第5話

 すぐに夢だと分かった。

 病院のベッドで半身を起こした自分。その周りにはなぜか中学高校時代に大好きだった先生達。そして、両親。

 そんな訳がない。あの人たちとはもうずっと連絡を取っていないし、第一お互いどこに住んでいるかも分からない。少なくとも私は。

 囲む人々は一様に笑顔で、私も笑顔で。心から幸せそうに、楽しそうに言葉を交わし、笑いが溢れる。そして何故か、私のお腹を撫でる高校時代の大好きだった担任。

 そこで違う場面に変わった。

 次はバスの中。私は見たことのあるような顔の男の子を抱っこして席についている。

 周囲の席を見ると、同様に3歳から5歳くらいの子供を連れている人々。出入口が一つしか無く、バス内に行き先を告げる表示盤はない。とすると、観光バスだろうか。

 このバスはこれから遊園地に行くらしい。

 そうか、この夢は―

 観覧車にメリーゴーランド、コーヒーカップ、ジェットコースター。バスを降り、色鮮やかなアトラクションの間を歩く。

 私と手を繋いで歩く男の子が、突然しゃがみ込んだ。

 どうしたのか尋ねると、足が痛いと言う。

 下がりきった眉を眉間に寄せる彼は、傍にしゃがんだ私の目を真っ直ぐに見つめる。潤みきって今にも決壊しそうなその目が、可愛らしい。

 しかし、抱き上げるにはいささか成長しすぎている気がする。何を言いたいかというと、長い時間抱き上げて移動するのは不可能だということだ。全く、夢だというのになんと現実的な事か。このくらいどうにかなる気がしないでもないが、まあどんどん話が進んでゆく夢はどうしようも無く。

 ひとまず「おいで」と呼びかけ両手を広げると、彼はと私の胸に飛び込み、抱き上げられた。ぎゅっと首にしがみつく彼を、やはり可愛いと思った。

 それから私たちは遊園地内でなにかに乗るでも無く、ただ歩く。色々なものをこの子に見せてあげたい一心で、色々なところに連れてゆく。

 気がつくと、自分の隣に人影があった。私よりも幾らか背が高い男性のようだ。男の子を抱える私を気遣いながら、一緒に歩く。

 途中で交代すると言って男の子は私の元から彼の元に行った。

 私の目では彼の口元までしか見えなく、誰だかわからないけれど不思議と安心する。

 いつか私にもこんな日が来るのだろうか、そんな人に出会うのだろうか。

 不安という訳ではなく、ただただ疑問だった。

 こんな絵に描いたような幸せが、私にあっていいものか、と。

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