-3-「これも魔女さんの仕業かな?」
③
三人(と一匹)は黄色い看板の店に辿り着いたが、残念ながらそこには魔女は居らず、
「え? 髪が長い美人? ああ、あのお客さんかしら。あんな美人が、こんな店に来るなんて珍しいからね。よく覚えているわよ。えっと、たしかね、壁の落書きとか大岩のところとか、枯れ木山がどうとか言っていたわね」
だが、店員が魔女がどこへ行こうとしていたのかを耳にしており、そのお
壁の落書きや大岩と云えば、いわゆる珍スポットとして有名だった。
壁の落書きは
また境川へと来た道を戻るのかと、どっと疲れがのしかかってきたが、その頃はまだ体力と共に余裕があった。
この後、
流石はクラスの
しかもツヨシはマウンテンバイク《自転車》という小学生にとって最高の乗り物で移動しているので三人の中では一番元気であった。
「なにヒカル、バテテいるんだよ。がんばろうぜ!」
ヒカルたちはクタクタ《といってもヒカルだけ》になりつつ、
山というよりも
その小高い山の
他の木々は
ヒカルたち子供の間では『お
「いた!」
突然ツヨシが大きな声で叫び、人差し指を差した。
その指と
「魔女さーーん! おーい!」
ヒカルの呼声が届いていないのか、魔女は振り返ることなく、やがて木々の葉で姿が隠されたのであった。
「ヒカル、追いかけよう!」
せっかくここまで来たのだからと直接会いに行った方が良いと
◆◆◆
数分ほどで
ヒカルは辺りを見回す。
枯れ木山の周囲を囲うように
ヒカルは思わず足を止め、その獣道の先を伺う。
「もしかして、魔女さん。ここから中に入ったんじゃ‥‥」
すぐにナツキも駆け寄り、金網が破れた先を見る。
森の小道。木々の隙間から光が漏れる光景が不思議な感じがして、なんとなくナツキも同意する。
「確かに‥‥。あの魔女さんならココを通りそう‥‥」
ナツキが足を踏み入れようすると、ヒカルが呼び止める。
「え、行くの?」
「ここまで来たんだから、もちろん行くわよ」
「でも、ここって立ち入り禁止だよ」
「そんなの‥‥あっ!」
ヒカルの視線の先にある『無断立ち入り禁止』と描かれた
「えっと‥‥」
マウンテンバイクは金網にチェーンを
「ちょ、ちょっと、ツヨシ!」
ナツキの呼び止めにツヨシは素っ気なく答える。
「うん。ああ、見ていないから、気付かなかったわ~知らなかったわ~」
トボけつつ、
「火野くん‥‥」
あまりにも大胆で悪びれないツヨシの行動にヒカルは舌を巻いて呆れた声を漏らした。しかし、ダメな
ヒカルとナツキは
ヒカルたちが進んでいく一本道の細い
だがナツキとツヨシ、そしてトッティは
疲れ知らずの二人と一匹の背中を追いかけて気力を振り絞りつつ進んでいく途中で違和感を覚えた。
「この変な感じは‥‥」
それは“陽無の森”で感じていたものと似ていた。
いつしか身体に
それに枯れ木山はそれほど
「ねえ。なんか、さっきから同じ所を歩いている気がしない?」
「水原もそう思うか‥‥」
ヒカルが感じていた
辺りを見回しても木々しか見えない。木の
「迷ったのかな?」
ナツキは自分で口にしつつも、その言葉に
自分たちは、ただ真っ直ぐ道を進んでいた。それに対してツヨシが答えてくれる。
「この道を進んでいるだけなのに、普通迷うか?」
「だけどオカシクない? こんなに歩いたのに山頂にも着かないし‥‥」
「ま、まぁな‥‥」
「とりあえず、
ヒカルとツヨシはナツキの提案に
しかし、進んだ時間ほど
「これって、どういうこと‥‥」
変わらない景色にナツキの
「あ、あのね‥‥みんな。実は‥‥」
ここでヒカルはみんなの不安を
「なんだ、それ。アニメとかマンガみたいな話しだな。なぁ、水原?」
ツヨシは少し飽きれていたが、ナツキは昨日のトッティの出来事を体験しているので、
「なるほど。あの
ヒカルの話しには真実味が有ると
「な、なんだ。水原はヒカルの話しを信じているのか?」
「私も昨日ヒカルが話してくれたような不思議な体験をしたからね」
この中で魔女と不思議な体験していないツヨシが
ヒカルとナツキは、そんなツヨシはほっといて今回の一件について相談し合う。
「それじゃ、これも魔女さんの仕業かな?」
「多分、そうじゃないかな‥‥」
「う~ん。それじゃ魔女さんが助けてくれるのを待つしかないの?」
「あの時は
「そうか‥‥。あっ!」
ナツキはポケットから
「こういう時のための携帯電話よ。迷ったら地図を‥‥」
すぐにナツキはディスプレイに表示されている電波アンテナを確認すると、アンテナは一本も立っておらず、そこには『
枯れ木山は市内の中央に存在おり、通常だったら電波が届く環境(通信エリア内)のはずなのにと思いつつ、別の手段としてナツキは母親に電話をかけてみたが、やはり圏外の為に電話が繋がらない。
電波が無い状況では携帯電話としての機能は
「ど、どうしよう‥‥」
「ちょっと木に登って、辺りを見渡してみるか」
「登るって‥‥あっ!」
ヒカルの言葉が言い終わらぬ内に、ツヨシはスルスルと木をよじ登っていく。その姿はまるで――
「猿みたいね」
ヒカルが思っていたことを、サラッと口にするナツキ。
登っていくツヨシを目で追いかけて見上げた時にヒカルは空の異変に気付く。
「空が、白い?」
見物している二人を余所に、ツヨシは一番高い枝別れの場所まで登り着き、辺りを見渡した。そこから眺め渡した光景にツヨシは絶句し、大声で叫んだ。
「な、なんだ、これ‥‥。真っ白だ!」
遥か彼方まで真っ白で何も無い空間が広がっていた。
ヒカルたちが暮らす伊河市はビルや建物などが立ち並んでおり、都会とは言えないがまあまあそこそこに発展している街ではある。その町並みが
下に居て、その
「真っ白って、なに? どういうこと?」
「遠くの向こうまで真っ白なんだよ。何もないんだよ!」
「だから、それって、どういうこと?」
ツヨシの発言に理解できず
一方ヒカルは
「やっぱり、ここって。あの
となると
「あれ? そういえば、あの犬は?」
ツヨシが木から降りてくる間、犬=トッティがいないことに気づいて訊ねた。
「え?」
言われて始めてナツキは自分が手にしている散歩ヒモの先に首輪しか付いていないのを見て、青ざめた。
「ちょっ! な、なんで!?」
慌てふためきながら、あちこち視線を動かしてはトッティの行方を探す。
「また、首輪から抜けだしたんだ‥‥」
つい昨日の同様の失踪理由にヒカルは気抜けてしまうが、飼い主のナツキは訳の解らない異世界でトッティが居なくなってしまい、さらに
「きっと、まだ遠くにいっていないはずよ。ヒカル、ツヨシ。お願い、トッティを探して!」
こうしてヒカルたち三人は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます