第15話 暴食の王

 風が冷たい、体中が痛い、周りからは魔物のうめき声のようなものも聞こえてくる。さっき、何が起こったんだっけ?…そうだ、地面にいきなり亀裂が入ってできた穴に落ちたんだ。どれくらい落ちたんだ?生きてるってことはそんなに深くはないだろうけど。


 そんなことを考えていると強い風がながれてくる。それと同時に魔物の鳴き声も。


 体の痛みに耐えながら体を起こす。このままだといつ魔物に襲われるか分からない。するといくらか先にほんの少し明かりが見えた。ただその明かりはとても小さく、今も移動しているかのように揺れ遠のいていく。


 俺はそれを追いかけた。途中には魔物の死骸?が残っている。いや、ここがダンジョンであることや、よく見ると魔物が痙攣しているので生きてはいるのだろう。この魔物達がなぜこうなってしまったのか等考える暇は無かった。とにかく明かりのある所まで走った。


 するとその明かりの近くには人の形をした何かがいた。さらに近づくとそれは村神だった。彼も落ちたあと移動していたのだろう。


 「あれ?日高君?なんでここに?」


 村神は俺に気づくとそう聞いてくる。俺はここまでの経緯を村神に話した。ひとまず落ち着いた俺はここに来る途中に倒れていた魔物について聞いてみたが、


 「さぁ?どうしたんだろうね。なにか怖い思いでもしたんじゃ無いかい?」


 と、返されたので気にはなるがここを出ることに集中することにした。村神はいくつもある分岐を迷わず、この場所を知っているかのように歩き続けていた。途中にスライムと会うことが多かったが何故か襲ってこなかったのでそのまま歩いていると徐々にスライムの数が増えていった。


 すると目の前に大きな、それでいて立派な装飾を施された扉の前へ来た。周りには大量のスライムが俺たちを避けるように道をつくっていた。俺が扉に手をかけようとしたとき、その扉は大きな引きずるような音を立てて開いていく。


 奥に進むとそこには今までのスライムよりも軽く二回りは超えそうな大きさを持ったスライムがいた。


 そのスライムは人型をとり首元には綺麗な結晶が輝いている。


 (ようこそいらっしゃいました。人の子よ。私はここに居を構えている暴食の王と呼ばれる魔王の一体です。)


 頭の中に流れ込んできた声に混乱する。さらにこいつが自ら魔王と名乗ったことにも。


 「お前が…魔王なのか?」


 (えぇ、魔王の一体ですよ?あなた方には念話というスキルで話しかけています。)


 「魔王の一体ってことは他にもいるのか?魔王は何体いるんだ?何のために人を襲っているんだ?」


(せっかちな人の子ですね。魔王は私を含め3体ですよ?今現在は…ですけどね。)


 「は?今現在ってどういうことだよまだ増えるのかよ?」


 (そうかもしれませんしそうじゃないかもしれません。あなた方にはどうでも良いことでしょう?……これから死ぬのですから!)


 そういったスライム…暴食の王は周囲のスライムと共に一斉に襲いかかってくる。

 


 

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