そして、次の日の朝。

「おはよう」

「おはよう」

「お宮様、すごい髪形」

「ええ、私は、生まれつき髪が人より多いの」

 ぼわっと広がった頭を見てつい、笑ってしまった。

「そうなの、おもしろい」

「仕方がないでしょう、生まれつきなんだから」

 お宮様が怒っている。

「まあまあ、髪の毛とかそう」

「ええ」

 くしでなんでもとかすと、いつものお宮様になった。

「これで、大丈夫」

「うん、そうだね」

「でも、朝の姿みた? すごく、おもしろかったよね?」

「花ちゃん、その位でやめておいた方がいいよ」

「どうかしら」

 お宮様がいかくすると。

「はいはい、ダメよ、けんかしちゃ」

 お母さんが止めに入った。

「仲良くしなさいね、今日は、寺子屋が休みだから、本の最終検査をやってしまいなさいね、なにか不備があっても、貸してからでは直せないからね」

「「「は~い」」」

 三人で、部屋で、本の最終検査をした。

「うん、間違いなし」

 お宮様がそう言って、本を閉じる。

「絵もすれてないわ」

「そう、それなら、今日にでも並べられる? 新着本は、あればあるほどもうかるからね」

「ええ、まあ、そうだよね」

「でも、もう少し落ち着いて読んでみようよ」

 三人の感性が少し信じられなくなってきていたのだった。

「また、売れなかったら、どうする?」

「そうね、悲しいわね」

 お宮様も暗くなる。

「お宮様は、売れなくても、何回も書くって言っていたじゃない、それに、今回は、大丈夫だよ」

「そうね、今回売れなくてもあきらめるつもりはないんだったわ」

「お父さんに読んでもらおう」

「そうね、青さんのお父さんは、十兵衛だもんね」

「うん」

 番台にいるお父さんに見てもらうと。

「ふんふん」

 すぐに読み終わり。

「少し、刺激が弱いが、童話や文学としては、いい方だろう」

「それで、売れますか?」

「一定の層には、売れる、こういう物を好きなやつは、何十人かはいる」

「そうですね」

「いい本だ、がんばったな、三人共」

「うん」

「「はい」」

 少しうれしくなっていると、お母さんが。

「開店するから、手伝って」

「待って、お母さん、これを新着棚に置いて」

「えっ、新作できたの? もう少し先かと思っていたのに」

「今、出来上がったんだよ、今回は、借りてもらえるかな?」

「きっと、大丈夫よ」

 お母さんは、新着棚の所へ、本を持って行く。

(今度こそ、売れますように)

 強く強く祈った。

「青、信じてあげて、三作目だもの、そろそろうまくいくわ」

 お母さんは、そう思いたいのだと思った。

「ところで題名が『ざしきわらし』って、本当に寺子屋物語なの?」

「うん、後で読んでみて」

「ええ、借りられなければね」

 そう言って、店を開けた。中に人が入ってくる。

「いらっしゃいませ」

 みんな、本を手に取りパラパラめくっている。

「新着棚はどこかな……おお! 新着本入っているな」

 そう言って、新着棚の方へ行く人が数人いた。一人が『ざしきわらし』を手に取った。

「おもしろそうだな」

 そう言って、棚から取った。

(うそ、もう売れそう)

 そして、ドキドキしていると、その男性は、『ざしきわらし』を借りて行った。

「うそっ」

「売れた……」

「早いね」

 三人で顔を見合わせる。

「私たちの本が認められたの?」

「そうだよね」

「待って、前みたいに気まぐれかもしれないわ、慎重に」

「うん」

 それでも、三人の心のワクワクは止まらなかった。

「今度こそ、おもしろいって言ってくれるかな?」

「どうだろう」

「大丈夫よ」

 お母さんが笑顔でそう言った。

(大丈夫な気がする)

