音魔法勇者のふたつ名を知っているか

ちびまるフォイ

※この物語はフィクションです

「あなたには特別な魔法の力『音魔法』を授けましょう。

 これで世界を救ってください」


そうして、勇者(♀)がやってきた世界は荒れ果てていた。


「ああ、勇者さま! あなたの力で魔王を倒してください!」


「わかりました」


勇者の冒険がはじまった。


勇者の武器である「音魔法」は音を発生させて

相手を苦しめるという変わった魔法。


「グギャアアアア!」


勇者の発する音に魔物たちは蹴散らされていく。


「すばらしい! 勇者様、音魔法を使いこなしてますね!」


「こんなのはお手の物です」


勇者は待ち受けていた困難をものともせずに先へ進む。

ついに魔王城の前までやってきたがそこで足がとまる。


「こ、これは……!」


魔王城の前には「死の海」と呼ばれる毒の海が広がっていた。

海には巨大な海中モンスターがうようよいる。


「勇者様、この海は通れませんよ。

 船を出そうにも海中のモンスターで壊されるんです」


「それに、一度海に落ちれば魔王だってひとたまりもないほど

 強烈な猛毒の海なんです」


これにはさすがに地元住民から「やめとけ」とお達しがくだった。


「目の前にあるのに……」


勇者は海をへだてた向こうにそびえる魔王城を見据えた。

世界を救うことはできないのか。



「木の棒……先の丸い木の棒を用意して」


「は?」


勇者のといかけに村人は目を丸くした。


「大砲ではなく、投石機でもなく……木の棒ですか?」


「ええ、先の丸い木の棒を準備して。これから魔王を追い出すわ」


「木の棒じゃなにもできませんよ!?」


まったく意味はわからなかったが村人は木の棒を用意した。

要望通り、先が丸くてわっかになっている木の棒。


「あれ? 勇者様は?」


「ここよ」


なんと勇者は布団をどこからか持ってきていた。


「はぁ!? 勇者様、いったいなにをなさる気ですか!?」

「魔王をここから色じかけで誘い込むつもりですか!?」


勇者の奇行に村人は驚いたが、布団を敷かずにたてかけた。

ますますわからない。


「いったいなにを……」


村人が見守る中、勇者は立てかけた布団を木の棒でたたき始めた。



「ひっこーし! ひっこーし!! さっさとひっこーし! しばくぞ!!!」

×100




強烈な音魔法は海を越えて、籠城する魔王に直撃した。

村人の目には、ストレスで魔王城から海へと落下する魔王が見えた。


「勇者様! 魔王がいなくなりました! ありがとうございます!!」


「せめてあなたのお名前を!」



「騒音おばさん……とでも名乗っておこうかしら」



勇者は布団たたきを背中に担いで静かに去っていった……。

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