次の日、寺子屋に向かうと、急展開な出来事があった。

「何か、この寺子屋で、内緒でお金を稼いでいる人がいるらしいよ」

「え~」

(! 私たちか?)

 ふと、そう思うと、前の人は。

「しかも、なんか、かなり稼いでいるみたい」

「へ~」

「先生がその子を放課後呼びつけるってうわさ」

「うわさだろう」

「まあね」

(うわさか)

 うわさは、本当じゃないこともあるので、信じないようにしよう。

 そう思ったが、やっぱり気になる物で。

「花ちゃん、うわさ知っている?」

「うん、やっぱり、私たちの事かな?」

「そうだよね」

 二人で沈んでいた。


  ☆ ● ☆


 その日の放課後、呼び出されたのは。

「宮さん、少し来ていただけますか?」

 何とお宮様だった。

「はい」

 お宮様は素知らぬ顔で先生と消えた。

「うそっ、商売って、お宮様が? そんなことするわけがないじゃない」

「そうだよ、金持ちだもの」

「危険を犯してまでやることじゃないよね」

「所詮、うわさか」

「だれ? うわさ流したの? どうせ、お宮様の事だから、寄付の話で呼び出されただけだよ」

「そうね」

 みんなが、お宮様はシロだと決めつけていた時、私は気が気じゃなかった。

(あのね、お宮様は、商売しているの)

 心の中で、ザワザワともやが集まってくる。

(ばれてしまった。十兵衛姫は解散だ)

 冷や汗が伝る。

「みんな、帰ろうぜ」

「おう」

 人がいなくなる。でも、体が動かない。

「あっちゃん、青ちゃん」

「はい!」

「大丈夫?」

 隣の席の女の子が声をかけてきた。

「昼だけど、貧血とか?」

「ちがうよ」

「でも、顔色青いよ」

「!」

(私は、怖い、十兵衛をなくすことが……)

 心の中で、じわっと痛みが広がる。

(こんなに大切になっていたなんて、知らなかった……)

 自分の気持ちに初めて気が付いた。

(私に取って、『十兵衛』は大切な物なんだ)

 そう思うと涙が込み上げてくる。

「青ちゃん!」

 隣の席の女の子が心配してくる。

「大丈夫だよ」

 涙をぬぐって、無理やり笑顔を作る。

「本当に大丈夫? やっぱり、顔色悪いよ」

「大丈夫だって」

「私が、家まで連れて行くわ」

 花ちゃんがそう言って手を差し出した。

「お願いね、花ちゃん」

「うん、任せて」

 帰りは花ちゃんと手をつないで帰った。

「十兵衛姫無くなっちゃうのかな?」

「どうかな?」

 花ちゃんもよく見ると渋い顔をしている。

(平気そうだけど、平気じゃないんだ)

 そう思うと少しだけ心が温かくなる。

「たぶんね、大丈夫だよ、青ちゃん、お宮様なら、素晴らしい言い訳を考えていそうじゃない?」

「どうかな~、お宮様は少し甘いから」

「あっ、なんか、それ分かる、詰めが甘いよね」

「そうそう、いつも、何か足りなくてさ」

「自分は、なんでもできると思っているみたいだけど、分かってないし」

「でも、そんなお宮様がいたからこそ、今があるんだよ」

「そうだね」

 少し落ち込んでしまった。

「明日になったら、ひょっこり、別の名前で続けるとか言いそう」

「ああ、そうかもね」

(お宮様なら、やりかねない)

 心のどこかでそう思った。

(十兵衛じゃない名前か……)

 別に十兵衛にこだわる必要などないのだ。

(でも、何か嫌だな)

 今までの活動の思い出は、十兵衛姫の物で、それが無くなるような、そんな感覚を感じていた。

「その時は、好きな名前付けようよ、夢美とか、紅姫とか、かっこいい名前は、一杯あるよ」

「そうだね」

 少し、花ちゃんが、十兵衛姫を捨ててもいいと持っている事にショックだった。

(まあ、仕方がないか、花ちゃんなりの、なぐさめなのかもしれないしね)

 そう思う事にした。


  ☆ ● ☆


 家に着くと、お母さんに。

「お宮様が、つかまっちゃった」

「何をしたの?」

「寺子屋に無許可でお金を稼いだとか」

「青、別に、それは、悪い事じゃないし、先生が怒ることでもないわよ」

「えっ?」

「お金を稼いだって、いいのよ」

「え~!」

「貧しい家の子は、普通に稼いでいるわ、きっと別な理由で呼び出されたのよ」

「じゃあ、ただのうわさだったの」

「たぶんね、でも、犯罪でお金を稼ぐのはだめよ、盗みとかさぎとかね」

「それは、当然だよ」

「わかっているならよろしい」

(でも、それじゃあ、なんで呼び出されたのかな?)

 話が合わなくなる。

(でも、悪い事じゃなさそうだし、明日きくか?)

 呑気にそう思っていた。

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