逃げろ逃げろ!トランス鬼ごっこ!

ちびまるフォイ

世界はその性別によって淘汰された。

「キャーー助けてーー!!」


トランス鬼ごっこはじまると、男も女も散り散りに逃げた。

いったい誰が鬼なのかわからないので、近くの女性に聞いてみる。


「あの、トランス鬼ごっこってなんですか?」


ぽんと肩に手を置いた瞬間、女性だった人は男に切り替わった。


「うっそ!? 俺鬼だったの!?」


「うわあああ! 男になっちゃったあぁぁぁ! いやぁぁぁ!!」


元女性だった人は逃げいてった。

鬼に触られると性別が切り替わるのか。


町では追い掛け回される男に、追い掛け回す女が目に入る。


「鬼って……俺だけじゃないの!?」


全人類がオニの鬼ごっこ。

捕まった人間は性別を切り替えられる。


ルールを把握しているさなか、俺のもとに女性が走ってくる。


「まちなさい! 健全で清潔な女性社会のためにーー!」


「ひぃぃ!」


慌てて逃げると体力差がものを言って、なんとかふりきった。

逃げ切ったあとで冷静になって考えてみると、女性のほうがいい気もしてきた。


「女だとレディースデーとかで映画安く見れるし、

 みんなからちやほやされるし……あれ? 女のがよくないか?」


もしかして俺は女性にトランスできるチャンスからみすみす逃げてしまったのか。


いやいや、まだチャンスはある。

トランス鬼ごっこの期間はまだ残っているので、女を探しに戻った。


「あ、いた!」


女を見つけたので、捕まりにいくと女はものすごい勢いで逃げる。


「きゃあああ! 男になんてなりたくない! 近寄らないでぇぇ!!」


「えええ……」


まるで痴漢から逃げるような猛ダッシュで逃げてしまう。

俺が「男にトランスさせよう」と思って近づいているのだと思ったのだろう。


それに……。


「男って……人気ないんだな……」


男の俺ですら女にトランスしたいと思うくらい、

現代は男にたいして風当たりが強い。


それだけに誰も男にトランスしたいと思う人はいないんだろう。


そういえば、さっき俺を追いかけ回していた女も

"健全で清潔な女性社会のために"とか言っていた。


「あれってどういう意味なんだろう」


ネットで調べてみると、答えはすぐに見つかった。

トランス鬼ごっこを利用してすべての男を消そうという集団だった。



・男は野蛮

・男は下品

・男は凶暴

・男は不潔


=全人類は女性によって淘汰されるべきです



「す、すごいな……」


男を人里に降りたクマレベルの害獣扱いだ。

この集団が率先して男をトランスして女にかえているんだろう。


「ハッ! まさかこれハーレムチャンスなんじゃないか……!?」


おそるべき計画が頭をよぎった。


このままトランス鬼ごっこが終わったらきっと世界は女だらけになる。

ということは、俺は唯一の男になるわけだ。


まさに夢見たハーレム展開。


「こうしちゃいられない!! 絶対に逃げ切らなくては!!!」


がぜんやる気を出して、緊急用シェルターに食料を持ち込んで籠城する。

あとはここでトランス鬼ごっこが終わるまで耐えるだけ。


「身体能力が高いが増やす気のない男と、

 身体能力は低いが増やそうとする女……。


 ふふふ、トランス鬼ごっこの結果が楽しみだ」


男にトランスさせようとしてない以上、男が増えることはない。

数の暴力で女が増え続けるにまちがない。


味気ない食事を取りながらも、ハーレムを夢見てシェルターの中で暮らす。



 ・

 ・

 ・


『人類のみなさん、お疲れさまでした。

 トランス鬼ごっこは終了です。

 新しい性別で新たな人生を楽しんでください』


ついにトランス鬼ごっこが終了した。


シェルターに隠れ続けた俺は無事自分の"男"という性別を守り切った。

いまやこの世界には男が俺しかいないだろう。


「よっしゃああ! ハーレムのはじまりだぜ!!」


シェルターを出ると世界は激変していた。

性別はひとつに淘汰され、男は俺しかいなくなっていた。


「あら、かわいい男がいるわぁ」

「貴重な男よ!」

「かわいがってあげちゃおうかしら」


「あ……そんな……」


そいつらと目が合ったとき、大事なことを見落としていたと気付いた。



「「「 つ゛か゛ま゛え゛ろ゛ぉぉぉ!!! 」」」



この世界に性別は3つあったことに。


男と、女と……。


「つかまえたぁぁぁあぁ!!!」


「た、助けてぇぇ!!!」



オカマ。


世界は圧倒的な身体能力のオカマにより蹂躙されきっていた。

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