第十一話 そして物語は進む 中編

「あ、陽也君!」


 昼休み、僕はコンビニで買ってきたおにぎりと飲み物をスクールバックから取り出して、昼飯にしようとした時、女子(?)に下の名前を呼ばれて心臓の鼓動が速まった。

 ど、どうして僕の名前を? それより一体誰が?

 声のした方へ目を向けると、パァっと一輪の花が咲くが如く、可愛らしい笑顔で雨宮君が近寄ってきた。不覚にも恋が落ちそうになったのをすんでの所で思いとどまり、頭を振って気分を落ち着かせた。雨宮君は男。


「どうしたの?」


「う、うん、な、なな何でもないよ?」


 何だか雨宮君が教室に入った途端、周りからの男子の視線が雨宮君に注目していた。うん、僕に嫉妬の視線を向ける気持ちは分かるけど、雨宮君は男だよ?


「えっと、陽也君と一緒にお昼一緒にしたいかなって思ってきちゃった」


 きちゃった……。ダメだ、雨宮君なんて全然女の子じゃないんだからね! 男の子だからね! でもなんだか僕も雨宮君になら……。あ、ヤバい、今僕は何を言い出しそうになったんだ?

 うん、一旦雨宮君の事は考えず別のことを考えよう。


「いいの? その……雨宮君の友達といつも一緒じゃないの?」


「あはは……ボク男子の友達がいなくって、それに男子からはボクの事を女子だって思われているみたいで……。どうしてそう思うのか不思議だよ」


 ぷくっと頬を膨らませて怒る雨宮君も可愛い……じゃなくって、雨宮君は男! 

 それにしても友達がいないか。僕と同じで今までぼっちだったんだな。そう考えると共感できるな。


「女子の友達が多いんだよね」


「裏切り者!?」


「え!? ど、どうして!?」


 前言撤回、雨宮君はやはり女子にモテる可愛い男子で、共感なんかできなかった。僕は雨宮君をリア充認定する。これ絶対。可愛くってもこれだけは許さない! でも雨宮君の見た目なら女子の友達が多いのは納得できる。

 雨宮君は困惑顔で瞳を潤ませて、僕を見つめてくる。そんな目で見ても絶対にゆ、許さない!

 …………うん、やっぱり可愛いから許そう。可愛いは正義。まあ雨宮君は男だけどね。

 それから雨宮君は僕の前の席に座ると僕と向かい合う形になる。何だかお見合いしているみたいで緊張する。


「ご、ご趣味は?」


 やべ、つい口に出してしまった。

 唐突の質問に雨宮君はきょとんとする。


「料理かな?」


 僕の机の上に置いた雨宮君の弁当箱に目を向けた。定番のだし巻き卵にタコさんウィンナー、ほうれん草の胡麻和えにプチトマト。どれも美味しそうな出来映えである。普通に考えて母親に作って貰ったのかなって思ったけど……。


「この弁当って雨宮君が作ったの?」


「うん、そうだよ? あ、どれか一口食べる?」


 雨宮君の弁当は少し気になる。取りあえず、だし巻き卵を貰うことにした。すると、なぜか雨宮君がだし巻き卵を箸で掴んで僕の口元へ持って行く。って、これって恋人同士がすると言われる三大行為の一つである”あ~ん”ってやつ? そういえばモモっちにも”あ~ん”をされたけど、やっぱり恥ずかしい行為だと思う。

 でも友達なら普通なんだよね……?

 いやいやいや、ちょっと待って相手は男だよ? なぜ僕が男に”あ~ん”されないと……。


「もぐもぐもぐ……はっ!? い、いつの間に食べてた!?」


 僕はいつの間にか雨宮君のだし巻き卵を咀嚼していた。い、一体僕は何をされたんだ? これが噂で聞くポルナレフ状態? もしや雨宮君はスタンド使いだったのか!?

