次の日、寺子屋に花ちゃんと行く。

「あれから、考えたんだけど、どんないいことが起こるかをさ」

「う~ん、そう言えば、考えてなかったね」

「そうでしょう、それで、富くじに当たると言うのはどう?」

「富くじって、お金や食べ物が当たる、あれ?」

「うん、いい事でしょう」

「そうだけど、何か違うな」

「ひねりがないって事?」

「うん、少しね」

(花ちゃんは、一所懸命考えてくれたのだ。お礼を言っておくべきか?)

 少し考えていると。

「お宮様」

 入り口でお宮様と会った。

「おはよう」

「「おはようございます」」

「二人共、さっそく、本の話をしていたのでしょう? 私も色々考えてきたのよ」

 お宮様は、張り切ってそう言う。

「急にテストの点数が良くなるとかはどうかしら?」

「それも、何か違う気がする」

 私は、何か突っかかった。

「青さん、何でダメなの? 充分おもしろいと思うのだけど、やっぱり、違うの?」

「ダメって言うか、驚きがない気がする」

「なるほど、驚きね」

 お宮様は考え始める。

「とりあえず、教室へ行こう」

 三人で歩いて行った。いつもの席に着き、教本を広げる。

(あっと驚く展開か~それって、かなり難しいよね、ありきたりなものではダメだしな~……)

 授業も上の空だった。


  ☆ ● ☆


 寺子屋の帰りに『十兵衛姫』は、私の家に集まる。

「青さんが納得のいく作品にしましょう」

 お宮様は、そう言って、座っている。

「うん、いいと思う」

 花ちゃんも頷く。

「それじゃあ、企画書と行こうか」

「うん」

「例えば、私たちのような子供でいい事って?」

「一文拾う」

「試験の山が当たる」

「風邪をひかないとか?」

「風邪?」

「青ちゃん、風邪をひかないとラッキーなの?」

「うん、だって、みんなに会えないし、寝ているのってつまらないし」

「そうだね~、嫌だね~」

「それなら、風邪が流行っている寺子屋で、五人位だけ風邪をひかないとかはどう?」

「なんで、一人だけじゃないの?」

「そっちの方が、現実的だから」

「まあ、そうだね」

 全員で風邪をひくのは、おかしい気もする。

「他には?」

「う~ん、やっぱり、お金は拾いたい」

「そうよ、思い切って、一貫手に入れるのは?」

「それなら、お金持ちを助けると言うのはどう?」

「お礼のお金みたいなの?」

「うん」

「それなら、違和感もないね」

「なんだか、青ちゃんにばかり、話を考えさせちゃっているね」

「そんなことないよ、みんながくれるきっかけがないと、思いつかない物」

「私たちも役に立っているのよ、花さん」

「そうだよね」

 花ちゃんは、小さく笑った。

(みんなの意見を否定してばかりではダメかな?)

 十兵衛姫は三人なのだから。

 少し落ち込んでいると、お宮様が。

「何、しょげているの、私たちの意見を一々通さなくても、青さんの意見の方がいいなら文句はないのだから」

 お宮様は、気を使ったようにそう言った。

「でも……」

「青ちゃん、私も青ちゃんを悪いなんて、思わないよ、だから、妥協なんてしないで!」

「そうかな?」

「もちろんでしょう、妥協しておもしろくなくなったら、意味がない物」

 お宮様が胸を張る。

「二人がそう言うのなら、ビシビシ行くよ」

「うん」

「はい」

 二人は笑顔だ。

(気にしなくていいんだよね)

 開き直り、また企画出しに戻る。

「そうね、ざしきわらしは、家に憑くのだから、野菜が実るとかはどうかな?」

 花ちゃんがそう言った。

「そうだね、枯れかけていたものが実を付ける、まさに奇跡ね」

 お宮様も頷く。

「それじゃあ、風邪をひかない、お金持ちを助ける、野菜が実るがいいことでいいわね」

「うん」

「いいと思う」

「いい話になりそう」

「そうだね」

 私は、ワクワクしていた。

「それじゃあ、大まかな内容を書きますか」

「うん」

『ある時、引っ越してきた女の子が、隣の席に座った。慣れないだろうから、親切にするといいことが起こるようになった。一つ目は、風邪をひかない、二つ目は、お金をもらう、三つ目は野菜が実る、あまりにもいいことが起こるので、隣の席に子に言うと、『私のおかげだよ』と笑う。そして、寺子屋の人にその子の存在を聞くと、誰も覚えておらず、その日から姿を現さなくなった』

