第24話硝子の眼球

 神崎稔は人殺しだった。少女の息の根を止め、首を切る。

 切られた頭部は黒色のボストンバッグに入れられ自分の家の倉へと運ばれる。

 倉の中には古い木で出来た棚の上に透明の液体が入った透明の瓶があり、その中に頭は脳の部分におもりを入れられ浮かばされる。

 瓶の中は熱帯魚が住む水槽のように空気がコプコプと注入されており、髪がふわふわと浮き上がり、体を失った頭部は軛から解かれたようにくるくると回転する。

 時折回転する首から月の満ち欠けのように白じろした輝きとともに閉じられた瞳が見える。それが見える度に、神崎稔は少女たちと同じく眠っているように感じられた。

 生きていることを実感するのではなくより確かな死んでいることを感じることに臨死体験的な美しさを感じられる。そう神崎稔は思っていた。

 くるくると回転する。月の満ち欠け、メリーゴーランド、時計のトゥールビヨン、レコードの回転。

 今は瓶が二つある。頭部が二つ。

 始めはただ祭りの出店で取ってきた金魚を眺めるだけであった。幼い神崎稔は金魚鉢のそれを眺め恍惚とした気分になった。

 祭りの翌日の朝もそれはひらひらと動いて金魚鉢の壁の間を行ったり来たりを繰り返していた。

 両親に餌を買いに行こうと言われ店へと出掛けた。そこで買ってきた餌を家に帰ってきて直ぐに金魚に与える。

 パラパラと餌を金魚鉢の水中に落とすと、餌が水面に浮かびやがてゆっくりしたスピードで落ちていく。

 それを待ち構えていた金魚は口を開きパク、パク、パク、と次々に食べていく。それを見て神崎稔はなんて可愛いのだろうと思った。

 そんなある日、親戚のおじさんに人形をプレゼントされた。その人形はハンス・ベルメールで有名な球体関節人形であり、関節が球体になっていた。ベルメールの作った人形ではないが。

 神崎稔はその人形の球になっている関節部を見てどこかの惑星を想像した。それらが星座のように結ばれ人の形になっている。その中心は頭部であり、その部分だけ煌々と生きているような錯覚を覚えた。

 人形の顔は始め瞳が閉じられてあり、指を使ってそれを開くと漆黒のぽっかり空いた穴のような硝子で出来た眼球が見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る