第32話 同行者

 獣国、そこに住む人はほとんどが獣人であり身体能力、五感が人間と魔族より優れている。その国の王である獣王は単純に強さで決まる。そして、現在王を務めるのはここ30年挑んできた者達の全てに勝ち王座を守り通してきた。


 「獣王様、ここ最近王都で子供の行方不明事件が多発しており住民が不安を募らせています。」


 「行方不明?その子供達は見つかっているのか?」


 「えぇ、行方不明と言っても数時間後だけでして、時間がたつとひょっこり現れるそうです。それでもその数時間自分の子供のがどこで何をしているのか不安であると。」


 獣国の王城、執務室では王とその秘書が仕事をしている。そして秘書からは行方不明事件についての報告をしていた。


 「それならそろそろ来る勇者にやらせてみたらどうだ?俺が出向いても頭を使うのは苦手だからな。」


 王は机で書類に目を通し判を押す作業を続ける。


 「かしこまりました。勇者が到着したあとすぐに王城に呼び頼んでみます。」


 秘書はそう言い続けて別の案件の報告を始める。


 獣王はそれを聞きながらまだ終わらないのかとうんざりしながら判を押し続ける。






 「お、村があるぞ。誰かいねーかな。」


 「居るわけ無いじゃ無いあんなにボロボロで廃墟みたいなのに。魔物に潰されたんでしょうね。」


 俺たちは獣国領に入りいくつかの村を見つけたがそのどれもが魔物によって荒らされ人は居なかった。


 「今度こそ居るかもしれねーだろ。とりあえずよってくれ。」


 「はぁ、居ないだろうに頑張るわねぇ。」


 俺たちは村のそばに馬車を止め村の中へ入る。やはり家は壁が壊され屋根が落ち瓦礫の山になり広場らしきところにも瓦礫が飛び地面には踏まれてつぶれた人の死体が散乱していた。


 「この村も駄目だったか。…ん?」


 俺がそう思っていると遠くから声が聞こえた気がした。今度はもっと耳を澄ませよく聞くとやはり声が聞こえる。


 「………いちゃーん…。や…いちゃーん…やよいちゃーん!どこよー!」


 遠くから声の主が近づいてくる。


 「ほんとに人がいた。」


 シオンが驚きそうつぶやく。おれはその人の元へと走った。


 「おーい、そこの人ー!誰か捜し…て?!」


 そこに居たのは和服を着た銀髪で目鼻立ちの整った女性だった。


 「…あの?どうかなさいましたか?」


女性はそう言うと首をかしげ俺の目の前で手を振る。


 「…あのー?聞こえてますか?」


 「…やっと追いついた。なんで身体能力上がってんのよまったく……!?…ま、負けた。」


 シオンが追いつき女性を見るとその容姿に絶句していた。主に胸を見て。


 「…え?あの?…私はどうすれば良いのでしょう?」


 女性はその場でうろたえてしまった。


 


 「…先程はすみませんところで誰かを捜していたのですか?」


 俺は先程の女性に誰を捜していたのかを聞いてみる。


 「捜していたのはうちの子なんですがまだ帰ってこないので探しに来たんです。でもここに居ないなら後は王都かしら。」


 女性は手を組み答える。


 「じゃあその子俺たちも捜しますよ。手分けした方が早いでしょうしね。」


 「ちょっと。そんな簡単に言わないでよ。子供なのよ?魔物に殺されてるかもしれないのにそんな無責任なこと言わないの。」


 シオンが反対するが確かに子供なら魔物に襲われて死んでしまったかもしれない。


 「…あの、大丈夫ですよ。うちの子に魔物は動物と変わりませんから。それにあの子がどこ生きていることはすぐに分かるようになっているので。」


 と、俺が考えていると女性から生きていると言われ結局俺とシオンはその子を捜す事にした。


 「俺はショウ。そんでこっちがシオンです。お名前教えていただけますか?」


 「あ、そうですね。私はヴァ…タニアです。タニアですよ。それで捜しているのが夜宵って言う女の子です。服装は私と同じような和服ですね。」


 タニアさんはそう言って着物の裾を見せる。その着物の柄は桔梗なのか美しい紺色の布地に白い線で描かれておりよく映える。


 着物と言えばぬらりひょんも着物に袴だったので少し気になったので聞いてみることにした。


 「その着物綺麗ですね。出身はどこなんですか?。」


 「ありがとうございます。これは私の主からの贈り物でしてとても気に入ってるんですよ。出身は秘密です♪」


 と、はぐらかされてしまった。


それから俺たちとタニアさんを乗せた馬車は再び王都へ向かいはじめた。

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