廊下

 


 



「な、なに今の……」


 外は予想に反して、おだやかな夕暮れの光をびた、静かな廊下だった。


「馬の耳に念仏だろ?」

と大輔が言う。


「あんたね、冗談じょうだん言ってる場合!?」

とにらんだが、


「俺は本気だ」

と返される。


「あれが馬の耳に念仏の正体かもしれない」


「は?」


「ここはとなり町の学校の元の校舎でもある。


 聞いたろ?


 人数が増えすぎて何校かにわかれたんだって。


 配膳室の霊の話は俺も聞いた。


 馬の耳に念仏じゃなかったと思うが。


 でも、あっちの旧校舎取り壊しても何もなかったし、俺も見たことあるけど、特にどうということはなかった。


 『配膳室の霊』の話は、語りがれたウワサ《うわさ》だ。


 生徒たちとともに、その旧校舎よりも前の校舎から、引っしてきたんだ」


「わかった、わかったけど」

と一志が口をはさむ。


「わかったけど、とりあえず、トイレッ!」


 怖がりのはずの一志がけ出した。


「あっ、こら、待ちなさい!

 ひとりで行っちゃ駄目だめっ!」


 一美の叫びに、

「僕が付いてくよ」

と浩太がそれを追いかけた。


 大輔はそれを見送っている。


 むずかしい顔をして立っているが、いつもなので、悩んでいるのかなんなのかわからない。


「大輔」

「なんだ」


「自分の失言しつげんに――」


 いや、いいわ、と自ら言葉を止め、大輔の足を思い切りった。


「なんなんだ!? お前はっ」


 スネを押さえてしゃがみ込む大輔を尻目しりめに、他のメンバーに問うた。


「ところでここ、何処どこだと思う?」






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