第14話 似て非なるもの

食品工場で巨大なネズミを倒したガイア達がアースベースに帰ってきた。

ダメージを負ったガイアは、念のためメンテナンスルームへ。ヘルメスはアースベースのみんなに紹介するために、弟達に自己紹介をさせていた。


「初めまして、私はゼウス。ガイア兄とヘルメス兄の弟です」

「俺はクロノス。同じくガイア兄とヘルメス兄の弟だ!」


彼らは、六人兄弟のうちの四番目と五番目にあたる双子。ちなみにゼウスが兄である。

体の形はガイアやヘルメスと変わらないが、体の色が黄色だ。さらに双子だけで言うと、性格と同じようにゼウスの方が少し落ち着いた、クロノスの方が少し明るい黄色をしていた。


「ねぇ。もうちょっと近づかない?」


自己紹介を聞いたのはいいが、ヘルメスが言うように、双子の距離は、一人を見ていると、もう一人が見えないくらい遠かった。

原因は少し前に話したと思うが、現在喧嘩の真っ最中なのである。

無言を貫く二人に、ヘルメスはため息をついた。


「……集まって」


やっと二人が並んだが、顔は嫌々、目は当然合わせない。しかし何故かお互いを前に出させようと体を小突いていた。


「で、何で喧嘩してるんだっけ?」


机の上に頬杖をついてヘルメスが尋ねた。一応喧嘩の理由は聞いてはいるが、地球に来るまで仲直りができなかったのなら、いっそのことアースベースのみんなにも聞いてもらおうと思ったのである。


「クロノスが……」「ゼウス兄が……」


双子らしく声を合わせた二人の口からは、やはり同じ言葉が出てきた。


『自分より前に出てくれないんだ!』


誰もが頭の上にクエスチョンマークを浮かべたのは、当然の事だろう。しかし、双子にとっては重要な事なのだ。


「どういう事ですか?」


沙弥が尋ねた。双子は答えようと一緒に口を開いたが、今度は互いに譲り合ってしまってしまい、最終的には睨み合いになってしまった。


「喧嘩しないの……。ゼウス、答えて」

「はい。実は……」


まず始めに、二人の誕生について語ろう。

双子は目覚めたのが同時だった。二人で同じように家族を見て、そしてお互いに顔を合わせた。話し始めたのも一緒。動き出したのも一緒。普通に考えると、機械なのだから仕方ない事なのだが、それでは博士が彼らを創った意味がない。

そこで家族は会議をし、ゼウスが兄、クロノスが弟と決めたのである。

そして、彼らは同型機ではなく、双子として生活を始めた。

違いが出始めたのは一年後。兄弟のうち、ガイアと遊んでいたゼウスは性格が大人しく。そして、三番目の兄であるアレスと遊んでいたクロノスは性格が活発になった。

家族は、双子の違いが顕著になって喜んだ。しかも、それで特に仲が悪くなった訳ではなく。むしろ、それが素晴らしい事だと気付き、双子の絆がより深まったのである。

そして、ゼウスの話に戻る。ガイアが地球を創り変える時、双子はそれぞれ木星と土星に別れたのだが、星が隣ということもあって、よく通信を行い、近況を報告しあっていた。

そして少し前、といっても1000年くらい前。ヘルメスと同じく、ガイアを助けに行くための準備をしていた時である。


「これでいつでも助けに行ける。なっ、ゼウス兄!」

「あぁ、ガイア兄が言っていた浄化できなかった魂が動きださなければいいのだが」


この時、彼らはお互いに地球で使うであろう少し大きな体を創りあい、それを相手に送っていた。


「もしガイア兄から連絡が来たら、ゼウス兄は先に行ってくれよな!」


クロノスが言った。確かに木星と土星の距離は七億五千万㎞。当然ゼウスが先に着くのだから先に行った方がいい。


「いや、その時はクロノスが来るのを待つ。一緒に行こう」


しかしゼウスは、ずっと一緒にいた双子なのだから、一緒に行きたかった。


「何でだよ。敵が出たんなら、早く行った方がいいだろ?」

「一緒のほうが、どんな奴が来ても協力できて、

安心だろう?」


二人とも正論を言っている。


「ゼウス兄は十分強いんだから、一緒に行っても俺に出番ないだろ」

「実力的には同じだ。なら二人で行ったほうがガイア兄の力になれる」


クロノスはゼウスを兄として尊敬していた。性能は同じだが、家族の中で兄になってくれたゼウスに、どこか勝てないのではないかと感じていた。

一方ゼウスは、クロノスが弟であっても、やはり同じ日に生まれた双子。いつも一歩下がるクロノスが、無理をしているんじゃないかと心配していた。


「ゼウス兄の方がガイア兄と仲がいいだろ!」

「そんなことはない。クロノスだってみんなと仲がいいだろう!」


だんだん口調が強くなっていく二人。ただ、この言い争いは、お互いがお互いを優先している事で起こっているものだということを忘れてはいけない。


「よし、じゃあお互いに創った体を使って勝負だ。ゼウス兄が勝ったら一緒に行く。俺が勝ったらゼウス兄が先に行く!」


クロノスが持ち出したこの勝負。一見お互いに負けようとするかに思えるが、勝負に使う体は、相手が創ったもの。相手が自分のために一生懸命創ってくれたもので、わざと負けるような、失礼な事はできない。だから二人は全力で勝つしかできないのだ。


「わかった!クロノスが創ってくれた体が素晴らしいものだとわからせてやる!」

「いいや!ゼウス兄が創った体の方が強いんだ!」


そうして、長い長い兄弟喧嘩が始まったのである。


「……という訳なんです」


一通り説明が終わり、真剣な顔をしたゼウスが周りを見ると……。

ヘルメスとアースベース職員の大半が、何故そうなるのかわからないと顔を歪ませていた。しかしただ一人。


「かわいい……」


沙弥だけが、違う感情を抱いていた。


「ゼウス、ヘルメス……」


ヘルメスに呼ばれた双子は、揃って返事をした。


「今は、兄さんが守ってきた地球が大変なときなの。わかるよね?」


双子は返事をした。


「喧嘩をしてて負けちゃった、っていうのはあってはならないことなんだよね?」


当然です。と双子は頷く。


「だからね。早く仲直りして……?」

『それは無理です!』


頑固な双子の喧嘩はいつまで続くのだろうか。



ーーーーーーーーー



「大丈夫かガイア?」

「えぇ。念のためですから」


メンテナンスルームでガイアが整備されているのを、青山は静かに眺めていた。本来は青山がサポートしなければならないのに、自分を守るために飛び込んでくれたガイアには、感謝しかない。


「青山さんに怪我がなくてよかった」

「ありがとう。ガイアや弟さん達のお陰だよ」

「いえいえ。あの、青山さん……」


どこか寂しそうに、それでいて覚悟していたような顔をしていた青山に、ガイアは尋ねた。


「青山さんが見たという子供は……」

「あぁ。本当の人間だと思ったよ……」


青山の手には、あの時掴んだプアの腕の感覚が今も残っている。冷たかったが、掴んだ感覚は人間そのものだった。


「あの子は、今の地球をどう思っているのだろう?」

「……」


ガイアが困る質問なのはわかっていた。ガイアは自分の意見を強制しない。投げ槍だと言われるかもしれないがガイアには、どう思いますか。としか言いようがないのだ。


パンパンパンパン!!


青山は、自分の両頬を思い切り叩いた。


「すまん、忘れてくれ!じゃあ行くわ。お大事にっ!」


そう言って、青山は部屋を出ていってしまった。



ーーーーーーーー



「戻りました……」


ロストアイランドに帰ってきたプアは、リガースに挨拶をすると、自分の席についた。


「どうだった?」

「うん。成功したよ」


アダムの問いにプアは簡単に答えた。目的は達成した、嘘は言っていない。だが、心に何かが引っ掛かっている事に、プアは気付いていた。


「おいプア、新しい機械人人形ハどうダっタ?」

「問題ないよ……」


腕に触れると、人間に掴まれた感覚を思い出した。痛くも痒くもなかったが、どこか強さを感じる手だった。

そんな感覚を、プアは昔にも感じたことがあった。

最近思い出したのだが、昔砂漠を歩いていたときに、一人の男に腕を掴まれたのだ。

目的は……。


「……おい、聞いてるのカよ!」

「えっ?」

「大丈夫カ?ぼぉっとしやガって。強さハどうダったんダって聞いてんダよ!」

「知らないよ。一瞬でやられちゃったんだから」


舌打ちをしたパワード。しかし、プアは少しも気にしてはいない

あの時、自分の腕を掴んだ男は、昔会った男と同じ事をするのだろうかと、気になっていたのだ。


「プア、次はどうする」

「あ、はいリガース様、次はエネルギーを奪ってこようと思います」


リガースは満足そうに頷いた。


「力はまだあるか」

「はい、大丈夫です」


そうか、と言ったリガースが珍しく椅子から腰を上げた。


「リガース様?!」

「なんでもない、散歩だ。ついて来るな」


そう言うとリガースは、暗闇の中に消えていってしまった。

気配がなくなったのを確認すると、いつも緊張の糸が極限まで張った空間が、一気に何もない空間に変わった。

ふぅ。と息を吐いたプアにアダムが話しかける。


「何かあったのか?」


いつも厳しいアダムが、少しだけ優しく感じた。


「ううん、大丈夫。ちょっと食べ過ぎたみたい……」

「バーカ!それナラ先に言えよ!」


パワードが椅子に体を全て預けながら言った。さっきは舌打ちもしたが、少し気を張っていたようだ。


「ごめんってパワード」

「サポートは必要か?」

「ううん。ありがとうアダム。大丈夫、このまま人間から物を奪い続ければ、僕は無敵さ」

「けっ!じゃア、サっサと機械人形倒してこい!」


よし、と立ち上がったプアは他の仲間に手を振ると、暗闇の中に消えていった。



ーーーーーーーーーー



蒼井剣術道場では、今日も龍神学園の剣道部が汗を流していた。

刀耶はすっかり部に馴染み、それと同時に、蒼井家人々も剣道部に馴染んでいた。

刀耶の母は、前よりも元気になり、いつの間にか肝っ玉母さんのように、いつも休憩時間になると、おにぎりを握ってきてくれるようになった。祖父である源四郎も昔のような眼光に戻りつつあり、指導にも熱が入ってきた。

