あたしがうまくいかないのは、どうしてよ!

卯野ましろ

あたしがうまくいかないのは、どうしてよ!

「あたしがうまくいかないのはっ……、どうしてよぉーっ!」

「またこんなところで負け犬の遠吠えですか、毒島さん」

「げっ、遠藤!」


 屋上で叫んだ後、ヤツがニコニコしながら、あたしの目の前に姿を現した。


「……何であんたは、こういうときにいっつも出てくるわけっ? というかブスって言わないでよ!」

「ブスの後ろに、きちんとジマを付けていますが何か? 被害妄想も甚だしいですよ♪」

「うるさーいっ!」


 あたしは自分の名字が本当に嫌いだ。意地悪な人によって、あだ名が「ブス」に確定されてしまうからだ。


「昔は君のことを『かのぴー』って、かわいく呼んでくれる良い親友がいたのにねぇ」

「……ふんっ」


 あたしの下の名前は華乃子。そこから「かのぴー」という愛称ができた。


「でも君は彼女を利用した! 自分をかわいく見せるために、君は『自分よりもかわいくない』と感じた彼女と友達になった。それが周りからバレて君はすぐ嫌われ、そして今では友達ゼロ! そのうえ、君が狙っていた男子は……その利用していた女子と結ばれた!」


 ムカつくけれど、その通り。

 あたしは以前、自分をかわいく見せたいがために、あか抜けない女子と友達になった。その子はピュアで、あたしを「かのぴー」と呼んで慕ってくれていたけど……。あたしの考えなんて、その子以外にはバレバレだった。その子をかわいそうに感じた女子たちによって、あたしは独りぼっちになってしまった。


 ……あいつらだって、あの子のことを心の中ではバカにしてるんじゃないの? だから、あたしの考えに気づいたんじゃないの?


 自業自得。だけど、一人は淋しい。抑えられない涙を隠れて流していた……と思ったら、


「おやおや……実は結構な泣き虫さんでしたか。毒島さん」


 遠藤に見られてしまった。




「また告白してフラれたんですね」

「……あたしが性格悪いの、もう誰かがバラしているのよ絶対」

「君は肉食系が過ぎるのです。化粧も濃いし」

「積極的で何が悪いのよ! あたしはねぇ、もう自分の名字が嫌なの! だから早く相手を見つけて結婚して、この名字を捨てたいの! それに早く結婚して、子どもを産んで……女手一つであたしを育ててくれたママを安心させたい! 親孝行したいの!」

「そんな君と僕が出会って、もう3周年。中学で嫌われ、高校入学後すぐ嫌われ……本当にブレませんねぇ」

「……あんたは何で、そんなあたしにベッタリくっついているのよ」

「君の、その性格を直すためです」

「余計なお世話よっ!」

「せっかく顔かわいいのに、もったいないじゃないですか」

「へっ?」


 思いがけない答えに、あたしは戸惑った。そんなあたしに構わず、遠藤は話し続けた。


「そうそう。この前、君が利用したあの子にバッタリ会いましたよ。それで、君に会いたいと言っていました」

「え……」

「自分がかわいくなれたのは、かのぴーのおかげ。かのぴーを目指した結果、私は変われた。彼に告白された。だから、かのぴーに『ありがとう』と言って、また友達になりたい……とのことです」

「……」

「君と違って、良い子ですね~♪」

「黙れ!」

「……で、どうします?」

「会いたいよ」

「じゃあ連絡しときますね~」


 そして遠藤は、どこかへ行ってしまった。

 

「はぁ……」


 あの子、あたしのことを今でも友達って思ってくれているんだ……。


 友達になる動機は不純だったけれど、あの子といた日々が楽しかったのは事実だった。


 世の中、うまくいかないこともないんだね……。




 僕は知っている。

 彼女が母親思いなことも、名字を気にし過ぎることも。そのせいで肉食系が過ぎて嫌われてしまったことも。本当は唯一の女友達だった、あの子が大好きだったことも。

 そんな彼女を僕は、ずっとそばで守っていたい。


「君の、その性格を直すためです」


 あんなこと言ったけれど、そんなことしたくない。彼女が性悪キャラで好都合だった。

 なぜなら、僕のライバルがいないから。

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