いきなりの無理難題《2》


 澄寧ちょうねいが沐浴室で途方に暮れていた、ちょうどそのころ。

 皇太子――――そう玉安ぎょくあんは自室で書き物をしていた。



◆◇◆



「ふぅ…………。まだまだあるな」


 玉安は小さく呟いた。

 それから、執務机の書類の数々を見る。澄寧との謁見が終わった直後からずっとやっているのだが、これがなかなか終わらない。それでも、


(ええっと…………。これとこれは明日まで、これとこれは明後日までか…………)


 と、色々なことを思案しながら、さらさらと筆を走らす。考え事をしながらの書き仕事はお手の物だ。そのまましばらく、書き仕事に没頭していたのだが。


 ふと筆を持つ手を止め、玉安は室の外に意識を向けた。

 誰が、ぱたぱたと廊下を走る音がする。

 それは、貞淑を叩き込まれた女官がするような行為ではない。新入りか、宮廷常識の知らない者のすることだ。


「…………来たか」


 玉安は呟いた。それから、クスッと笑う。

 彼は来訪者を迎えるため、筆を置いて書きかけの書類を片づけ始めた。


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