その日の休憩時間のこと。烈と刀耶、隆景が話していた。


「そういえば隆景、今日元春はどうしたんだよ?」

「兄者は家の仕事を手伝っている」


黄瀬川兄弟の実家は、獅子神までとはいかないが、龍神町で知らない人はいないほどの会社である。

双子は時々、どちらかが部活を休み、会社の手伝いをしているらしい。


「先日から起こっている食料大量消失事件で、うちも被害を受けてな。大忙しなんだ」

「隆景はいいのかよ?」

「私は明日行ってくる。父上からは二人で会社を継いで欲しいと言われているからな。今回のピンチも兄者とともに乗り越えてみせる」


その時、入り口の方から威勢のいい声が聞こえた。


「兄者だ。ちょっと行ってくる」


烈と刀耶が頷くと、隆景は道具を持って元春のもとへと走っていった。


「兄者、お疲れ様です」

「おぉ隆景、どこまでやった?」


相当忙しかったのであろう。元春はふぅ、と息を吐いた。


「基礎練までです。ウォーミングアップ手伝います」

「すまん……助かる」


そして着替えた元春は、隆景とともにウォーミングアップを始めた。


「兄者、会社はどうでした?」

「あぁ。とりあえず各所で足りない物の確認は終わった。後は発注して振り分けるだけだ」

「私が明日やっておきます」

「すまんな。細かい事を任せて」


会社での双子は、二人で一人として働いている。流れを見て、大まかな作業をするのが元春、そして、それをもとに細かい事をするのが隆景の役割と自然になっていた。


「何を言ってるんですか兄者。私は細かい事が得意なんです。それより流れを見て、何をすべきか考えられる兄者のほうが素晴らしいです」

「……」


小さい頃から弟にすごいと言われるのは好きだった。だが最近、それが少し薄れてきたように元春は感じていた。


「どうしたんですか兄者?」

「あ、いや。なんでもない。さぁ、そろそろウォーミングアップも終わりだ。烈と一本やっておくかな!」

「では私は、刀耶とやって来ます」


この数日後、双子はどこかの双子のように喧嘩をするのであった。



ーーーーーーーーーー



「ここ……でいいんだよね?」


またも大きな袋を背負ってプアがやって来たのは、山あいに建てられた発電所だった。

ここでいいのか不安になったのは、その施設が、発電所に見えなかったからだ。

普通、人工物というのは、山に囲まれていてもすぐにわかるものだが、この施設は、山に溶け込む、いや山と同化しているといった方が正解と言えるだろう。


「それにしても大っきいな……。こんな手間の掛かるもの作ってどうするんだろう?」


自然を目一杯活用して作られたこの施設は、吹き抜ける風を使って風力発電を、流れる川を使って水力発電を、涌き出る温泉を使って地熱発電、その他色々な発電方法を用いて周辺の電力すべてをまかなっている施設だ。


「ま、忍び込むのは簡単そうだけどね」


プアが言った通り、敷地内にはすぐに潜入することができた。特に守衛がいるわけでもなく、大人の目線より少し高いくらいの塀が築かれただけの施設は、普通の会社に忍び込むより簡単だったけど


「さーて、じゃあ始めちゃおうかなっ!」


勢いよく袋を開けると、ブゥウウンという低い羽音とともに、小さな蜂が一斉に飛び出してきた。

その中の一匹、周りより少しだけ大きい個体が、プアの目の前で浮かんでいる。


「蓄電してるところを探してきて」


言葉に反応した蜂は、空でぐるりと回ると、仲間たちを連れて発電所の中に入っていった。


「さて、じゃあ待つか……」


待っている間、プアは自分の腕をずっと触っていた。

青山に掴まれた腕が、日に日に痛くなっているのがわかる。


(ここで暴れれば、また来てくれるかな?また僕を引き留めてくれるかな?)


ブゥウウン。


「ん?」


横を見ると、さっき飛んでいった蜂の一匹が自分の周りでくるくる飛んでいた。

目的の物があったようだ。

プアはゆっくり立ち上がると、蜂の後を追って発電所の中に入っていった。

白い壁に白い床、病院を連想するほどの廊下を歩き、着いたのは「蓄電室」と書かれた部屋の前。ドアには先ほど飛んでいった蜂達がドアを埋め尽くすように集まっていた。


「鍵が掛かってるのか……。ふん!」


警報が鳴ってもいいだろうと、ドアを破壊したプアだったが、特に鳴る様子もない現実に、少し苛立ちを覚えた。

そんな部屋には、六本の巨大な電球のような蓄電池が立ち入り禁止の簡単な柵に囲まれていた。


「これだけ?」


プアはこう言っているが、この蓄電池一本で龍神町すべての電力がまかなわれているのだ。

そこでふと、自分の髪の毛が浮き上がっているのにプアは気付いた。


「なるほど、意外とパワーはあるのね」


恐れることなく蓄電池に近づくプア。そして、掌をべったりと側面に当てた。


バチバチバチバイ!!


