『正体不明の魔法少女に告ぐ!こちらは日本国特殊防衛組織【三神守護宗家】!』


 ヤサカニ家裏門当主が搭乗とうじょうする機動兵装【疑似霊核機動兵装デ・イスタール・モジュール】が、高空機動形態から人型形態へ移行――火線連装式ライフル形状の武装を敵対者に突きつけ身元確認に及ぶ。


『直ちにそちらの名と所属を明らかにせよ!そちらが展開する魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステム……アリス代行の管理認証を受けた物に該当しない装備と確認しました!』


 魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムを初めとする、【L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジー】は現在――正確には人造魔生命災害バイオ・デビル・ハザード以降の世界にて、極めて厳しい技術の使用制限を受けている。

 

 その大きな要因として、人類の技術会得に対する傲慢ごうまんにより地球の【観測者】であった【アリス】が消滅してしまった事。

 さらに【L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジー】の乱用により、太陽系全体が滅亡の危機にさらされた大戦の勃発。

 その事態を重く見た【アリス】の協力者達が、【L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジー】使用に大幅な制限を設け――オーバーテクノロジー乱用による危険な抗争発生の抑止活動を行っていた。


 大幅な制限の中には魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムも含まれている。

 が、ことこの技術においては、そのほとんどが魔界内での使用前提の技術――地球等の場所においての制限である事、適合者とその協力者が必要な点が重要である。

 その魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムを含むいにしえの技術は、必ず消滅した【アリス】の代行者――【星霊姫ドール・システム】の認証を受ける事が必須条件とされる。

 それにより、技術乱用の危険が限りなく低下すると考えられていた。


 ゆえに――目の前の存在、赤髪の魔法少女の存在はあってはならない物である。


「――フンっ……仲間に守られ逃げおおせるとは。……魔族の王女とやらも大した事はないな。」


 答える気はもうとう無い――そう言わんばかりに、敵対者の魔法少女が成り立たない会話を返す。


『こちらの質問に応じない場合は、【L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジー】の不正利用と言う形で対応しなければならない……!』


 ヤサカニ家当主の機体、【ヤタガラス】が火線連装ライフルを機体前方へ構え――眼前の魔法少女に照準を合わせる。

 その時、赤髪の魔法少女へ別の場所から通信が入る。


『レゾン・オルフェス……【震空物質オルゴ・リッド】回収が終わったのであれば早々に帰還しなさい。無用の戦闘を長引かせて、手の内をさらす必要はありません。』


 すると、ヤサカニ家当主の声にはまるで耳を貸さない少女は、自分に届いた通信には希薄な感情へ変貌するも従順に従う。


「ハイ。すぐに帰還します、申し訳ありません。」


 直後――振り返りざまに赤髪の魔法少女が、量子かく乱の術式を展開すると、周囲に協力なジャミング波が発生――


「くっ……逃がしは――」


 追いすがろうと、機体を前へと出すヤサカニ裏当主。

 ――が、すでに敵の術式渦中にある疑似霊格機動兵装ヤタガラスは量子かく乱に翻弄ほんろうされ――まんまと敵対者の少女を、光学的センサーのいずれからも見失う。

 その状況を尻目に――悠々と敵対者の少女は撤退して行くのだった。



****



 時にして、王女テセラが敵対者の少女の猛攻から逃げおおせた頃からわずか後――都心部各所に、散発的に発生する害獣。

 人類に害成す存在――野良魔族。


 都心部において、野良魔族発生は増加傾向にあり、宗家の対応では手に余りつつあった。

 魔族の王女の【震空物質オルゴ・リッド】回収に人手をかれ、立ち行かなくなりつつある。

 双方最重要事項であるため、まさに猫の手も借りたい状況であろう。


「ぐぅおおおおぉぉぉ……。」


 だがそんな中――発生していたはずの野良魔族を貫くまばゆき裁きの霊槍。

 ことごとく光に焼き尽くされる、害獣の姿がそこにあった。


「――クヒッ……!何……?この程度……?」


 この時発生した最後の野良魔族が、都心の陰にあたる未だ再復興の目星が立たぬ区画で咆哮ほうこうと共に浄化される。

 その浄化を見届ける者――それは廃墟と化した高層建築の頂上で狂気の笑みと共に立っていた。


 銀翼に二丁の銀霊銃――狂気の笑みとは対象的な、純白と銀色の神々しさを覚える軽甲冑。


 そして、顔の半分をおおうう銀色の仮面――


「……ン~~すっきりした~。とりあえず今日の任務は終了……だよな?ちょっと疲れたし。」


 最後の野良魔族を撃滅せしめた、狂気を浮かべる主の怒りを宿す天使。

 その影が、憎むべき存在の浄化を見届けると――狂気の高笑いを残し、廃墟となった街並みから忽然こつぜんと姿を消していた――

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