第46話*ドライブ*~合宿三日目~

 今日の朝はちょっと遅い。

 それは、落花生の種を取っておいて送ってくれた、シンさんのところへお礼を兼ねて訪ねて行くことになっていたからである。

 なんでシンさんと呼ばれているかは分からない。パパさんも里見先生もそう呼んでいるので、そういうことなのだろう。

 車に揺られて五十分ぐらいだろうか、思ったより遠かった。

「ここですか先生? ブルーベリー・ブラックベリー狩りって書いてありますよ」

 看板の向こうには、私たちの背丈より少し低い木が一面に広がっている。

「よかったな焚口、ブルーベリー狩りができるぞ」

「はい!」

 先生が私に言うと、小袖から返事が戻ってきた。

「おはようございます」

 園に入り、挨拶しながら進む里見先生について行くと、その先にお兄さんがいた。この人が、シンさんのようだ。

「みんな来たね。隆さんから聞いてるよ。落花生うまくいってる?」

 順調だと伝えると、ブルーベリー狩りやっていくよね? と、思惑通りの流れになる。

 ここはもちろん、Yesなのである。

「小袖先輩、私初めてブラックベリー見ました」

「雅ちゃんも? 実は私も始めてだったりして」

「そうなんですか?」

「だって部で、イチゴ狩りとか全然いかないんだもん」

 二人が並んで摘んでいると、全然高校生っぽくない。

「部長、私もイチゴ狩りやってみたいです」

 瑠奈の気持ちは分かる……実験に使うとかでなければだが。

「イチゴ狩りは五月で終わっちゃうからね。合宿の時期だと無理かな」


「「「「「「ありがとうございました」」」」」」

 私たちは落花生のお礼を言いに来たのに、ブルーベリー狩りとブラックベリー狩りを楽しむことになった。

「いやー、おいしかったな。苗も売ってるらしいから育てたいな」

 移動中の車内で、李華が満足そうに話す。

「お昼にしようと思ったけどその感じだと、あんまり食えないかな」

 里見先生のその心配はともかく、また一時間ほど車に乗ることになった。


 川の駅・道の駅に到着する。

「じゃあ先に見て回るか。どっから入るかな」

 里見先生も決めかねている。

 施設はとても広く、屋台も出ていれば建物も複数ある。その先には、海だか川だか分からないほどの水辺も望めた。

 当てもないので正面の大きな建物に入ってみるのだが、とにかく商品の並ぶ棚がいっぱいで奥まで続いていた。そこは産直の野菜やくだものがあるかと思えば、おにぎりやお弁当など加工品まで何でもありだ。

「ちょっと暑そうだけど、買って外で食べましょうか?」

 真空がそう言うと、みんなもフードコートへ行くほどお腹が空いていなかったようで反対もなく決まる。

 それぞれが好きなものを買ったところで、建物を出ると景色のよいところを探して移動する。

「普通のスーパーみたいな品揃えだったな」

 李華がそう言うと、

「だからスーパー堤防って言うんじゃないぞ!」

と、里見先生が言う。

 ここがスーパー堤防の上であると知ったときから、そんな気はしていた。だからたぶん、他のみんなは言わなかったんだと思う。

「さて、あの辺に座ろっか」

 私たちは並んで食べることにする。

「雅は何にしたの?」

「パンにしました」

「瑠奈は?」

「スパゲッティーにしました。場になじまない、昔ながらのナポリタンって感じです」

「真空はおにぎり?」

「ええ」

「そっか私も」

「俺も」

 里見先生には聞いてない。

「私は李華と、一緒にしました」

「何?」

「えっと、あげもち、芋ようかん、ぬれせんべい、スモークサーモンのサラダです」

「なんでお菓子ばっかりなんだよ。で、最後サラダとか微妙に気をつかって」

 遊覧船やボートなどを眺めながら食べ始める……やっぱり外じゃ暑かったかな。

 食べ終わると建物に戻り、由美子さんにお土産をと思うのだけど食材しか売っていない。

 ニンジン、しいたけ、ピーマン。うーん。

 梨やぶどうはまだ早くて並んでないし、どうしようかな。

「ちょっと待ってな。電話して聞いてみるよ」

 結局、里見先生が由美子さんに電話をして頼まれた物を買うことになり、これではただのお使いだなと思っているとかなりの量になる。パパさんとママさんも入れて九人分の食材を用意しなければならないことが、いかに大変かを思い知らされることになった。


 家へ向う車は、これまた五十分ぐらい乗っていないといけないらしい。

「先生、ところでシンさんって、なんでシンさんって呼ばれているんですか?」

「え? 下の名前が“しんじつ”の“シン”と書いて“まこと”ていうから、あだ名でシンさんになっただけだよ。どうして?」

「なんだ。てっきり寄生虫をみね打ちで倒すからシンさんなのかと」

「普通に倒すと思うけどなぁ? まあ、俺も倒すところ見たことないからしらないけど、今度聞いておくよ」

「いえ、先生。結構です」

 もし知りたいときがきたら、里見先生を通さずに目安箱で尋ねようと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る