プアの体内に流れる強力な電圧が、腕の痛みを消すように体にのし掛かった。


「あぁ、もったいない!」


青白く光る自分の体を見て、すぐに力を入れるとゆっくりと光が小さくなっていった。


「さぁて、充電開始だ!」


その瞬間、龍神町全体の電気が一斉に止まることとなった。



ーーーーーーーーーーー



「部活帰りなのに来てもらってすまない」

「気にするなって。それより早く見せてくれよ!」


アースベースの廊下をガイア、烈、刀耶が歩いていた。


「これで僕も烈みたいにヘルメスと意識を共有出来るんですよね?」

「そうだね。ブレイブさんが合体には刀耶君の力が必要だと言っていたからね。まだ完成してはいないんだが、弟の紹介も兼ねて見せたくてね」


そして部屋についた。以前の古い扉は自動ドアに変わっていて、前に立つとスッとドアが開いた。


『ん?』


開けた瞬間に目に入ってきたのは、忙しそうに動く沙弥の姿でもなければ、複雑そうな機械でも、未来的な機械でもない。

普通より少し小さい牛とヤギのロボットが床に寝転んでいる事に目を奪われてしまった。牛の上には鳥、もといメルクリウスが羽を休めている。


「あっ、いらっしゃい!」


二体の動物ロボットを跨ぐようにヘルメスがやって来た。


「ヘルメス、その牛とヤギのロボットは?」

「すごいでしょ?僕が創ったんだよ。あ、でもちょっと待ってね。先に弟を紹介するよ。ゼウス、クロノス!!」


ヘルメスに呼ばれて、双子がやって来た。烈と刀耶は双子が来たと聞いてはいたが、これが初対面である。


「僕の弟のゼウスとクロノス!」


お互いに挨拶をして握手をしたが、話に聞いていた通り、喧嘩をしているため、双子はお互いを見ようともしなかった。


「そしてこちらが、木星のユピテルさんと土星のサトゥルヌスさんだよ。あ、牛がユピテルさんね」


すると寝転んでいた牛とヤギが立ち上がり、ゆっくりと烈や刀耶の所へとやって来た。

牛は、白色の体に金色の角をもち、ヤギは、黒色の体に銀色の巻き角を持っている。


「そなたが、地球に新しく生まれた命か?」

「お、おぅ……」


牛、ユピテルの低く、ゆっくりとした物言いが不思議と烈たちを緊張させた。ユピテルはゆっくりと首を振り、烈と刀耶の顔を見ると、深く頷き、そして、ただ充分に溜めた挨拶をした。


「……よろしくな」


しかし、烈達は挨拶だけとは思わず、体の力が抜けない。そこで、見かねた隣のヤギが話始めた。


「すまない。ユピテルは声と図体もあって誤解されやすくてね。本当は優しくていいやつなんだ。今はとっても緊張してるだけなんだよ。なっユピテル?」


牛がゆっくりと頷いたので、ここでやっと烈達は笑顔になった。


「改めて自己紹介を。私の名はサトゥルヌス。土星を守護しているものだ。こっちはユピテル。同じく木星の守護者だ。これから君達とともに、アテナの守った地球を平和にしていきたいと思っている」


