ー邂逅、魔法少女ー

 3話ー1 赤煉の魔法少女



「……ちょ……、ちょっと待って!話を……!」


「フンッ……醜態しゅうたいだな……!魔族の王女はこの程度かっ!」




 

 【震空物質オルゴ・リッド】の収集は、今の所順調です。

 まあ、学園へ行きながらではおいそれと進む物ではありませんけど……。


 地球と魔界の命運――すぐにその事が頭をぎり、心がどんどん重くなります。

 ――けど、きっとそれに関しては大人の方が何とかしてくれます。

 だから私は今、自分に出来る事をやる――ずっと心に言い聞かせています。


「ローディ君……。【震空物質オルゴ・リッド】はあといくつ地球に散らばったの?」


 先は長い事を覚悟しながらも、数が気になる私は使い魔の彼に質問しました。


「ああ、正確な数はまだ教えてなかったかな?……ごめん。」


 今日は日曜日――学園は休みなので、息抜きにローディ君とお出かけです。

 れいさんにも「休める時は、休んで構いませんよ。」と言われてたので――状況整理と小会議も含めて、都心から離れた通りのカフェでお茶してます。

 すぐに動ける様に、都心のど真ん中までは出られませんけど――


「メイン動力に使用されていた十個の内の四つ。それと【天楼の魔界セフィロト】各世界――魔王が現状存在しない三つの世界でそれぞれ四つずつ……だね。」


「――十六個か。結構あるね……。」


 数にしてみればほんの十六個――それが局地的ではあるけど、この大きな地球各所に散らばった……となればこれは大変です。

 中には反応が移動しているのも、二つ前の【震空物質オルゴ・リッド】で確認済み。

 肩の力を抜きに来たカフェで、肩にずっしり重しが載った気がしました。


 すると――マスター思いの使い魔さんから、少しでも肩の抜ける補足が追加されます。


「今魔界では、メイン機関の【震空物質オルゴ・リッド】制御装置に疑似システムを緊急手配している。そちらが間に合えば、メイン機関から奪われた物は現時点で無視出来る。」


 ふと素朴な疑問が浮かんだので聞き返す私。


「魔王さんがいない階層の【震空物質オルゴ・リッド】は、代替とかは出来ないの?」


「そうだね。テセラは【天楼の魔界セフィロト】の全容を学ぶ前に、地球に来てるから、そこは流石に理解の外だったね。」


 ローディ君の言うとおりなんです。

 覚醒した時からだいぶ経ってますから、私の記憶の中には思い出した魔界の風景が言葉に出来るまで復活しています。

 けれど――それは全ての物事を理解するには、まだ幼かった頃の物。

 異界とも言える魔界の大地――その全容となると、誰かに教えて貰わないと理解出来ないのが現状です。


「【天楼の魔界セフィロト】の全容としての特徴は、中心となるコア上に各プレート状の階層が幾重いくえにも重なる構造なんだ。――これを見て。」


 オープンカフェのお洒落なのテーブル上、取り出した機械端末画面に映し出される魔界全体構造――初めてその全体像を見た私の感想は——


「綺麗ぇ~~☆」


 その姿――まるで夜景が散りばめられた大地が、薄い花びらの様に中心となる階層の上へ次々と重なり合う構造。

 暗い宇宙空間に咲く、ほのかな光を無数に散りばめた大輪の薔薇に思えます。


「地表面から【マリクト】と言う世界。それを初め上層階に向かう程、そこに住まう魔族の霊質が上昇して行く。」


 そして、そのプレート階層の下層部を指し——


「今、この最下層から数えて【マリクト】【イェソド】【ネツァク】。ここは魔王が即位していない、無法状態なんだ。」


 と、私に閃きが降りてきます。


「……もしかして、魔王さんが居ないから【震空物質オルゴ・リッド】が簡単に強奪できた?」


「察しがいいね、テセラ……その通りだよ。」


 やった、的中☆


「【震空物質オルゴ・リッド】の役目は階層プレートの重力制御や自転中の質量バランス制御。そこに各魔王が関係する。」


「各階層を統治する魔王が、【震空物質オルゴ・リッド】に魔法力マジェクトロンをエネルギーとして注入するんだけど、【天楼の魔界セフィロト】各層はそれぞれ意味を持つ別世界でもあるんだ。」


