第3話 コイっす。おらコイやっ(寒)
冷静さを取り戻した俺は、隣に立つ牛と豚のシチューを無視してメニューを開く。
いつの間にか、隣の席に座った親父が、俺のピッチャーから旨そうにビールを飲んでいるのも無視した。
「おい、ビールとコイの洗い」
羽繕いをしていたヨウムが、一瞬びっくりしたような丸い瞳を向けてくると、急にかしこまり駆け出した。
「ビールとコイの洗い、おなーりーおなーりー」
素っ頓狂な声にはもう、驚かねーからな。
足元で、桶から新鮮な水やら草やらを牛と豚が仲良く食べている。気分はもうヤケクソだった。
その時、ドーン!と目の前に勢いよく置かれたのは桶だった。
「おい……」
頼んでねえよと言う前に、いつの間にかカウンター内に入った親父が、ウインクを投げてよこした。
「兄ちゃん、でかした、よく頼んでくれたな」
言うが早いかその手には、ピチピチと跳ねまくる紅白の魚が握られている。
「行くぜ!」
「え」
と思う間もなく俺の手にはスポンジが握らされ、カウンターから桶に水がじゃんじゃん流し込まれ、溢れた水が勢いよくしぶきをあげる。
「おいっ水止めろおぉぉぉ! 皮パンツが濡れるじゃねえかよおぉぉぉぉお!」
絶叫は水流にかき消され、桶の中には優しく全身を洗われる錦鯉が気持ち良さそうに身を預けていた。
「こんのくそ親父、ぶっ殺すぞ!」
桶事ひっくり返すと鯉と親父がカウンターの向こうへふっとんだ。
ざまあみやがれ!と思う間もなく胸倉をつかまれ引き倒される、目の前には小脇に鯉を抱えた血走った眼をした親父だった。
「兄ちゃん、命を粗末にしてくれてんじゃないぞ!」
「食えるもんだせやこらぁっ」
「お前の目は節穴か? これほど新鮮な鯉の洗いもないだろうがっ! 食える食えないの問題を押し付けるんじゃねえぇぇっ」
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