烈と刀耶が改めて挨拶すると、ユピテルもまた深く頷いた。


「じゃあ、部屋の説明をするね。沙弥ちゃーん、ちょっといい?」

「はーい!あ、れっくん!」


よほど集中していたのか、烈や刀耶の存在にやっと気付いた沙弥が嬉しそうにやって来た。


「沙弥ちゃんはこの部屋の管理人だから、困ったことがあったら聞くといいよ」

「そうです!お姉さんに何でも聞いてください。えっへん!」


胸を張った沙弥を見て、烈はふと何処かで見た事があるなと思った。

以前、沙弥に会っている言われたが、相当小さい頃なのか、烈には記憶がない。しかし、そのポーズは何故か覚えていた。


「じゃあ説明するね。まずこの部屋の名前はコネクトルーム。ガイアさん達とそのパートナーであるれっくん達の意識を繋げる部屋です」


片付けをしたときから、壁や床、機材も変えて一新した部屋。しかし変わってないものもあった。


「そしてこれが、意識を繋げる機械、その名もコネクトエッグ」


ヘルメス達が生まれた椅子の周りに白い囲いがあって、まるで卵のような形をしている椅子に沙弥は手を置いた。


「この中に入って、ヘッドセットをつけることで、れっくん達の意識がガイアさん達に運ばれるのです!ちなみにここが蒼井君の席です」

「刀耶、座ってみて!ここで僕が目覚めたんだ!」


手を引かれた刀耶がヘルメスの椅子に座った。ふわりと沈んだ自分の体が、椅子全体に飲み込まれそうな感覚になる。


「なんだか不思議な感じ……」

「でしょでしょ!」

「なぁガイア、俺はどこに座ればいいんだ?」

「烈は向こうだ」


ガイアが指差したのは部屋の一番奥に設置された椅子だった。


「ガイアもあそこで生まれたのか?」

「いや、私は博士の研究室で生まれたから、ここに椅子はない。あそこはハルトの席だ」

「ハルト?」

「あぁ。私の末の弟で、今は冥王星から彗星に乗ってこっちに来ているらしい」


烈も椅子に座ると、その不思議な感触に、すぐに寝てしまいそうになる。


「使ってもいいのか?」

「あぁ。ハルトには私から言っておくよ」


ハルトと言う名前を呼んだガイアの顔が、いつもより優しかったのを烈は気付いた。


「うおっほん!!」


一人蚊帳の外だった沙弥が一つ、咳払いをした。


「皆さん、説明を続けていいですか?」


ユピテルよりも迫力のある笑顔で言われると、男達は素直に返事をするしかない。

静かになったのを確認した沙弥は、ではっ!と勢いよく息を吸った。

しかし次の瞬間、電気が落ち部屋が真っ暗になったのだ。


「えっ!何々!!」


すぐに電気がついたが、同時に警報も鳴り響いた。


『発電所で電力の異常放出を確認。直ちに出動お願いします!』

「いくぞ烈!」

「おう!」


ガイアと烈はすぐに反応、烈はアースのもとへと走り出した。


「兄さん、僕もっ!」

「ヘルメスはここを早く完成させてくれ!代わりにクロノスっ!一緒に来てくれ!」

「了解!」


呼ばれたクロノスの後をヤギのサトゥルヌスが追う。


「あ、えっと。私も行かなきゃ!」


こうして各々が行動を開始したのだが、沙弥が準備していた装置の説明はできず、このまま部屋が完成する事になった。



ーーーーーーー



「ふぅ……食べた食べた」