「つまり、統治する魔王はそれぞれの階層を守護するために、選ばれた者であり――その魔王が【震空物質オルゴ・リッド】にエネルギーを注げば、その力にのみ階層が反応、制御する事が可能になるんだ。」


 私も魔界が地球の魔術的な意味を持つあるイメージを、具現化する様に作られた――と言うのは聞いた事がありました。

 確か宗家の方から得た情報です。


「でも、魔王さんが居ないのなら今どうやって制御されてるの?」


 知る度に浮かぶ疑問を、次々と使い魔君にぶつけてしまう私。

 その使い魔君は今しがたの答えに、少し間を置いて返答します。


「……ある一人の魔王、それも魔界の歴史上――魔神帝ましんていであるルシファー様に次ぐ魔法力マジェクトロンを持つと言われるお方――」


「ボクの前マスターにして――テセラのお姉さん……魔嬢王ミネルバ・ヴァルナグス様が疑似魔法力マジェクトロンで、今も緊急措置を取っていらっしゃる……。」


 私はドクン!と胸が高鳴るのを感じました。


「私の……姉さま……。」



****



 都市部沿岸から少し離れた場所で、【震空物質オルゴ・リッド】の反応あり。

 楽しむために寄ったカフェを、沿岸寄りのお店にしたのが幸か不幸か即座に現場に急行する金色の王女テセラ

 

 世界創造ロード・グラウバーにはいくつか形態が存在する。

 通常の機械杖きかいじょうからスラスターシステムを翼の様に展開し、またがって飛行する――空飛ぶ魔女を模した巡航モード。

 さらには機械杖きかいじょうに、円形の重力制御システムを展開し――波乗りする様に騎乗するマルチサーフィングモード等がある。

 通常遠方への移動は、巡航モードを主に使用する。


「【震空物質オルゴ・リッド】反応にわずかな乱れがある。災魔生命体に変化してる可能性を考慮して、テセラ!」


「うん!分かった!」


 使い魔ローディにより、【三神守護宗家】の対魔部隊へすでに連絡済みであるが――海上を挟んだ離島へ反応が移動しており、即時到着に支障が出ていた。


「宗家の部隊は輸送機の手配に戸惑ってるみたいだ。最悪ボク達だけで戦闘になる!気を引き締めて!」


 と、使い魔ローディがマスターへ注意を促した直後、【震空物質オルゴ・リッド】反応が急激に増大し――そして消滅した。


「……あ……れ?反応が……。ローディ君、反応が急に――」


 突然起こった今までに無い事態に、使い魔へ状況確認を指示しようとした王女。

その刹那――


「テセラっっ!!」


 金色の王女も予想だにせぬ事態――激しい轟音が、閃光をともない空中を行く彼女を狙った。

 まばゆく――そして収束された火線が王女を襲撃。

 寸での所で多層魔量子障壁M・M・Q・Sを展開、直撃を交わす金色の王女。


「びっび……っくりした……。今のはいったい――」


 障壁展開と同時に機械杖の重力制御で急停止――空中へ滞空する王女。

 そこまで口にし――眼前の状況を驚きと共に直視した。


 距離にして数十メートル先――同じ高空に、燃える様な赤髪と赤眼を持つ者が滞空する。

 四本の爪とも翼とも取れる武装に、黒と赤の軽鎧を思わせるゴシック調のドレス――マント状の防具にも見える出で立ち。

 さらに——その肩口には自分と同じ、使い魔とも取れる生命体が浮遊する姿。

 

 魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムを使いこなさんとする王女は、その者の正体の一端を直感にて見抜く。


