4 チュートリアル


「おはようございまーっす!」


まだ日の出よりも少し早い時刻。

フリルは仮部屋のドアを勢いよく開き、そう叫んだ。


「やだ、起きたくない。」

「私も。」

「眠いいい。」

3人揃って起床拒否。


「仕方ないのです。そうゆう決まりなんです!いまいる冒険者の皆さんも、全員この道を通ってきているのですよ。」

「ほぅ、日本でいうチュートリアル的なやつか。」


チュートリアル。

それは、シリーズものの続きなどで慣れている場合に、スキップボタンですぐ飛ばすような最初のアレのことだ。


「まだ眠いんだが。寝たいんだが。」

「だから昨日のうちに早寝するよう呼びかけたじゃないですか。」

「まだ4時半だぞ?早起きにしても…早すぎないか?」

眠いですよ、とアリス。

「あぁ俺も眠い。」


五時にギルドのロビーに集合と言われた俺達。

昨日寝る前に一騒ぎしたからか、俺とアリスは少々寝起きが悪い。


「今日はチュートリアル、か。」


           ★★★

―数時間程前。


俺達3人はフリルによって、俺の仮部屋だったところに無理矢理押し込められた。

仮部屋といっても日本のよくあるホテルのような内装。

特徴があるとすれば、セミダブルベッドが1台であるということのみ。


「では、シャワー先に入らせてもらいますね。」


そう言ってフルールがベッドから立ち、その場をあとにした。

つまり、部屋にはアリスと俺の二人きり。

と、アリスから話しかけられた。


「ハヅキくんハヅキくん。」

「ん?なんだ?」

「フルールさんには内緒で…」

「内緒でなんだ?」


溜めて一体何が言いたい。

そう聞き返すか迷っていたところ

「やっぱ、それも内緒です!」

「溜めといてなんなんだよ。そんなんで俺が動じると?」

ちょっと呆れっぽく聞いてみる。

恋の駆け引きのようなやり方でこちらの様子を伺ってくるアリス。


気になるコならまだしも俺は別にアリスのことを恋愛面で考えちゃいない。

一目惚れするほど俺のタイプに当てはまるわけではないし、なにより今さっき初対面したのだ。

いきなり駆け引きなんぞにのるわけなかろう!


「アリス、お前は俺に何がしたいんだ?」

「まぁまぁ、少しくらい女として見てもらってもいいじゃないですか?」


アリスは二人きりなのをいいことに怪しげな笑みを浮かべこちらを見つめる。


全く、どの口が言う。見た感じ俺より年下じゃないか。

「お前、歳は幾つだ?」

「14ですが。」

ほぅ。やはりな。俺の二個も下じゃぁないか!

同学年でない限り俺は歳下には興味ないからな!

「ロリコンじゃあるまいし、俺がお前のことを女としてみることはないからな。諦めろー。」


「でも、アリスってよんでねったいった時には…お願い、聞いてくれたじゃないですか?」

そう言いながら上目遣いをし、構ってほしそうな顔をするアリス。

「こいつ小悪魔系だな…」

ボソッと呟く。

「何かいいました?」

「いやぁ、なにも?」

さっきの構ってモードとはまた少し違った様子でグイグイ聞いてくる。

「なんです?聞かれたらマズイことなんでしょうかー?」

アリスは俺を押し倒すような体勢になり、しかも俺の両手を掴んで抑えてくる。


ホントにこいつ…なんなんだ!

流石に苛ついてきた。

「おいアリス!しつこいぞ!その手を離せっての」

「じゃあ私のことなんていったか白状してくださいよ!」

「やーなこった。」

「ほら!やっぱりなんか言ったんじゃないですかー!」


―ガチャッ

「うるさいですっ!廊下まで騒がしい声がしますよ。」

フリル乱入。いいところに来てくれた。

「全く…。明日は朝すごく早いんです!もう寝ちゃって下さいよ。」

「「はぁい。」」


フリルの少し厳しめの言葉をもらい、俺達は喧嘩せず取り敢えず寝ることにした。


ん、なんか少しずつフリルの口調に素が出始めて居るような…。

まぁそうだとすれば素の口調は明日にでも分かるだろう。


そうして、フルールが戻る前に2人は眠りについたのだった。


           ★★★


「『ビッグトルネード』っ!」


そう言い放った少女は、二本の大剣を巧みに操りながら目の前の標的に向け、凄まじい勢力の竜巻を放った。


「ガーネット先輩、凄い。」


ハヅキはそう呟いた。

勿論、この技を軽々しく操れるのはギルドではガーネットしか居ない。

技を使える者は居るが軽々しく使いこなすまで至ってない。


「次は、ハヅキの番さ。マニュアルに書いてあったの、覚えてるか?」

「大丈夫です。」

「了解。それじゃあ五秒後、ゴブリン出すよ!」


現在、ハヅキとガーネットはギルド地下にある実演訓練場の一号室に来ている。

他のメンバーも一対一でハヅキと同じようなチュートリアルを行っている。

彼らは『ゴブリン生成機械』というモノを使って訓練している。

ゴブリンではないがゴブリンのように擬態化したモノの生産、放出時間などを操作し、訓練を受ける者に倒させる。

まぁ、そういったシステム。


「『スノーストーム』!!」


ヴァンパイア人生初、俺は魔法を放った。

ゴブリンとその周り一帯に雪が広がり、身動きを封じた上で大量の氷柱が刺さる。

魔法を使って初めて自分の素質に気づく。

異世界部門で選ばれたのも、ステータスと威力が良かったからなのか。

なんだろう。優位に立っているからか、異世界ってのも悪くない気がしてきた。


それにしてもなぁ、初めてにしては上手く行ったような気がする。これは自画自賛。


「さすがは選抜メンバーだ。初めてにしては上出来だなっ!」

ガーネットにニカッと笑いかけられながら、そう褒められる。

褒められると嬉しいものだ。

褒められると伸びるタイプの俺にとって、ご褒美といっても過言じゃない。


「エアー水晶で各ステータスの確認してみたらどうだ?」

「?エアー水晶ってなんですか?」

「あー、まだフリルにきいてなかったか。」


おい、フリルのやつまたいい忘れてたのか。

あとで叩き直しておこう。


「そうかいそうかいっ!では、説明しよう。」

ふふーん、と目を光らせている。

フリルに比べたら今のガーネットはなんだか頼もしい。


「エアー水晶っていうのは全ての冒険者の利き手中指にはめてある指輪から空間に映し出されるステータス水晶のこと。」


ガーネットはそう言いながらこんな感じよ、と彼女のエアー水晶を見せてくれる。


「指輪の方は昨日の集会で配られたよね!」


そう言ってガーネットは俺の利き手である右手に触れる。

だが手に触れられた位じゃ動じない俺は別に問題はない。


「えっ、なにこれすごい…。」

ガーネットはボソッと片言になりながら呟き、暫し硬直していた。

「何が凄いんですか?何が凄いんで…」

「魔力、知力、恋愛力、生命力が半端じゃなく高いじゃないですか!こ、これは何かの間違いじゃ…?」


俺の言葉を遮り、しかも疑いまでかけてもう一度試している。

「うん、全部合ってた…。」

「な、なんで先輩が落ち込むんですか?」

いつになく落ち込んでいる先輩に恐る恐る聞くと、


「知力と恋愛力がぁあ!!何よりも負けられない先輩としての威厳の二つがぁあ!あ、あぁ…。」


半泣きになりながら、一号室に響き渡るほど大声で喚いていた。


…そういうことか。

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