発電所の電力をすべて食べ尽くしたプアは、発電設備を破壊し、揚々と建物の前に座っていた。目的は二つ。

ガイアへの挨拶と、青山が来るかどうかの確認だ。


「さて、どっちが先に来るかな?」


二人が来たのは同時だった。


「チェイーンジ!!」


変形したガイアが見たのは、発電所の入り口の前に座る子供の姿だった。

大きな袋を横に置き、眠たそうにこちらを見ている。


「やっと来たね機械人形」


青山の言った通り、姿だけでなく声まで本当の人間のようだ。

そんな青山も、ガイアの近くでアースベースに逐一状況を伝えているが、子供の様子が気になっているようだ。


「君は……」

「僕はプア。あの島から来た人間の意思さ」


立ち上がったプアがズボンの砂を叩き落とした。


「ドラッグが死んじゃったからね、次は僕の番って訳さ!」

「ここで何をしていたんだ?」

「何って、電気をもらいにね。美味しすぎて全部食べちゃったよ。ついでに機械も壊したっ!」


無邪気に笑うプアは、普通の子供と変わらない。しかし、あの島から来たと言った以上。ガイアもアースベース機動部隊も放ってはおけない。


「できれば戦いたくはない」

「何言ってるの機械人形、お前はドラッグを殺したんだよ?僕達がそれを許すとでも思ってるの?」

「ドラッグはこの地球に還ったんだ。君にも分かって欲しい。それでももし、戦うと言うのなら、私達は君を捕まえなければならない」


そういうとガイアと一緒に来ていたアースベースの機動部隊が小さなバズーカ砲の様なものを一斉に構えた。

この装備は捕縛道具で、ある程度の猛獣ならすぐに身動きが取れなくなるものだ。

プアはそれを見て、「へー」と不敵に笑うと、息を大きく吸って叫んだ。


「うわぁああああん!!!機械人形が僕をいじめるよぉおお!!」


発電所以外になにもない場所、加えて夜になりつつある空気には、プアの声はよく響いた。


「僕を捕まえて酷いことするんだぁああ!!酷いよぉおお!!!」


泣く演技も加わり、よりリアルな子供になっていくプアに、機動部隊の捕縛道具を構える手が自然と下に降りていく。


「えーんえーん……ぷぷっ!!」


そして唐突にプアは笑い出した。


「どうしたの機械人形、僕を捕まえないの?大の大人とロボットが集まって僕一人を捕まえるだけでしょ?」

「私は、君を捕まえることを、この人達に強制できない」

「はっ、何言ってるの?今の人間にお前の力が入ってるのはわかってるんだよ?さぁ早く人間に命令して僕を捕まえてみろよ!」


あれが人間ではないことはわかっていたが、誰もプアへバズーカを向けられなかった。

そこに、列車の汽笛が響いた。


「じゃあ俺が捕まえてやる!タイムフリーズ!!」


プアの両手が一瞬にして凍り、体の周りに六本の氷柱がそびえ立った。


「クロノスっ!」

「待たせたなガイア兄!」


山あいの細い道を、銀色のリニアモーターカーが線路なんていらないとばかりに走り抜ける。


「チェンジッ!!」


そして一両編成の車輌は、細いラインをそのままに変形し、右肩にその特徴的は鼻を乗せたロボットになった。


「プアって言ったな!?ガイア兄はな、人間だけじゃなくて、地球のことも考えて考えて。その結果この平和な世界ができたんだ。今の人間もガイア兄を応援してくれてる。ガイア兄は間違ってなんかいない!」