「え!? えっと、お、美味しくなかったのかな?」

 驚愕した僕に勘違いした雨宮君は不安そうな顔になって、上目遣いで僕を見上げる。あざとい。あざと可愛い。


「お、美味しいよ! これならお嫁さんになれるはずだよ! 俺のお嫁さんになって欲しいくらいかな」


「むぅ~陽也君もボクの事を女子扱いしてる……でも、ありがと」


 今僕の口が変な事を言っていたぞ。そして、なぜ雨宮君は頬を染めて俯いているの? 僕の心臓を何度ドキッとさせられるんだ。

 雨宮君が料理が趣味というのは本当のようだ。いや、別に疑っていないけど。エロゲの主人公とかデフォで料理スキルが備わっているくらいだから。


 僕だって漫画に影響されて料理をしたことはある。それにしてもあの漫画は料理する話なのに、老若男女裸になったり、急にバトル始めたりしてるよね。僕は結構好きだけど! おそまつ!

 まあ今じゃあ料理は全然してないし、作れるとしてもチャーハンくらいなら。もう何度も作った事があるからパラパラにできるほどである。得意料理はチャーハンだって自信持って言える。あ、チャーハンバカにしてるでしょ? あのパラパラにするのが結構難しく、奥が深い料理何だからね!


 僕は最後のツナおにぎりを咀嚼してから嚥下すると、ペットボトルの蓋を開けてお茶を飲み下した。

 外からはリア充達がギャーギャーと騒いでいて、複数人でサッカーをしていた。その中に久瀬君も混ざっていた。


 最近は僕とゲームの話で盛り上がったりするけど、改めて考えると久瀬君ってイケメンリア充ということを再認識させられる。僕と久瀬君の関係って友達と言っていいのだろうか? 

 そもそも友達の定義ってどこまでを指すのか、僕は本気で悩み始めた。モモっちからは既に言質を取ってあるため友達……と言っていいのだろう。……それにしても未だに友達と認めるのに躊躇してしまう。今まで友達がいなかったからかな。

 さて久瀬君は友達と名乗って良いのかという話だけど相手はイケメンのリア充、ここで僕の過去に起きた事例を語るとしよう。


 ケース1

 あれは確か友達だからお金を貸すのが当たり前だと言われたときのこと。

 その男子達はもちろん話した事のないクラスメイトだったけど、突然金を貸して欲しいと言ってきた。最初は逡巡する僕だけど、相手は友達だからお金を貸すのが当たり前だと言っていた。当時の僕は友達という言葉に少し嬉しく思い、舞い上がっていた僕はお金を貸した。金額は確か120円。丁度、自動販売機で飲み物が買える金額である。


『あ、あのい、一緒に遊ばない?』


 友達ができたことに嬉しくなった僕は次の日、勇気を出して声を掛けた。しかし、その男子達は僕の言葉に眉を潜め、それから笑いを堪えるように俯いて腹を抱えていた。


『ぷくく、友達って、あれマジで言ってるのか?』


『え? だ、だってお金貸したらって』


『お前マジでバカだな! お前が渋ってたから、友達のいないお前に”友達”って言えば貸してくれると思って言ったんだよ』


 僕はこの事件名を”友達詐欺事件”と名付けた。相手はぼっちの僕に友達という甘言を吐くことで騙す最悪の事件。

 それ以来、僕は相手が”友達だから”という言葉に気をつけるようにしている。



 ケース2

 この事件の加害者は女子。

 いきなりアドレスを教えてと言われた事から始まる。

 当時の僕は女子と真面に話した事がなく、友達がいなかった。男子も女子も友達いなかったけどね。

 それで一度声を掛けて貰った事に僕は嬉しくって舞い上がるほど純粋だった。ましてやアドレスを教えてと言われたら、それはもう嬉しくって直ぐさまアドレスを教えた。

 僕はメールを送ろうと必死に文章を考えて、まずは友達からというメールを送った。結論から言えば、返信が来たのは次の日の朝でした。


『あ、ごめん。気付かなかった。てかさ? これ罰ゲームでアドレス聞いただけなんだよね。悪いけど、もうメールしてこないで?』


 その日、僕は悲しさのあまり、学校を休んだのである。

 僕はこの事件名を”悲劇の勘違い事件”と名付けた。

 それ以来、女子から連絡先を聞いてきたときは罰ゲームの可能性を疑うことにした。

 そう考えるとモモっちの場合はどうなのだろうか?

