第33話 いろいろな、恋の歌 2

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 メインストリートは観光客で溢れていた。カメラマンと多くの大人を引き連れて歩く私達を、道行く人が振り返る。日本人も多くいて、スマホのカメラが向けられた。私と朔はそれに笑顔を向けてみたり、手を振ったりする。朔の表情はそこまで動く訳じゃないけどなんだか楽しそうにしていたし、嫌な時には顔を顰めて逃げるはずだから仕事の一つだと割り切っているのかもしれない。

「おいなんか……黄金の人がいる」

「これ、コイン入れたら動いてくれるんだよ!」

 道の途中で、生きた金ぴかの像を見つけた。目の前のボックスへクォーターコインを音が鳴るようにして放り込んでみる。

「うぉっ。動いた!」

 朔と二人、大喜びで笑いながらパフォーマンスを眺め、終わるとまた歩く。散歩だけでもかなり楽しめて、途中で見つけた路上フラダンスショーを見たりしていたらかなりの時間が経っていた。そろそろ帰って休みましょうと声を掛けられ、明日に備えてホテルへ戻った。



 二日目は車で遠出をするらしい。朝起きると既にレンタカーが手配されていて、ハンディカムを渡された。ハワイはアメリカだけど、国際免許がなくても日本の免許で運転しても良いんだって。

「やばい。日本との違いが怖くて超緊張」

 運転手は旭さん。助手席では翔平さんがカメラマンをしている。広瀬さんとスタッフさん達は別の車で追い掛けて来るんだって。

「ねぇ運転手さん。私達の目的地は?」

「ガーリックシュリンプ、目指しまーす」

 目的地はノースショア。ガーリックシュリンプも食べたかったからとっても楽しみ!

「あれも食いてぇ、レインボーのカキ氷。あとパンケーキ」

「朔、食べ物ばっかだね。お腹空いてるの?」

「今はまだ。でも多分すぐに減る」

 朝もかなりガッツリ食べてたはずなのに、若さってすごい。

「お姫さーん。こっち向いて」

「イェーイ! これ、ちゃんと撮れてるの?」

「任せてよ」

「貸して、私も撮ってあげる!」

 翔平さんからカメラを受け取って、ちゃんと録画されているか確認してみる。ハンディカムの液晶には録画のマークが点灯していたから、私はカメラを構えた。笑顔で手を振る翔平さんを映した後で、ハワイの道路にも慣れて来た様子の旭さんを撮る。実況を交えながら、ガイドブックで見た有名処を通過する時には窓の外へカメラを向けた。

 外を映す事にも飽きて来て、退屈しのぎに朔の顔をどアップで撮ってみたら手の中のカメラが奪われてしまった。

「こっち向け」

「やだ。近い!」

 仕返しで向けられたカメラのレンズは至近距離。

「自分だけ逃げられると思うな。観念しろ!」

「やだってば! 朔のばか! 翔平さんヘルプ! ヘルプミー!」

「流石お姫さん、発音超良いね。けど残念助けなーい」

「敵だった!」

「おいその辺にしておけ。カメラ壊れるぞ」

 バックミラー越しに旭さんに注意され、朔はやっと引き下がってくれた。

 車中は終始大騒ぎ。目的地に着いてから確認の為録画を見たスタッフさん達には笑われてしまった。「いつも君らってこんな感じなの」と聞かれ、四人揃って頷いた。でも勘違いしないで欲しい。ふざけてばかりいる訳ではありません。ちゃんと真面目な時だってあるよ!

 景色も良いし、ガーリックシュリンプはとっても美味しかった。イルカも見た。鯨は時期が微妙だと言われたから諦めて、車であちこち回って二日目は終了。明日は海で一日遊ぶ予定。


「見て見て! 可愛い?」

 三日目の朝。集合場所のホテルのプールで見せびらかすように私は一回転。

 昨夜広瀬さんや女性のスタッフさんと一緒に水着を買いに行ったんだ! ターコイズブルーと紫の、色の配置が綺麗なセパレートタイプの水着。紐を結んで着るからちょっとセクシーだけど、とっても可愛いの。

「最高だ、姫!」

「眼福だぁ。お姫さん、あなたについて行きます」

「色っぽ過ぎじゃねぇか?」

 朔のは朔なりの褒め言葉として受け取っておいた。

 号令を掛けて、四人で準備体操。体を解したらみんなで海へ飛び込んだ。サーフィンに挑戦してみたり、ウミガメを発見して大騒ぎしたり。仕事兼休暇を満喫した私達は、ハワイに別れを告げ飛行機に乗った。だけど私だけ別行動。空港でチェックインしたのは日本行きの飛行機ではない。悟おじさんから許可をもらい、寄り道で洸くんに会いに行く。

「どうしてみんなまでこっちに来るの?」

 私だけが別行動のつもりだったんだけど、何故か三人がついて来た。

「お姫さんのボディガードだよー」

「朔が着いて行くって言い張るからさ。社長からお目付役を仰せつかったんだ」

 旭さんからの説明を聞いた後で朔へ視線を向けると、ふいっと顔が逸らされる。

「過保護だなぁ」

 私は朔の額を右手の中指で軽く弾いた。

「……うるせぇ」

 一緒に来れば朔はまた傷付く。でも、それを決めたのは朔だ。

「ねぇ朔。私は朔を、選ばないよ」

 私が失うのは、朔への恋心。音に恋したあの日、あの時、きっと私は落ちていた。許されない、芽生えてはいけなかったもの。

「それで、構わない」

 まっすぐに朔は、私を見る。私も朔を、まっすぐ見つめ返す。

 出会った順番だとか、そんな事は関係ない。私は自分の気持ちを見つめて、ちゃんと選んだ。だからこそ私は洸くんに会いに行く。会って顔を見て、たくさんの言葉と想いを交わしたい。

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