5 蛍鏡国の遺跡

その日は、突然来た。


チュートリアル終了から一週間が過ぎた頃。

上級職につく権利を最大限駆使した俺達三人は、元の能力に継ぎ、幾度とモンスターとの戦闘を重ね、気がつけば一人前と呼べるほどにはなっていた。


『緊急!緊急!蛍鏡国の遺跡にて七星“プラチナレッド”の存在を感知。冒険者の皆さんは襲撃時に備え、武装を外さない及び、急ぎロビーに集合してください!』


ギルド及び街中にそのアナウンスが流れる。


その頃、俺とフリルは力試しとばかりに小さなクエストに出向いていた。


「なぁフリル、七星とか蛍鏡国とかきいてないんだけど。教えてくれないか?」

「今はそれどころじゃないですよ!あとで、3人揃っておちついたら話しますから!と、取り敢えず移動魔法です。ギルドのロビーですよ。」


そんなにヤバい相手なのだろうか。声が少し焦っているように聞こえた。

了解、と頷くと俺はフリルと手を取り合い移動魔法を呟いた。

その声は共鳴した。


「「『テレポート』」」


          ★★★


―蛍鏡国の遺跡


それはかつて、ファンタジスタ帝国北部に存在していた蛍鏡王国の遺跡。


ファンタジスタ帝国の国立公園、いまもあるその場所の噴水の内側に七星と呼ばれる七つの宝石が埋め込まれていた。七色の宝石が円状に並べられ、噴水からは美しい七色の水が溢れていたという。


だが千年ほど前だろうか。魔王軍により宝石が奪われてしまった。

その後、魔王軍が倒されるも、宝石が戻ることはなく、魔王の最後の力により、七星は帝国中に封印された状態で散りばめられた。

だが厄介なことに、彼らは七星を護るべく凶悪な魔獣と共に封印したらしい。


七星の輝きを失った国立公園は廃墟に近い状態に至っていた。

あと千年の間に七星が戻らないとファンタジスタ帝国は滅亡すると云われている。

そのため、冒険者の目的は魔黒軍討伐と七星の回収、冒険者における二つの定義が出来たのだった。


―噴水から宝石が失われた事により蛍鏡国は水と光を失い、劣化してしまった。

その約百年後からは警備がつけられるほど、立ち寄り難い場所と成っていた。


―だが数年前、何者かにより遺跡から爆破音が轟いた。


警備員は冒険者ではないので、蛍鏡国を無防備な状態で探索できるわけが無い。

やがて時は過ぎ、何が起きたか誰も分からず、いつしか完全な未開拓地帯となっていた。


そうして遺跡近くにギルドの拠点を置き、見張りを立てていたのだ。


          ★★★


数分後。ギルドのロビーに到着した俺達は、仲間の居場所を探していた。

「ったく、緊急事態だっていうのに。アリスとフルールは何処だ?」

「ギルド職員には、担当パーティーの居場所感知システムが内蔵された指輪が配られるんです。おまかせあれ!」


位置情報サービスつきかい!!

初耳なんですけど。


「それで?何処にいるかわかったのか?」

「はい、というか精鋭パーティーメンバーは蛍鏡国の遺跡前の拠点に向かえって指示が来てます…。葉月くんのエアー水晶にも何か来てるはずですが…。」


えっ、エアー水晶ってそんなシステムあったの?

そう聞こうとしたが、やめておいた。

今は緊急事態なのだ。使い方だけ聞いて、指示に従うため、フリルと共にギルドから出ようとしたら


「ハヅキ殿、フリル殿!しばしお待ちを!」


俺達を引き止める声に振り返れば、そこにはギルドのお偉い様のような人が立っていた。

それは、俺より二周りほど背丈のある男性で、肩幅はしっかりしているが全体的にやや細身である。

ギルドの長と思わしき彼の職員服の胸ポケットには、三星マークが付いていた。


「ハヅキ殿。向こうで過ごすにも食料は欠かせないであろう?…実はだな。君の仲間お二人に渡しそびれたのだ。そこにいるフリル殿のも含め四人分だ。」


彼はそういいながら四人分の食料を俺に手渡し、フリルには何もやらかすなよ、とでも言うように眼力だけで注意と圧力を向けていた。

フリルは『えっ、私も戦いに行くの?』とばかり、声には出さず、俺の方を見て表情で訴えていた。


「これは念の為、近距離戦でも生き残れるようにだ。但し、本当に困ったときにしか使ってはならない。宜しく頼んだ。輝かしき我らが命に健闘を祈る!」


彼が差し出したのは金色に輝くダガーらしきもの。

どこか神々しい『ソレ』を、使う日が来ないことを俺は祈った。


「丁寧にありがとうございます。精鋭パーティーの一員として、命を賭けてでも七星につく魔物を打ちのめしてきます。」

「え。命賭けて…や、やだ…。」


ボソッと何か呟くフリルのことは勿論無視。

礼を言った俺は、嫌がるフリルを連れ、急ぎ蛍鏡国遺跡前の拠点に向かった。


―道中

「フリルも礼くらい言えよ、上司だろう?」

「そうは言っても、あの人私より後輩ですから。ギルドで働いてるの私のほうが二年も長いなので!!」


プンスカとそう言い張るフリルによると、彼は一ヶ月程前に新任した長らしい。


「でもダガーと飯を貰ってんだ。次あの人に会ったら礼しとけよ?てか今、さり気なく上司ディスっただろう?念の為覚えとくとする。」

「はーい。」


棒で返事が来たのはさておき、なんだかんだで今は緊急事態である。

ついさっき届いた最新の通達には、五時間以内にきてくれと書かれていた。

今のペースじゃ間にあわないのが現状。


「このまま歩いていっても半日以上掛かりそうだし、フルールたちに追いつかないだろう?だから俺がお前を抱えてヴァンパイアスキルで空中を駆ける。どうだ?」

「お、お姫様抱っこっていうあれですか?恥ず…」

「き、緊急事態だから仕方ないだろ!」


フリルが羞恥の言葉を言い切る前にハヅキは焦り遮る。


「…落としたら、許さないですよ?」


フリルは頬を赤らめながらも、得意の笑顔を見せそう呟く。

フリルを抱えた俺は空中へ舞い、目的地に急ぎ飛行したのであった。

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