 今更ながら僕はモモっちを疑い始めた。果たして罰ゲームで僕に近づいて来たのだろうか?



 二つの事例を述べた通り、イケメンに限らず、リア充はぼっちを標的に笑いものにする傾向があるということ。

 何だかここ最近連日してイベント続きなのは、もしかすると僕がぼっちだということを面白がって、リア充を楽しませるおもちゃとして近づいて来たんじゃ?


 一度疑い始めた僕は泥沼に足を捕られたような錯覚に陥って、冷静に考えがまとまらなくなった。

 目の前にいる雨宮君もそうなのだろうか?

 僕はじーと雨宮君の事を見つめた。

 もぐもぐと食べる雨宮君の姿は小動物を連想し、思わず頬が緩んで可愛いと思ってしまう。

 その様子から純粋で悪意など全く感じられない。雨宮君に限って僕を騙そうという事は無いだろうと思った。うん、きっと違う。


「? 陽也君?」


「雨宮君は僕を裏切らない友達だって信じてるよ?」


「うん? えっと、陽也君はボクにとって一番の友達だからそんな事ないよ!」


 無垢な雨宮君の言葉に僕の心は満たされ、雨宮君なら掘られてもいいなんて考えてしまった。ダメだ、雨宮君は友達で、彼女(彼氏)になって欲しいとか望んではいけない!?

 僕の視界に映る数人のリア充はわいわいとサッカーを楽しんでいる。

 リア充爆発しないかな……。

 段々と目が腐ってリア充を呪う言葉が実際に口に出そうになる。このままでは僕はダークサイドに落ちてしまう。僕は窓の外から視線を逸らして雨宮君を見た。目の腐りが徐々に回復する。

 あ~雨宮君って目の保養になるんだね。


 予鈴が鳴ると雨宮君は自分の教室へ戻り、嫉妬の視線はいくらかなりを潜める。何だか疲れた僕は溜息を漏らす。今度から別の場所で雨宮君とお昼一緒にしようかな。次があるのか分からないけど。

 そして、入れ替わりに久瀬君達リア充組が教室に戻ってくる。


「やっぱだいちゃんサッカー部に入るべきだって!」


「そんな事言われても入る気がないからな」


「マジもったいね~わ」


 久瀬君が席に座ると周りにはいつものリア充メンバーが集まってくる。

 クラスの女王こと鳴海玲菜さんが久瀬君の机に寄りかかって会話に加わる。


「大輝って部活入ってないっしょ? それ不思議だったんだけどどして?」


「そうだな……俺にはやりたいことがあるからってのが理由かな」


「ん? だいちゃん何かやってんの?」


「バイトしてるくらいだよ」


「お、だいちゃんバイトしてんだっけ?」


「それってこの前ウチらが行ったファミレスだっけ……ウチもそこでバイトしてみようかな」


「ん? 玲菜はバイトしたいのか? まあ俺から店長に言えば即採用してくれるだろうし、いつでもウェルカムだぞ」


「あのファミレスの制服って可愛いよね~」


「それな! ぜひアミチーに着て欲しいわー」


「ごめん、キモいからあたしで想像しないで? マジきもいから」


「アミチーキツくない?」


 久瀬君達リア充グループは本鈴が鳴るまで喋り続けていた。

 コミュ障の僕ではそんなに長く喋り続ける自信は全くない。そもそも何を喋ったら良いのか分からない。けど聞いていると中身のない会話が永遠と続いているから、それって本当に面白いのかなって疑問はあった。

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