そして、次の日になり、寺子屋に行く時間が来た。

「花ちゃん、おはよう」

「おはよう、青ちゃん、昨日は風が強かったね、私の家もガタガタ鳴っていたわ」

「うん、そうだね、私の家もそうだったよ」

(まさか一人で眠れなかったなんて言えない)

 心の中でそう思っていると、お宮様がいた。

「おはよう」

「「おはようございます」」

「あれから、夜、怖い夢をみたの」

「なんだ。お宮様もか」

「人の形をしたおばけが、本物みたいで、青さんの言った通りだったから、とっても楽しかったわ」

(楽しかった?)

「あんなに鮮明に見れるなんて、中々ないわ、青さんの考えはすごいのね」

「えっと、私は、思ったことを言っただけだから、そんなに持ち上げても何も出ませんよ」

「そんなこと期待していないわよ、私は、もうすでに、あなたの小説を好きになりそうという事よ」

「ええ~」

 お宮様は、急に不思議なことを言う。

「私のは、小説なんかじゃないよ」

「そうかしら?」

 お宮様は、しつこく追いかけてくる。

(どうしよう、本当に書かせられる)

 逃げていると、花ちゃんが笑いながら。

「二人共、仲がよさそうね」

 そう言ったので、何だか恥ずかしくなって止まった。

「そうだ。お宮様! 友達には、なってあげるよ」

「そう、原稿も書いてくれると嬉しいのにな~、友達のお願いだもの、聞いてくれるわよね」

「え~と、それは……もう少し考えさせて」

 私は、恥ずかしくなって、席に座った。

「それでは、授業を始めます」

 先生が丁度よく入って来た。

(よかった)

 ほっとしていると、お宮様から手紙が回って来た。

『書いてみるだけ、書いてみようよ 宮』

(う~ん)

『わかりました 青』

 そう書いて回した。


  ☆ ● ☆


 そして、放課後、お宮様と家に帰った。

「それでは、設定を決めましょう」

「はい、怖い話です」

「そう、出てくるのは、人の形をしたおばけですね」

「嫌だけど、そう」

「それでは、書きましょう」

「はい」

 そう言って筆を持つ。

『雲の出る夜、一人の男が外を歩いていた。そこに見えたのは、血を流したおばけだった。肩に刀が刺さり、恨めしそうにこちらを見ている』

「こんな感じ?」

「唐突過ぎない、もう少し前振りを入れて」

「えっと」

『明かりが消えて静かになった夜。霧が出てきて、どこからともなく気持ちの悪い風が吹く』

「こう言うのは、どう?」

「いいわね、青さんは才能があるわ」

「そうかな?」

「それで、この後は?」

「まったく考えていないんだけど」

 私は、正直にそう言った。

「これだけで本にしようと思ったの?」

「う~ん、そうでもないけど」

「本づくりの道は険しいのよ、がんばりましょう」

 お宮様は、増々張り切っていた。

「はい」

 泣く泣く頷いた。

「それじゃあ、章を作るのはどう?」

「章?」

「たとえば、一、おばけと会う。二、おばけに追いかけられる。みたいな物よ」

「それは、いいかも」

「まあ、それは、手伝うわ」

 お宮様も筆を持った。

「まず、このおばけに何のうらみがあったか? だと思うわ」

「刀で刺された恨み」

「なぜ、刀で刺されたの?」

「そう言えば、分からないね」

 二人で頭をひねっていた。

「そうよ、壺を割った罰よ」

「壺でそうなるの?」

「私の家では、壺を割ると、死ぬほどの罰を与えられるの」

「そうなの」

 安物の壺しか見たことのない私に取って、それは、なんのことだかわからなかったのだが。

(お宮様が言うんだ。刺されるくらいの事なのね)

 心の中でそう思い、三章に、壺を割ると書いた。

「少しは、小説っぽい感じが出たわね」

「そうかな?」

 私は、少しもそう思わなかった。

(本当に、これでいいのかな?)

 なぜだか、喜べないのだ。

「どうしたの? 青さん」

「いえ、何でもないです」

 口では、そう言ったが、不安をぬぐい切れなかった。

「じゃあ、次は、この男がなぜおばけに会ったのかを決めましょう」

「そうだね」

(何か違う、何かが突っかかる)

 心の中でそう思うのだった。

「そうね、この女の人の雇い主って言うのはどう?」

「雇い主ね、じゃあ、この刺された女の人は、使用人か」

「そうなるわね」

 そう決めた途端、何かがほどけた気がした。

(そうか、矛盾が気になっていたのかな?)

そう思うと、納得がいく。

「なんだか、青さんと考えると、おもしろい話が出来そう」

 お宮様は目を輝かせてそう言った。

「そうかな」

 少しうれしかった。

 その後も話し合って、半分まで内容が決まった。

「おもしろいよ、これ」

「うん、早く書きたい」

「完成したら、花ちゃんに見せよう」

「そうしたら」

 お宮様も賛成してくれた。

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