その瞬間、プアはあからさまに嫌な顔をした。


「新しい機械人形が生意気な事を……」

「機械人形じゃない!俺の名前はクロノス!氷を操る結城博士の息子だ!」

「どうでもいいよ……」


すると、プアの体から電気がバチバチと放出され始めた。


「せっかく食べたのに、こんなことのために使わなくちゃいけないなんてね……」


バチィン!という音とともに、手首の氷が砕け散った。プアは痒そうに手首をさすると、横に置いてあった大きな袋を強く蹴った。


「おい、出番だよ!」


ブゥウンと袋から飛び出した黒い大群が、夜空に漂うと、羽を擦り合わせ、バチバチと音を立て始めた。

光るそれは、蛍のようにも見えたが、どちらかと言うと、小さな花火に近かった。

小さな光は段々と固まり、大きな光になると突然、大きな音とともに爆発した。

そして中から現れたのは、大きな四枚の羽と腹先に光る巨大な針、ギザギザの万力のような顎を持った蜂。巨大な扇風機のような羽音が、ブゥウン!!と夜の空に響いた。


「それじゃあ、僕は帰るね」

「待てっ!」


クロノスの言葉に、プアは自身の中に貯めた電気を放出することで答えた。

そして最後に、青山に向かって手を振って消えたのである。


「クロノス!」


ガイアの声がなければクロノスは雷の直撃を受けていた。

大きな蜂ロボットの攻撃を間一髪避けたクロノスは、自分の武器を呼ぶ。


「クロノ・サイズ!!」


取り出した銀色の武器は、刃の部分が自分の体くらいはありそうな大鎌だった。

武器は薄っすらと冷気を纏っている。


「タイムフリーズ!」


大鎌を振ると、空気が凍り始め、蜂ロボットの周りを囲んだ。身動きが取れなくなったところで、クロノス自身が蜂ロボット向けて飛び出した。


「喰らえっ!!」


氷ごと叩ききろうとして、クロノスが大鎌を振り上げたその時、蜂ロボットの体が輝き、一瞬にして周りの氷ごとクロノスを吹き飛ばしたのである。


「うわぁあ!!!」

「クロノス!」


クロノスを吹き飛ばしたのは、蜂ロボットの体内に貯められた高電圧の電気。羽を高速で振動させて電気を作り、万力のような顎をガチガチと鳴らすことで貯まった電気を放出したのである。


「くそっ!電気ならゼウス兄か……。ガイア兄っ!」

「ここに来るまで時間が掛かる!私達で倒すぞ!」


大事な時にいない兄に、少し苛立ちを覚えたが、おそらく今呼んでも来てはくれないだろうとクロノスは思った。


「グラントレーラー!!」


ガイアの声に一緒に来ていたグラントレーラーが駆け付ける。


「いくぞ烈!」

「おう!」

『グランフォーメーション!!』

『グラーイガーイアー!!』


グライガイアが大地に降り立った。


「クロノス、相手の動きを止めてくれ!」

「わ、わかった!手伝ってくれサトゥルヌス!!」

「了解だ!」


クロノスが空を見ると、そこには、アースベースで見たサトゥルヌスをそのまま大きくしたようなヤギのロボットが待ち構えていた。

蜂がガチガチと顎を鳴らし始めた。羽を激しく振動させ、一帯の空気がバチバチと音を立てて震え始める。

クロノスは飛んできたヤギに乗り込むと、持っていた大鎌をロボットの体に収納した。


「くらえっ、絶対零度の輝き!!」


銀色のヤギの巻き角がより白く凍り始めた。周りの空気が冷やされ、ダイヤモンドダストが舞い始める。ロボットの排気孔が開き、吹雪に変わると、その中にヤギの黄金の眼が輝いていた。


『コールドスリープ!!』


口から放たれた凍気は、氷柱のように蜂ロボットに突き刺さり、ガチガチと鳴っていた顎を止め、振動していた羽を固めた。

これが、クロノスの武器の力を使った必殺技だ。


「今だ、ガイア兄!!」

「おう!ガイアソーード!!」


大地から引き抜いた剣を構え、走りだすグライガイアだが、蜂ロボットへの道が凍り始めた。


「ガイア兄、滑っていってくれ!」

「ありがとうクロノス!」


滑走する勢いが、いつもより激しい斬撃を生み出す。


『グラーイ、スラッシュ!!』


氷ごと砕く斬撃が、蜂ロボットを両断し通り抜ける。蜂ロボットは体内に溜め込んだ電気が一斉に放出されたことで、辺り一面を照らして爆発していった。


「さすがガイア兄!!」


近寄ってきたクロノスにガイアは優しく語りかけた。

「クロノス」

「何だよ?」

「ゼウスが居なかったから、大変だったな?」


クロノスは苦い顔をしたが、すぐに笑顔になった。


「ま、まぁな。でも勝てたぞ!」

「そうだな。でも私は今日、クロノスがいてよかったと思った。ゼウスもクロノスにとってそんな存在なんじゃないのか?」

「そりゃそうだけど……」


いるからこそ、相手の凄さがわかって、自分がしなくてもいいんじゃないかと思ってしまう。だから、なんでもして欲しくなるんだとクロノスは思っていた。


「やることを押し付けるのは、優しさじゃない。自分が相手のできないことをするのが優しさなんだ。双子だったら、わかるよな?」

「……わかったよ」

「じゃあ、帰ろう」


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