香璘の物思い《2》


 宮廷と書いて伏魔殿と読む。

 もはや百獣の王である獅子が子犬のようにかわいく見えるくらい、化けの皮を被った魑魅魍魎ちみもうりょうが、文字通り

 そこでは権力ちからのある者に群がり、少しでも上へ上へと互いの足を引っ張り合う欲の塊たちが、日々巣食っているのだという。

 そんな魑魅魍魎たちはもちろん、年端のいかぬ子どもにも容赦ない。

 そんな中、産まれた時から次期皇帝――――つまりこの国の頂点に立つ者としてひたすら己を磨いてきたこのお方には、確かに澄寧の純粋さはどこか眩しく見えるのかもしれない。

 当の昔に失ったから…………いや、失わざる負えなかったこそ、余計に。


(なんと不憫な…………)


 香璘は亡き女主人である黒皇后のことを想った。


ぎょく、という名のようにならなくても良い。ただ健やかに、元気に育ってほしい。わたくしが望むことは、それだけです』


 産まれたばかりの玉安を腕に抱き、そう言って笑った女主人のことを。


こく芳澪ほうれい様…………申し訳ございません)


 香璘は、心の中で静かに謝った。


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