第10話 集合体

 ヤヨイたち四人は、甲板で模擬戦をくりかえす。

 とうぜん、甲板にも能力バトル用の場所があった。濃い緑色をしたドーム。

 船のそとは見渡すかぎりの海。

 比較対象がないため穏やかそうだが、波は荒い。進行方向に陸が見える。到着には時間がかかりそうだ。

「飯、食ってくる」

 タクミが荷物を背負って、船の中に入っていく。荷物を背負って、すぐに追いかけるスズネ。

 ヤヨイも追いかけようとして、カケルに制止された。

 長身の少年は、食堂には向かわなかった。共有スペースの椅子に座って、窓の外の海を見ていた。

 隣の椅子に、スズネが座る。

「誰かと会うのかと思ったわ」

「いないよ、そんなやつ。俺がもっと強ければあるかも、な」

 タクミは軽口を叩いたが、相手のほうをあまり見なかった。


 ヤヨイとカケルが、昼食へ向かう。

 大きな船には食堂が二ヵ所あった。ヤヨイは、迷うことなく和食が食べられるほうを選択する。

 席に着く人々の中に、スズネとタクミの姿は見えない。カケルと向かい合い、左手で箸を持ち、もぐもぐと食べるヤヨイ。

 少女のまつ毛が憂いを帯びていることに、少年は触れない。よく噛んで食べる。

 食べ終わると、二人はすぐに移動した。

 白に近いクリーム色をした広場。近くにある椅子へ、荷物を置いて座る二人。

「二人きりだね」

「うん」

「これから、どうなると思う?」

「心配してるようなことには、ならないと思うけど」

 短髪の少年は楽観的な意見を述べた。すこし暗い表情をしていた少女が、普段の顔に戻った。


 スズネとタクミは、昼食を食べている。

 広い船には食堂が二ヵ所ある。国を行き来するので、当然のこと。料理の種類も味付けも違う。

 タクミは、和食がないほうを選んでいた。向かい合って座る二人。

「別に、俺に付き合う必要ないだろ?」

「付き合わない理由もないのよね」

「そう言われると、困るな」

 タクミがたれ目ぎみの目を細め、口の端を上げた。こちらの食堂のほうが人は多い。

 食べ終わった二人は、別の場所に移動した。


 ヤヨイとカケルが、別々の場所で歯磨きを終えた。

 白っぽい広場で合流する。

「模擬戦しよう」

「そう言うと思ったよ」

 ヤヨイの誘いを予想していたカケルは、広場の中心へ歩いていく。ヤヨイも続いた。

 ルールにお互いが同意。戦闘空間が広がっていく。

 カケルから精神体が分離した。

「何だよ。思ってたのと違う展開だな」

「でしょ?」

 別々の場所で歯磨きを終えたタクミとスズネは、広場の近くに来ていた。

 戦いを見つめる長身の少年。

 キラキラとした目で見つめる姿を、つり目ぎみの少女が見ていた。

「反射と高速弾の相性よすぎ」

 カケルは善戦したものの、敗れる。

「模擬戦だと特にね」

 ヤヨイが二人の姿を見つけた。手を振って近付いていく。


 四人は椅子に並んで座って、話をした。和やかな雰囲気。

 みんな、荷物を置いている。

「それでね、情報端末を手に入れるのも一苦労だったのよ」

「マジかよ。にわかには信じられないな」

 タクミは言葉とは裏腹に、微笑んでいた。

「というわけで、連絡先を交換しよう」

 にやにやしながら情報端末を取り出したヤヨイ。

 船内に放送が流れる。ピンポンパンポーンと音程を上げる、明るいお知らせ。

『ただいま、予定どおり運行しております。まもなく――』

 話が止まり、目的地に到着した。ここは北の国。

 左手で情報端末をしまって、タクミはさっさと降りていく。三人はその後につづいた。通路は降りる人専用で、人が沢山いても混雑しない。

 船の外に出たヤヨイが震える。スカートから覗くひざが、ほのかに色づく。

「寒い!」

「北半球のさらに北だから、寒いね」

「駅に行きましょうよ」

「目的地、一緒か。そりゃそうか」

 荷物の中から上着を取り出して、四人がそれぞれ着た。コンクリートの岸壁のすぐそばに、広い道が見える。巨大な船のほうを、誰も振り返らない。

 ちかくの停留所で、バスに乗り込む。右側通行。なかは暖房で暑い。全員、上着を脱いだ。

 窓の外の景色は、色鮮いろあざやか。昼下がりのひととき。

 白っぽい色の建物は目立たないため、すくないはずの派手な建物が印象に残る。赤、青、黄色。緑も多い。

 バスから降りる前に上着を着こんだ四人は、武骨な駅に入った。

 すこし暖かい待合室に行く。壁はガラス張り。

「必要な物があれば、列車に乗る前に買ったほうがいいと思う」

「近くにお店あるわね。私は買わないけど」

 カケルとスズネが意見を述べた。

 ヤヨイは、タクミを見つめている。

「もういいだろ俺は。たいして強くもないし」

「そんなことない!」

 ヤヨイが強い口調で断言した。

 周りの人には、カケルが謝っている。

「分離できないから、試したんでしょ。優しいから。だから、チームに入って」

 ヤヨイは、言いたいことを全て伝えきれていない様子。

「頑固だから、覚悟したほうがいいよ」

「誰も反対してないんだから、いいでしょう」

 カケルとスズネは微笑んでいた。

 タクミが大きく息を吐き出す。

「しょうがない奴らだな。全く」

 言葉とは裏腹に、心からの笑顔を見せた。ヤヨイに右手を差し出し、握手が交わされた。


 列車の到着まで時間がある。

 ヤヨイたちは待合室に座っていた。寒さをしのぐため。スズネが口を開く。

「四人になったことだし、チーム名を考えましょうよ」

「なんでもいいと思うけど」

 ヤヨイは興味がなかった。

 カケルが、意見を言う。

「弥翔鈴巧っていうのはどう?」

「何て読むのか分からないのは、ちょっと」

 ヤヨイは断った。

 タクミが、提案する。

「激烈ライジングスラッシュなんてどうだ?」

「うーん。意味が分からない」

 ヤヨイは拒否した。

 スズネが、主張する。

「ふわふわ桃色団にしましょうよ」

「桃色じゃないし、誰も」

 ヤヨイは否定した。

 しばらく悩んで、名前を提供する。

「ヤヨイ組にしよう。いい名前が思いつくまで、仮に」

 三人は、何かを言いたそうだった。

 列車の到着時刻が近付いてきた。ヤヨイ組の面々は移動していった。

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