第30話 ヤヨイ対ガイ

「さあ、やろうぜ」

「はい! よろしくお願いします!」

 ガイの言葉に、ヤヨイは気合いじゅうぶんで答えた。

 能力バトルが始まる。

 二人が精神体に分離し、円の中央へ歩く。

 緑色の広場のまわりには、見物人が大勢集まっていた。広い戦闘空間を、バトル好きは見逃さない。

 ヤヨイは、カケルの戦いかたと同じように、左手で剣を持って構える。

 すぐに動いた。ガイに向かって正面から突きを繰り出す。

 何か狙いがあると察知したガイ。そして、赤い服の男性はなにもせず、半球体の光の壁でガード。

 白い服のヤヨイの身体から光がほとばしり、足を使わずに加速。

 一瞬でうしろに回り込まれたガイは、攻撃を受ける。

「力の消費が激しいみたいだな」

「節約しないと」

 空中に浮かぶ、お互いの精神力を表すゲージ。縦に長く、下に描かれた顔があるじを示す。ヤヨイのほうも、すこし減っている。

 二人は、戦いを楽しんでいた。

 光る推進力すいしんりょくを使って、複雑な動きをするヤヨイ。

 翻弄されるガイ。

 だが、徐々に対応しはじめる。

 見た目がわかりやすい戦いに、見物人は沸いていた。すこし高くなってきた日差しを防ぐのは傘。

「もう、時間は過ぎてるはずなのに」

 カケルがつぶやく。

 ヤヨイが精神体を分離できる時間は、まだ短い。

 すでに、解除されていてもおかしくない時間。にもかかわらず、一向にその気配はない。

「何かを掴んだのか?」

「戦いの中で成長しているのね」

 タクミとスズネは仮説を述べた。


 ヤヨイが素手で攻撃しつづける。

 ガイも素手で応戦。

 高速移動こうそくいどうの能力を使うかわりに、ガード無効能力を使わないロングヘアの少女。

 ガイのガード外を狙って攻撃をつづける。

 眉毛の太い男性は、少女の狙いに気付いていた。半球体の光の壁の位置をずらし、ガード。

 おたがいに精神力を消耗していた。

 長引けば不利なのを承知しょうちで、ヤヨイは戦いかたを変えない。ひたすら攻める。

 最後に立っていたのは、白い服の少女だった。

「ありがとうございました!」

 肉体に戻った、赤い服のヤヨイ。全身でお礼を伝えて、スカートを揺らした。精神体のときは揺れない。

「熱かったぜ。だが、ヤヨイはもっと強くなる。オレが保証する!」

 赤茶色の服のガイは、豪快に笑った。


 熱戦に沸いた周りの人たち。

 二人にお金が渡される。

 取り囲まれているヤヨイとガイを素通りし、スズネとタクミが広場に行く。

「能力なしの撃ち合いといきましょうよ」

「燃えてるな。嫌いじゃないぜ」

 模擬戦を始めた二人。能力変化と鏡を使わず、弾だけで攻撃しはじめた。

 広場のまわりに移動していく見物人たち。

 ひとびとの興味が移り、ほっとしたような表情を見せる、ヤヨイとガイ。

 短髪の少年が口を開く。

「おめでとう」

「ん? ああ、勝ったこと?」

 カケルの言葉の意味を、ヤヨイは理解していなかった。

「長い時間、精神体でいられるようになったことだよ」

 ヤヨイはようやく分かった様子。

「全然、気付かなかった」

「そうだったのか。ライバルを強くしちまったな」

 ガイは言葉とは裏腹に、嬉しそうな顔を好敵手に向ける。

 しばらくつづいた通常弾の戦い。

「普段、鏡に頼り過ぎてたのが分かるな」

「そうよ。鏡なんて反則よ」

 遠距離戦を制したのは、スズネだった。

 タクミの弾道計算だんどうけいさんが正確で素早いからこそ、鏡での反射が効果的。

 思いを、口に出さなかったスズネ。

「一人で行かないでよ、ガイ」

「リーダーを置いて行くなと言っている!」

 くせのある髪のダンと、とがった髪型のジョーがやってきた。

「丁度よかった。バトルしていこうぜ」

 ガイは、スズネとタクミに、2対2で通常弾によるバトルをしないかと提案。

 ダンはすぐ了承し、ジョーは勝手に決めるなと口を尖らせる。

「いいわよ」

「俺、足手まといだろ」

 つり目ぎみのスズネとは違って、たれ目ぎみのタクミは弱気だ。


 仲間が戦っている。

 すこし背の低い少女は見ていた。

 まだ自分にはできないレベルの遠距離戦。

「もっと、遠距離戦も練習しないと」

「だよね。近距離戦で二人に追いつかれたら、勝てなくなる」

 真剣に戦いを見つめる、ヤヨイとカケル。

「色がかぶってる、って言ってんだろ!」

 タクミは、ダンに対抗心を燃やしていた。

 黄色の服のスズネと青色の服のタクミに負けず劣らず、青い服のダンと緑の服のジョーは見事な連携を見せる。

 立ったまま、腕を組んでながめるガイ。目が忙しく動く。


 戦いが終わり、連絡先を交換したチーム同士。

師匠ししょうって、有名?」

「拳法家の間じゃあ、知らないやつのほうが少ないぜ」

「なんで聖地に来ないのかな」

 深く考えず、農作業が好きだからだと思い、自分を納得させたヤヨイ。

 チーム・ジョーガイダンは去っていった。

「夏物の服、買いにいこうぜ」

「そうね。足手まといさんの、おごりでね」

 二人は僅差きんさで負けていた。

 タクミは中距離での反射戦法にけている。長距離戦ではが悪い。

 言い訳はしなかった。スズネも分かっている。

 何やら話しながら、買い物に出かけた二人。

「どうしよっか?」

「なんで、僕に聞くんだよ」

 ヤヨイとカケルはその後、通常弾での模擬戦を始めた。

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