ゴーストスナイパーのメンテ管理

ちびまるフォイ

なに狙撃の邪魔してくれたんだよ!

「ゴースト界は定員オーバーだ。みんな死にすぎて困っている。

 ということで、お前には現実の人間をおさえてくれ」


「抑えるたって、俺は幽霊ですよ? どうするんです?」


「じゃーーん。メンテナンススナイパー(CV:大山のぶよ)」


「これは……?」


ゴーストキングに渡されたのはロングレンジのスナイパー銃。


「これはメンテ銃。打ち抜かれた相手はたちまちメンテに――」



バァン!!



試しにゴーストキングを打ち抜くと、その表情のまま動作を止めた。

しばらく待つと打ち抜かれた眉間の「ただいまメンテ中」のしるしが消える。


「ふぅ、待たせたな」


「なんかキャラ変わってませんか?」


「メンテ明けだからね。メンテが終わると気分すっきり元気ハツラツ!

 最高のパフォーマンスで仕事ができるようになるのさ」


「なるほど。それじゃ俺はこの銃で、人間をメンテにしまくって

 簡単に死ねないようにすればいいんですね」


「さよう。そうすれば私の仕事も楽になるってものさ」


ということで、バカでかいスナイパーライフルをかついで現実に降りる。

幽霊なので本体はおろか銃も見られることはない。


「さて、まずは誰を狙撃しようかな」


それでも霊感の強い人間には感づかれる危険もあるので

スコープで狙撃するターゲットを探す。


「ちくしょう……もうこんな人生いやだ……死んでやる……」


ちょうど電車の線路に入って自殺しようとする人を発見。

引き金を引いて男をメンテナンスにさせる。


メンテナンスが終わるまでしばらく待つと、

目を覚ました男は顔つきががらりとかわっていた。


「うおおお!! あきらめんなよぉぉぉ!! まだまだ世界は捨てたもんじゃないぃぃ!!」


「よしよし。お仕事成功だ」


メンテナンスにさせれば溜まりに溜まったストレスもさっぱり消える。

リフレッシュすれば追い詰められた人間でも立ち直ることができる。


「この調子でどんどんメンテナンスにさせよう!」


スナイパーライフル片手にメンテ狙撃していると、

街の人間の気分がどんどん沈んでいることに幽霊センサーが感付く。


「マズイな……みんな気分が沈んでどんどん死にたくなろうとしてる。

 原因はいったいなんなんだ?」


不景気だからだろうか。

不景気の原因を作ってる人間をメンテナンスにして黙らせる。


「これもちがう……。天候のせいか?」


梅雨で雨が多いから気分が沈んでいるのかもしれない。

今度は空を狙撃して、梅雨をメンテナンスにさせた。


それでもまだ街ゆく人はみな暗い顔をしている。


「くそ! いったい原因はなんなんだ!?

 このままじゃみんな死にたくなって幽霊界が忙しくなる!」


ふと、スコープを覗くと怪しい奴が弓を引いていた。


「なんだ……同業者か?」


悪魔のつかいだろうか。

そいつが打ち抜いた相手は苦しそうに胸をかかえて表情が暗くなる。


間違いない。

あいつがすべての元凶だ。


「あいつをメンテ中にして黙らせれば……!」


ライフルを構えた瞬間、向こうのスコープで感づいてすぐさま隠れる。


「なんてやつだ! ゴーストライフルに気が付くなんて!

 あいつ、人間じゃない。それどころかただものじゃない!」


敵が持っているは銃ではなく弓。

射程が短いので近づいてくるはずだ。


そこを撃ち抜いてメンテナンス中にさせてやる。


「さぁこい……! 俺の仕事の邪魔はもうさせない」


スコープに集中してどんな小さな動きも見逃さないようにと精神をとぎすませる。


 ・

 ・

 ・


長い時間が過ぎた。

スコープの先にいる敵はまだ姿を見せない。


「あいつ……もう逃げたんじゃないかな」


狙撃場所を変えようかと思ったそのとき、矢の風きり音が耳に入った。


「危なっ!!」


とっさに身をよじらせて直撃をさける。

相手は弓をひくのではなく、矢そのものをナイフのように振りかざして直接攻撃してきた。


「しまった! これじゃ……!」


ライフルの銃身は長い。

こうも至近距離に迫られては使いようがない。


相手の2撃目がすぐそこまで迫る。



バァン!!



「はぁ……はぁ……危なかった……」


腰にかまえたメンテハンドガンで相手を撃ち抜いた。

自分を撃ち抜いてメンテにするために携帯していたがここで使うとは思わなかった。


羽の生えた敵はメンテナンス中になり行動不能になっている。

いったいこいつは何者なのか。


「……まあいいか。これでみんな気分が沈むこともなくなる。

 自殺者もぐっと減って幽霊界も安泰だ」


たくさん仕事をしたので感謝状のひとつでももらおうかと幽霊界に戻った。

待っていたのは感謝ではなく――。




「貴様!! なにしてくれてんだ!!

 貴様のせいでこっちは死人が増えまくっててんやわんやだ!!」


「え、えええ!? ちゃんとメンテにしましたよ!?」


「そっちじゃない!!」


ゴーストキングはますますご立腹。


「お前、現世で恋のキューピッドをメンテ中にしただろう!!

 おかげで非リア充が死にまくって大忙しだよ!!!」


羽が生えて、弓をもったあいつはキューピッドだったのか。

それじゃ人を苦しめていたように見えたのは恋のせいだったんだ。



「お前はもう使えない! メンテしてこい!!」


ゴーストキングは俺に向けて銃を撃った。

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