「……えっ!?まさか……魔法少女……!?」


 テセラを見据えるその瞳――そこに友好の気配など微塵みじんも感じられない。

 向けられるのはただ――殺意――

 すると、赤髪赤眼の少女から声を掛けてきた。


「——魔族の王女と聞いて来たが……。なるほど……今までの野良魔族とは出来が違う様だ……。」


 その少女から語られる言葉に、背筋が凍りそうになるも——金色の王女はなんとか声をしぼり出し問いかけを試みる。


「あの——あなたは?……名前はなんて——」


 王女が言うが早いか、赤髪の少女が返答を切り返す。


宇宙の魔の物おまえなどに名乗る名は無い……!私はコスモの様にはいかぬから、覚悟するんだなっ!」


 コスモ――その名を聞いた瞬間、王女と使い魔は突然訪れた危機を理解した。

 この者は、間違いなく――――


「テセラっ!離れてっ!」


 危機を察知した使い魔が、世界創造ロード・グラウバーのシステムを緊急始動——即座に金色の王女周辺に障壁を全力展開する。

 王女もそれに呼応し機械杖きかいじょうを構えるが——その防御体勢が整う間も無く天空を駆ける赤い稲妻。

 烈火を纏う突撃で振り抜かれた、半物質化した魔力刃をまとう爪状ユニットで弾き飛ばされる。

 その突撃の勢いが弾かれる速度へ転換され——防御障壁を張りながらも転換された勢いのまま、海面に激突する金色の王女。

 叩きつけられた対象が体勢など立て直す隙も作らぬ勢いで、爪状ユニットを翼状に後方展開し——烈火のごとく突撃する赤髪の少女。


 覚醒してからの王女テセラは、魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステムと世界創造ロード・グラウバーの特性を把握しながら、収集任務をこなしていた。

彼女がとの戦闘も考慮し——必要魔法術式を吟味ぎんみしていたはずだ。

 だが、二人は想定していなかった——敵対者として現れる事態を――


「テセラ!」


 量子体の従者はこの事態に対し、使い魔としてのもう一つの使命を遂行する。


 赤髪の少女の突撃を機械杖きかいじょうで受け止める王女。

 組み合うも、強引な力技で押さえ付けられる主を援護するため——使い魔ローディは自らの身体を半量子物質化生命体……攻撃シフトへ移行する。


 王女の身体程もある機械翼の大鷲が、組み合う魔法少女の上空に現れ、小径魔法陣群リトリア・マガ・サーキュレイディアを展開——赤髪の魔法少女めがけて魔弾の雨を見舞う。

 無数の半物質化した魔弾の雨は、容赦なく敵対者へ降り注ぐ——が、組み合った赤き少女は攻撃を見ようともしない。

 その魔弾の雨を


 王女の従者と同じく半量子物質化した、敵対者の使い魔が魔弾を全て弾き返す。

 大鷲の従者よりさらにひと回り大きな体躯——魔術文字を各所にあしらった翼竜が、赤髪の主を守護せんと眼前に顕現けんげんした。


「こ~~の~~っ!!」


 力任せに押さえ付けてくる敵対者を退かせるため、体内で魔力を爆発させ窮地を脱す王女。

 相手は想定外、確かに強力な魔法少女である。

 しかし、金色の王女も以前とは違う——戦う力があり、それを得んと覚悟をした意地がある。

 そうやすやすと打ち倒される訳にはいかないと、敵対者をめつけ付ける。


 だが——赤き魔法少女は追撃の手を緩めない。

 即座に窮地きゅうちを脱したばかりの王女を猛追する。


「……ちょ、ちょっと待って!……少し話を聞いて!」


 確かに相手は敵対者。

 だが、金色の王女は自分に向けられているはずの殺意――それが自分を通して別の物に向けられている様な、奇妙な違和感を感じた。


 しかし残念ながらその赤き少女は、任務遂行に関しては先に戦った事のあるコスモと言う敵対者と同等以上の愚直さがある。

 待てと言われて、はいそうですかと止まる様な相手ではない。


「フンッ……醜態しゅうたいだな……!魔族の王女と聞いて期待していたが……。この程度とはなっ……!」


 なおも爪状魔力刃をかざし、金色の王女に無数の斬撃を見舞う赤き魔法少女。

 一方の使い魔も、テセラを援護しようにも同じく相手の翼竜型使い魔にはばまれ、援護もままならない状況であった。




 沿岸区に程近い緊急発着場から飛び立った輸送機が、宗家の対魔部隊を乗せ現地に向かっていた。

 さらに高空より有事に備えて航空戦力が現地へ先行する。

 しかし——その向かう先の異変にヤサカニ裏門当主は想定していたのか、モニター越しに鬼気迫る表情で呟いた。



「……魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステム……!」

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