第37話 夜宵

 獣国の王都にある宿の1つに獣の雫という宿がある。そこでショウとシオンはタニアに問われたことを考えているといつの間にか寝てしまっていた。


 ショウが目覚めると窓からはすでに光が差し込み部屋を明るく照らしている。部屋には簡単な造りのテーブルとベッド、燭台ほどしか無いので少し寂しい。太陽はすでに高くまで上っておりかなり寝ていたようだ。


 「…気にしてても仕方が無いか…。」


 ショウは一人しかいない部屋の中で呟くとドアからノックの音が聞こえてくる。


 「ショウ?起きてる?」


 シオンの部屋はすぐ右隣の部屋だったがすでに起きていたようだ。


 「空いてる、入ってきていいよ。」


 そう言うとシオンはドアを開け部屋に入る。座る場所が無かったのでショウのいるベッドに座る。


 「「……」」


 「…どうしようか。何が悪いのかね。俺たちのいた世界では差別されていじめが起こる事も多かったんだけど、こっちの世界はどうなの?」


 シオンに聞いてみる。


 「…こっちは見たまんまねそっちでは貴族なんていなかったって言ってたけどこっちじゃほとんど貴族や王族が贅沢をして奴隷っていう身分まで幅が広いわね。…そう考えると身分だとかの差別はいらないのかもしれないけどそうなったら確かに今まで酷い扱いだった人達は暴動を起こすかもしれない。」


 「…でもそればを考えてても仕方が無いんじゃない?王国ではそこまで酷い差別を見た訳じゃないし、それに止めなきゃかなりの死人が出ると思う。」


 ぬらりひょんは確かに攻め込むと言った。恐らく各国で交渉なんてしないだろうし多くの人がその差別の撤廃を納得するわけが無い。


 「…そうね、今考えても仕方ないしそう言ったことは王様に直談判に行きましょうか。今はヨミへ行くために夜宵って子を捜しましょうよ。」


 シオンはとりあえず前を向いてくれた。そういった政治のことなどは徐々に直していくべきなのだとショウは考えているのだろう。


 

 



 俺たちは今、昨日きた路地を見つけそこで昨日聞いた声が聞こえないか呼びかけている…が、ウンともスンとも聞こえなかった。


 「はぁ、夜宵ちゃんってここにいるのかしら?」


 シオンがそう呟いたとき


 「なーにー?」


 「「……」」


 「あれー?昨日の迷ってたおねーさんとおにーさんだー。夜宵になにかご用なのー?」


 唐突に聞こえてきたその声はかなり幼く言葉遣いも子供っぽいので恐らくこの声の主が夜宵という少女なのだろう。自分で言ってたし。


 「…えーと、君に会いに来たんだけど何処にいるの?」


 「あー、そりゃそうだねー、今から入り口造るからその中に飛び込んできてー。」


 夜宵はそう言うので少し待つと黒い靄が現れ黒い縁の鏡ができあがった。しかしその鏡の表面は少し波打っている。


 「いーよー、その中にいるからー。」


 再び夜宵の声が聞こえる。どうやらこれが入り口なのだろう。俺とシオンは躊躇いながらまず手を近づけ鏡に触れようとするがいつまでたっても触れた感覚が無く、手は鏡の中へ入っていた。するといきなり鏡の中で手を捕まれた感触があった後、俺とシオンは物凄い力で鏡の中へと引きずり込まれた。


 「…いってて。どうなった…ん…だ?」


 引きずり込まれた鏡の中は今までいた王都から色を抜き白と黒のグラデーションのみの灰色の世界が広がっていた。しかし、その中で俺たちの目の前には様々な花の柄がある紅い着物をきた黒髪でおかっぱ頭の少女がいた。


 「はっじめましてー!夜宵ちゃんだよー!年は秘密の年齢=彼氏いない歴の独身だぜー!よろしくねっ!」


 目の前の少女は大声で自己紹介をした。


 …どぎついキャラが来たな…。










 ー虚妖ノ國Sideー

 「あれ?もう帰ってきたの?」


 ヴァニタスは昨日ショウ達と離れた後すぐにヨミへと戻っていた。そして目の前では村神がヴァニタスの早い帰りに戸惑っている。


 「仕方が無いでしょう!なんか、ついカーッとなってそのままこっちに来ちゃったんですよ!すみませんね!仕事こなせなくて!一人にさせて下さい!頭冷やしてきます!」


 ヴァニタスは今まで見たことが無いほどにわめき自室へと籠もってしまった。


 「…えぇ、勇者の道案内どうすんだよ。…仕方ない。八咫烏に任せるか。」


 村神はそう言って自身の影に潜ませていた三本足の人の倍ほどある鴉を呼びだすと勇者のいる獣国へと放った。

 

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