黒くて汚くて焦げ臭くて、それでいてまばゆい光を放つ、人間の「弱さ」

復讐心、それは「自分を不幸にした相手にも同じように不幸になってもらうこと」を願う、人間の深いふかいところに根差す、黒くて汚くてまるで灼き切れた鉄みたいな匂いのする感情で、本来は直視するに堪えないものであるはずです。

この物語の登場人物は、そういう人間の黒くて汚くて焦げ臭い部分を恥ずかしげもなくさらけ出して、泣いて喚いて、自分の心の傷を見せびらかして、そのくせ他人を平気で傷つけて、かつて愛していたはずの相手の不幸を願って、そしてそんな自分を嫌になってたりして、ほんとうに真っ黒で汚くて焦げ臭い心の持ち主ばかりで——それなのに、どうしてこの物語がこんなにも心を打つのか、僕はどうしても言葉で説明することができません。

とにかく、みんな弱い人間です。タイムマシンに頼った月乃だって、自分の心を守るために自分より弱い相手を傷つけることしかできなかった松波だって、みんな弱い人間ばかりです。だからでしょうか。弱い心をさらけ出して、つまづいて転んで血を流しても、それでも何度でも立ち上がり前へ走り続ける、求めるものを追い続ける、そんな「諦めの悪さ」、「一生懸命なひたむきさ」というものが、世知辛い現代社会で擦れ切った僕の心に再びあたたかな火を灯してくれるんでしょうか。

太陽光のような強さではなく、月光みたいな弱さ。ほのかな月の明かりの中で輝く星たちのように研ぎ澄まされた光を放つ——そんな月乃たちが、そんなこの物語が、僕は好きです。

最後に一言、
松波め俺がこらしめる前にくたばるのはゆるさん