準備 ディラックの海に向けて

波が粒子で粒子が波で、の量子力学の入門を超えると、いよいよ相対論的量子力学へと漕ぎ出してゆくこととなる。

といっても小難しい話は置いといて、量子もつれや反物質といった、現代SFにはたまらないテーマを扱って行ければ、と考えている。


そういった内容に深くかかわってくるのが、「ディラックの海」と呼ばれる概念である。詳細は後の章で扱うことにして、ここでは、「ディラックの海」を理解するうえで手助けとなる、理数的な認識をちょっぴり整理させていただきたい。

ちょ、待って、石を投げないで。難解な公式を紐解こうってわけではありませんから。


***


興味のない方はいつも通り読み飛ばしていただきたい。

中学時代を思い出していただきたいのだが、なぜ、


マイナス×マイナス=プラス


になるのか、ということに悩まれた経験はないだろうか。


『不足』×『不足』=『充足』という、小学算数と中学数学の間を、量子数のごとく不連続に断絶しているトリック(?)を通して、そも「マイナス」とは何なのか、ということを見ていこう。


「マイナス」、というと、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか。


借金? 負債? 赤字? ちょっとご遠慮願いたいものばかりだなー。


上にあげたのは金銭的なものばかりだが、おおむね、「マイナス」は「不足」を意味する数字として、我々の前に現れる。


結論を言うと、数学や物理における「マイナス」は


『逆』『反転』『反対』


を意味している。充足の反対が不足であるように、山の反対が谷であるように。

だから、プラスとマイナスを合わせると、打ち消しあって0になってしまう。

このあたりが物質の反にかかわってくる部分となる。


次は物理的というより算数的な話になるので、この辺でおなか一杯という方はここまでで大丈夫です。

知ってる人からすれば、「結局(-1)×(-1)=1をダラダラ話してただけじゃねーかこのペテン師め!」になるかもしれません。


***


さて、本題は、


マイナス×マイナス=プラス


はなんで? ということだった。



まあ反転するからプラスになるんじゃね? と言ってしまえばそれまでだが、「マイナス」を「かける」ことのどの辺に反転が出てくるんだろう。

答えは掛け算を分解すると出てくる。


具体例から、そこで何が起きているか考えていこう。

例えば、


2×4=8

2×(-4)=-8


である。上は単純だ。2が4個あるから、


0+2+2+2+2=8


となる。2メートルの山を4つ合わせたら、8メートルの山になった。そういう感じ。

一方下はどうだろう。2がマイナス4個あるってなんやねん。


ここで少し論理が飛んでいくが、要は不足を4倍・・・・・すればいいのだ。

どういうことかっていうと、2を4個引けばいい・・・・・・・のである。


0-2-2-2-2=-8


「マイナス」を「不足」とみなして掛け算を分解してみたが、2×4の時と反転・・していることにお気づきだろうか。


「マイナス」を「かける」というのは、その数だけ引き算する・・・・・・・・・・ということになるのだ。


この調子で進めていこう。では、


(-2)×4=-8

(-2)×(-4)=8


はどうなるだろう。


上はさっきと同じように、


0+(-2)+(-2)+(-2)+(-2)=-8


に分解できる。

……-2メートルの谷を4つ合わせたら、-8メートルの谷ができる、といったところか。


下も同じようにやってみよう。


0-(-2)-(-2)-(-2)-(-2)=8?


ああ、「マイナス」を「引く」とはなんぞや。


なんとなくプラスになるんじゃないかー、って気がしなくもない。そこらへん、もう少し掘り下げてみよう。


大事なのは「引く(-)」という演算子が何を意味しているか、ということである。


*****


演算子というのは、4+3の「+」や、5-2の「-」など、いわゆる「+、-、×、÷」のことである。「何かの操作を実行せよ」ということを表す記号だ。


たとえば「+」なら、「左にある数字に、右の数字を足せ」という操作を表している。


SFバトルもの的には、「○○演算子を適用」みたいな能力者が出てきて、相手の能力に干渉するといった設定が作れそうである。


数学や物理では、上にあげた4つのほかにも、微分演算子やらなんやらいっぱい出てくる。


*****


我々は日々、何気なく引き算を処理している。1000円の手持ちから300円の出費があれば700円が残る、といった具合に。


だから演算子「-」の意味をあまり気に留めたことはないかもしれない。

アレ、数学的には、「反転させて足せ」ということを指示しているのだ。


ゆえ、


1000-300

というのは、


1000+(-300)

に書き換えられる。

300円の借金を足したら、残りは700円になるという寸法だ。


話を戻すと、


0-(-2)-(-2)-(-2)-(-2)


も、「反転させて足す」というルールに従って書き換えると、(-2)は(+2)に反転して、


0+(+2)+(+2)+(+2)+(+2)=8


になってしまう。


余談だが、「-」の演算子を使える能力者がいたら、あっという間に形勢逆転できそうである。使いどころは難しいけれど。


***


もちろんこれ以上に論理的な説明もあるだろうが、とりあえず、


マイナス×マイナス=プラス


のお話はこんな具合になる。我ながら「これは堂々巡りだなあ」という気分になってしまって申し訳ないのだが、皆様は納得いっただろうか。


次回こそは、引き伸ばしている量子力学について、皆様にご紹介できたらと思っている。よろしければお付き合いください。

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