四.現存

 美冬のやり残したこととは一体何なのだろう。手掛かりと呼べるものは手元のスマートフォン以外に何もない。他人のスマートフォンを覗くのは躊躇われるが、美冬はわざわざパスコードを教えたのだから構わないだろう。スマートフォンにはメモやLINEなど生活の記録が残されているから、何か分かるかもしれない。意を決した真雪が次に開いたのはカメラロールだった。

 ここ数日は文化祭関係のプリントや板書の写真が多い。しばらくスクロールすると、友だちと出かけたディズニーランドでの写真、旅行で行った北海道での写真、家族の集合写真などが見つかった。もう見ることのできない写真が数多くあった。美冬のスマートフォンは、事故の際に大破してしまったのだ。

胸の奥をぎゅっと掴まれたような感じがして、苦しくなった。感情が露わになるのを抑えるように、真雪は膝を抱える。思い出が幾つも蘇り、頭の中に洪水のように押し寄せた。それぞれが今も鮮やかな色を咲かせる。揺さぶられた感情が行き場なく渦巻く。姉が確かに生きていた時間があったのだ。手掛かりになりそうなものは特に無かったが、真雪はLINEを使って写真を自分宛に送った。

 次に開いたのはカメラロールの隣にあったメモだった。メモ自体の数はそれほど多くない。真雪は一つ一つを開いて見ることにした。ToDoリスト、発表授業の原稿、本の題名の羅列……手掛かりになりそうなものは何もない。

 ホーム画面に戻ると、もう一つメモアプリがあった。黒っぽいアイコンをタップして開く。もしかしたらメモの大半はこちらにあるのかもしれない。手がかりがあるかもしれないと真雪は期待したが、四桁のパスコードが立ちはだかった。試しに「8732」と入れてみるがあっけなく阻まれる。本人や家族の誕生日、生まれた年、定番の「1111」や「1234」……色々試すがどれも違う。他にどんな数字が考えられるだろうか。

 バイブレーションとともに通知が来て真雪は手を止めた。〈咲季〉からLINEが来ていた。

〈まだ来ないの?〉

〈場所なら2Cだよ。〉

 今日は文化祭の前日。あまりスマートフォンばかりを見ている時間もない。部活動関係の準備が始まっていた。美冬の所属する写真部のブースの準備をしなくてはならないのだ。

 スマートフォンをポケットに戻し、「美冬」は立ち上がった。

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