第29話 カケル対ガイ

 しばらく行われた模擬戦。

 その後、部屋で歯磨きを終えた。

 四人が広場に向かうと、誰かが立っている。激しさを宿しながらも落ち着いた色。

「すっかり有名人になってるぜ。ヤヨイ組」

 太い眉毛の男性が、挨拶もせずに告げる。豪快ごうかいに笑った。

「有名って、昨日着いたばかりだよ」

 ヤヨイも挨拶せずに話した。そのあとでガイに三人が挨拶して、ヤヨイとガイも続く。

「何だっけ、チーム・ガイ……なんとかの」

「リーダーともう一人は?」

 タクミとスズネは適当なことを言った。

 十代後半のガイが宣言する。

「チームは関係ない。一対一の勝負をしに来た」

「ああ、そういうの、好きそうですね」

 カケルは冷静に分析していた。

「まずは、カケルからだ」

「え。僕ですか?」

 ガイに指名されて、深緑色ふかみどりいろの服のカケルは珍しく慌てた。

「ルールは普通でいいか?」

「普通って、模擬戦じゃないんですか?」

 赤茶色あかちゃいろの服の男性は、普通に戦う気満々だ。

 つづけて戦うなら、模擬戦にしておかないと力がもたないと説得。了承される。

 有効打を3回当てたほうが勝ち、という定番のルール。

 カケルとガイが同意した。

 円形に戦闘空間が広がっていく。

 身体からだが光の壁につつまれ、精神体に分離する。緑の服のカケルと、赤い服のガイが現れた。

 異質な空間が広がるのをやめ、光のドームが形作られた。対峙する二人。


「よろしくお願いします!」

「本気で来い!」

 ガイが叫んだ。

 カケルの撃った弾を、男性は最小限の動きでよけた。弾の速度は列車並み。

 左手に細身の剣をにぎり、構えるカケル。

 あわい光は動かない。相手に当たらない位置に、壁を設置。すこしあとにばねが作動し、消える壁。

「準備運動は終わりです」

「言ってくれるぜ」

 カケルの意図を理解したガイは、楽しそうに笑っていた。

「不意打ちで跳ばせよ、不意打ちで」

「仕方ない人ね」

 白い建物の近くに座るタクミが、正論を放った。隣のスズネは不満そうな顔。

 二人の話を聞きながら試合を見るヤヨイ。かがやく瞳で、真剣な表情。


 ガイの能力は、防御無効ぼうぎょむこうの素手攻撃。

 単純なぶん、効果も大きい。いわば全身凶器。

 下段蹴りが見えたカケルは、一歩下がる。ガイは、一歩踏み込んで突きを繰り出す。

 カケルは、左手の剣で対応する。だが、半球体の光の壁ではばまれた。攻撃の瞬間、すでに用意されていたガード。

 男性の足元に壁を設置するカケル。

 ガイは左に動く。壁の上から移動しようとして、できなかった。

 とつぜん、地面と垂直に立つものが現れた。ガイの周り四方向が、縦向きの壁でつつまれる。

 床のばねが作動し、上に跳ばされたガイ。

 すぐ上に天井がつくられ、左右の壁から伸びるばねで動きが止まった。裏面をむけた壁が先に消える。

 壁が消える時間差を利用し、冷静に弾を当てるカケル。空中に表示されている丸が減る。

「そうだよ。そういうのだよ」

 見ているタクミは、一人で盛り上がっていた。

「ヤヨイは、もっと強いですよ」

「知ってるぜ」

 カケルの言葉に笑って答えたガイを見て、少年も笑った。

 その後カケルは、ばねを使わなかった。

 左手に持つ細身の剣をガードの代わりにして、相手の攻撃を防ぎつつ戦った。

 技の切れが鋭いガイ。防御を崩せず、カケルは負けた。

「ありがとうございました!」

「面白かったぜ」

 眉毛の太い男性は、相手を認めて微笑んだ。

 さらに、ガイはスズネと模擬戦を、タクミとも模擬戦をおこなう。

「まあ当然よね」

「妥当だな」

 二人は容赦なかった。執拗しつように遠距離攻撃をくりかえし、勝利。

「遠距離にも対応できるように、修行しゅぎょうするしかないぜ」

 ガイは前向きだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る