次の日、寺子屋に行く準備をする。

「青ちゃん」

 花ちゃんが迎えに来た。今日は、花ちゃんのかんざしは、菜の花だ。いつか構図を描いていたものが作られたのだろう。

「今、行くね」

 階段を下りて行くと、花ちゃんが心配そうにしていた。

「青ちゃん、大丈夫? 昨夜は寝れた?」

「もちろん」

 私は、明るく返事した。

「よかった。大丈夫そうだね」

 花ちゃんが安心した様子でそう言う。


  ☆ ● ☆


 寺子屋に着くと、お宮様を探した。

「今日、お宮様はいないの?」

「来ないみたい」

「えっ……」

 そして、寺子屋の授業が半分終わる時までに、お宮様は、来なかったので、結局休みと言う事になった。

(私があんなことを言ったせいかな? それなら、私が悪いよね? 謝らなければいけないかな?)

「青さん、青さん、次の文を呼んでくれませんか?」

「えっと、はい」

 先生の声にはっとした。

(いけない、今は、授業中だ)

 そして、お昼の時間に花ちゃんと向かい合って昼ごはんを食べる。

「花ちゃん、卵焼きいいな~」

「青ちゃんのおにぎりもおいしそうよ」

「毎日おにぎりって、芸がないよね」

「まあね」

 くすくすと花ちゃんが笑う。

「それで、青ちゃん、お宮様をどうしようか?」

「う~ん、家に行ってみる?」

「う~ん、そうするか……あんまり行きたくないけどね」

 花ちゃんも、うなってそう言う。

「お宮様、あれで、傷つきやすいからね」

「布団の中で意地張ってそう」

「私もそう思うよ」

 花ちゃんと笑い合った。


  ☆ ● ☆


 そして、お宮様の家へ向かった。

「相変わらず広い」

 瓦屋根の塀がどこまでも続いているかのごとくに見えている。

「門番さん、お宮様へお見舞いに来ました」

「あなたたちは、この前のご学友様」

「はい、学友です」

「中へどうぞ」

 あっさり通されて、お宮様の部屋へ、立派な庭を抜けて行った。咲いている花が、微妙に変わっているので、庭師さんがまた仕事をしたのだと思った。

(お金持ちの家は、花も買い放題なんだな)

「お宮様~来たよ~」

「その声は、花さんか、入っていいわよ」

 中に入ると、お宮様は、布団を被っていじけていた。

(やっぱり)

「お宮様」

「なんだ、青さんも一緒だったのですか」

 布団から声がする。

「あのね、やっぱり、十兵衛姫は、休止しないことにします」

「本当に!」

 がばっと布団から出てきた。

「はい、だって、私たち負けて下がったんじゃ負け犬ですよね?」

「そうよ、だから、勝つまでやるのよ」

 お宮様は、力強くそう言った。

「勝つまで何年かかってもやりますか?」

「ええ」

 お宮様は、開き直ったようにそう言う。

「ところで、休止じゃないって事は、三冊目を書くのかしら?」

「ええ」

「それで、内容は?」

「寺子屋物語です」

「「!」」

 花ちゃんとお宮様は驚いている。

「だって、読者は、大人でしょう」

「だから、あえてです。お母さんが言っていました。貸本屋の中には、寺子屋物語は、よくあるのだと、大人の読者も昔は子供だったのだから、昔の事を思い出して、盛り上がったりするみたいだよ」

「そうなの?」

「そうかしら?」

 お宮様が頭を使っているが。

「今まで、私は、寺子屋物語の本に出会っていないわ」

「お宮様は、かわいい系の本しか読んでいないじゃないですか」

「……そうね」

 お宮様の目が泳ぐ。

「それより、寺子屋物語でいいのなら、私たちらしい作品が書けるわね」

「そうよ、がんばりましょう」

「そこで、一つ問題があってね」

「何?」

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