第27話 ヤヨイ・カケル対タクミ・スズネ

「二対二でやろうぜ。列車での借りを返してやる」

「あれは、ひどかったわよね」

 タクミとスズネは、列車でのばね事件をに持っていた。

「いいけど、能力ありで?」

「わたしはなんでもいい」

 カケルとヤヨイはあまり気にしていない。

「見ろよ、この余裕。勝者の余裕だぜ」

「ぎゃふんと言わせてやるわ」

 タクミとスズネは、会話をする気がないようだ。

 結局、能力ありでの戦いに決まった。


 模擬戦が始まり、ヤヨイ以外が精神体を分離させた。

「やっぱり、余裕じゃないか」

「今のうちに、何とかするわよ」

 青い服のタクミと黄色い服のスズネは、最初から飛ばしていた。

 あたりに鏡が現れ、ヤヨイは構えた。狙われたのはカケル。

「だと思ったよ」

 ばね付きの壁を移動手段としてだけではなく、文字どおり壁として使う。鏡に反射する弾を防いだ。

「どっち?」

「タクミ」

 赤い服のヤヨイが聞いて、緑の服のカケルが答えた。

 話しながら、二人の足元に壁を多数設置。

 うえに跳ばされるのを嫌って、タクミとスズネは左右に離れる。

 ヤヨイは、壁の上を走ってタクミを目指した。

「そういう使い方かよ」

「あえて分離しなかったのね。ご愁傷しゅうしょうさま」

 タクミは意図を理解し、スズネはすでに諦めていた。

 実体を伴ったヤヨイが乗っているあいだ、ばねは作動しない。

 壁によって二人は分断され、タクミが狙われた。

「やらなきゃいけないときって、あるよな」

 タクミは、両手それぞれに棒を構える。

 壁に囲まれた中で、ヤヨイと対峙たいじせざるを得ない。

 ばねが発動したあとで壁は消える。だが、再設置されていた。地面と垂直で、ばねにも注意が必要。

 覚悟を決めたタクミは、カケルの声を聞いた。

「上だ!」

 足の横を光らせたスズネが、跳躍力ちょうやくりょくを上げて、壁を跳び越えている。

 カケルが突っ込んでいく。次々と空中に壁を設置して、ばねの反動を使う。空を飛んでいるかのような動き。

「やっぱり、やるしかないか」

「よろしくお願いします!」

 悲壮感漂うタクミとは違い、ヤヨイは楽しそうで、柔らかな表情。

 相手の連携を阻止することに成功したヤヨイたちは、勝利した。


「狭いところじゃなくても、十分反則だ、それ」

「全くだわ」

 タクミとスズネは憤慨ふんがいしていた。

「相棒が強くないと、成立しない戦術だけどね」

「えへへ」

 カケルは冷静だ。整った顔をとなりに向ける。ヤヨイは久しぶりに照れた。頬が赤い。

 見物人から拍手が起こった。模擬戦だから貰えないと全員が断る。

 結局、いくらかのお金を渡された。

 あたりは暗くなってきた。広場の上にある傘と、空の色の区別がつかない。街のあちこちでつく、灯り。


 四人は、カケルの部屋に集まった。

 能力バトルの放送を見ている。映し出されるディスプレイがあまり大きくないので、肩を寄せ合った状態。

「私たちの棒合戦のほうが、上じゃない?」

「流石に、それは言いすぎだろ」

 スズネとタクミは別の意見をぶつけ合う。

「こういうのに参加できるんだよ。僕たちも」

「ふーん」

 カケルは、ヤヨイには興味ないことだろうと思っていた。あえて言った。

「もっと強くなったら、僕は参加したい」

 短髪の少年が言った。十代後半の少年少女は、何も言わずに見ている。

「そのときは、呼んで」

「普通は、リーダーが率先してやると思うんだけどな」

 ヤヨイの言葉を受けて、カケルが意見を述べる。みんなで笑った。


 靴をき、カケルの部屋から三人が出ていく。

 ヤヨイを引きとめて、カケルが頼む。

「朝、起きてなかったら、起こして欲しい」

「うん。おやすみ」

「おやすみ」

 言われて、カケルも挨拶を返した。

 ロングヘアの少女が、自分の部屋に戻っていく。

 お風呂に入り、寝支度をして、寝間着ねまきに身を包んだヤヨイはベッドで横になる。

 いつの間にかベッドで寝ることに慣れていた。すぐに寝息を立て始めた。

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