 ドキドキが止まらなかった。


  ☆ ● ☆


 その日、昼ご飯を食べながら。

「やっぱり、寺子屋物語にしたからよかったのよ」

 偉そうにお宮様が言う、もう、おもしろいと言われた気分でいるようだ。

「全部青ちゃんの考えでしょう」

「……そうですけど、私たちも協力しましたわ」

「まあまあ、お宮様、花ちゃん、その位でやめておこう」

「青ちゃんが一番冷静だね」

「だって、がんばったから、自信があるの、自信があるときは、人は騒がないんだよ」

「やっぱり、そうよね、自信があるのよね」

 お宮様に肩を叩かれた。振り返ると笑顔のお宮様がいた。

「私たちの新作は、大売れ間違いなし」

 お宮様が喜んでそう言う。

「じゃあ、みんながいない時に返しに来たら、感想聞いておくね」

「お願いします」

 おにぎりをほおばって、お茶を飲みながら三人で向かい合った。

「この味にも慣れたわね」

「お宮様にも庶民の味のよさが分かったって事ね」

 花ちゃんは、やれやれと思いながらそう言ったようだった。

「酸っぱいうめぼしも、苦いお茶もなかなか味があると思うわ」

「そうでしょう」

 うれしくなってそう言うと。

「あら、味はあるけど、家の物の方がおいしいわ」

「……やっぱり、そうなんだ」

 落ち込んでいると、花ちゃんが。

「青ちゃん、落ち込まなくていいのよ、どうせ、私たちは、高級品の方が合わないから」

「そうかな~おいしそうだよ、酸っぱくない梅干しと、苦過ぎないお茶」

「そんなことないわよ!」

 花ちゃんの意味の分からない対抗意識にすぐに頷けなかった。

「青さん、花さんは、皮肉を言ってらっしゃるのよ」

「皮肉って、そんなこと言わないよね、ね、花ちゃん」

 花ちゃんは、こちらを見て、皮肉を言ってやったと言う顔をしていた。

「皮肉だったんだ、花ちゃんもそう言う事言うんだね」

 花ちゃんを白けた目で見た。

「何、その目、私が悪いの?」

「えっと、仲良くしようよ」

「そうよ、仲良くしましょう」

「仲良くしているけど、悔しい時もあるの!」

「お金持ちの自慢がいけなかったんだよ、お宮様」

「でも、ついね」

「聞こえているわ」

 花ちゃんは、怒っている。

「貧乏だって楽しいのよ」

「強がりね」

「うん」

「本当は、高級梅干しと高級なお茶が飲みたいのね」

「……そうです」

 花ちゃんは、割とあっさり負けを認めた。

「いいな~お宮様は、お金があって、私たちは、好きな物を好きな時に買えないし、高い物は食べられないから、お金持ちに憧れるわ」

「まあ、私のお金は、私の物じゃないけどね」

「そうよね、お宮様の物じゃないもの、自由には使えないよね」

 花ちゃんは、お茶を飲んでそう言った。

「まあ、買ってとお父様に頼めば、何でも手に入るけれどね」

「そうなの?」

「いいな~お金持ち、欲しい物手に入ってるじゃん」

「でも、青さんみたいな発想は手に入らなかったわ」

「そんなことないよ、お宮様なら私より、あっと驚く話を書くこともできるよ」

「そうでもないわ」

「青ちゃんは、才能があったんだよ」

「そうなのかな?」

「よかったじゃないの、ね」

「そうね」

「そうかもね」

(でも、こんな才能何にも役に立たないけどな~)

 それでも、お宮様が欲しいと言う姿に悪い気はしなかった。

「ところで、私たちここで集まっていてもしょうがないわ、帰りましょう」

「そうね」

 お宮様と花ちゃんは帰って行った。

 そして、お母さんと話をした。

「今回の本、結局お母さんは読めなかったわ」

「そうだったね」

「その代わり、みんなが元気になったわ、その方が大事なのよ」

「うん、私もそう思う」

 ニコニコしてそう言うと。

「いい笑顔ね」

 頭をなでられた。

「だって、書きたいものが書けたんだよ、うれしいに決まっている」

「書きたいものは、必ず読む人の読みたいものとは限らないと言う事を忘れないで欲しいわ」

「うん」

「忘れているみたいな顔よ」

「そうかな?」

「浮かれていると足元をすくわれる可能性だってあるわよ、気を付けてね」

「そうなの、うん、気を付ける」

 顔を引き締める。

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