「こんなのでどう?」

「いいと思う」

「すごく物語って感じがするよ」

「最後、姿を消して、ざしきわらしだったんだって主人公がわかるところがいいと思う」

「うん、私もそう思う」

 花ちゃんもお宮様も興奮している。

「確かに、私の出した案じゃ、いま一つ味気なかったね」

「青ちゃんの意見を使うとこんなにステキになるんだ」

「青さんは、やっぱり才能があったのでしょう」

「そうだね」

「そんなことは無いよ」

 少しうれしくなってしまった。

「さあ、初稿と行きましょう」

「そうだね」

 筆を持って文字を書いていく。


  ☆ ● ☆


 数時間後、初稿が出来上がった。

「どれどれ」

 お宮様が読む。

「ふむふむ」

(人に読んでもらう時ってドキドキする)

 心の中でそう思っていた。

「うん、いいわね」

「本当?」

「もちろんよ、後は、花さんと挿絵を描きましょう」

「うん、今度は、私の番、みんなが手に取るいい絵を描くね」

 花ちゃんは、そう言って筆を持つ。さっさと絵を描きだした。

「これがざしきわらしよ」

 おかっぱで黒い髪をしていて、地味な着物を着ている。

「う~ん、これじゃあ、みんな、気になっちゃうんじゃないかな?」

「でも、視えないって設定だし」

「そうだよ、主人公にしか見えないんだよ、気を引く姿の方がいいよ」

「そうかな? まあ、このままで行こう」

「そして、主人公」

 書き上げられた絵は、平凡な女子と言う感じだ。模様の無い黄色の着物。一つに結った髪、顔立ちは美人ではなく、一重でほっそりしている。

「いい感じだね」

「そうでしょう」

「楓の時は、美人だったから、花ちゃんが、こんな風に書けるって知らなかった」

「楓は、美人と言う設定だったでしょう、だから、花ちゃんは、美人に盛っていたのよ」

「まあ、そう言う事よ」

「そうだったわね」

 三人でてんやわんやしていたら、あっという間に夜になっていた。

「うそっ、もうこんな時間」

 夕日も隠れてしまっている。

「親に怒られる」

 花ちゃんが、震えている。

「みんな、終わったかしら」

 お母さんの声がした。

「うん、でも、こんな時間になっちゃってる」

「いいのよ、二人共、今日はうちに泊まるのだからね」

「えっ?」

「お宮様の家にも、花ちゃんの家にも、勉強会をするからって言っておいたわ」

「本当ですか?」

「ええ、まさか、あんなに一生懸命本を作っているのに、止められないわよ」

「えっ……、じゃあ、まだ作れるって事」

「そうだね」

「よし、やるわよ」

「みんな、楽しそうね」

 お母さんは、笑顔でそう言う。

「うん、楽しいよ」

 二ッと笑った。


  ☆ ● ☆


 そして、数時間後。

「三人で寝るわよ」

「うん」

「布団が薄い」

 お宮様がそう言う。

「せんべい布団になれておかないと、庶民の気持ちが分かりませんよ」

「それは、恥ずかしいわ」

「それなら、おとなしく眠って下さい」

「でも、なんか、ワクワクして眠れないよね」

 花ちゃんがそう言う。

「うん」

「実は、私も」

「ええい、枕攻撃」

「うわっ、やったな」

 しばらく枕投げをした。ところが。

「みんな~、眠った~?」

お母さんのこの一言で静かになったのだった。

「いい加減寝よう」

「そうね、もう遅いし」

「後は、明日、本は、紐を通して、間違いがないか確かめて、置いてもらおう」

「うん」

「楽しみ~」

 三人でワクワクしていた。

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