第9話 "解放"へ

「敵戦術機、発見順に#01より#04と命名。機体はこれまでと同じBR-101……」

「あぁ、DD以下の戦闘部隊が対処している。救出作戦は順調だが、ほぼ同時に4機も現れるなんっ」


 トーギが急ハンドルを切った。

 鈍い爆発音、瞬時に敵戦術機、BR-101の発砲音と2人は理解する。

 合流していた、EEのメンバーも散開する。

 雨儀はインカムの発声チャンネルを切り替える。EEに命令を伝える。

 伏兵でない、奇襲でない。

 しかし、敵の動きは前回と比べ、格段にキレている。


「EE、これより#03,#04を救出車両ルートから逸らすことを最優先とす。DD、部隊を切り分け4チーム作成し、これから指定ポイントに待機」


 トーギと雨儀は、司令官として戦闘部隊と行動を共にすべきではない。

 しかし、今回は敵の動きが素早く、屋上から現場を見渡すだけでは足りず、現場で指揮をとることに変えたのだ。

 #01,#02の2機は、罠として仕掛けた爆弾で対処できたが、#03,#04はこちらの動きを警戒しているのか、真っ直ぐに追いかけてくることもない。

 一見不規則な動き、しかし、予測できるわかる。雨儀はそう思った。


 インカムにD1からD4の編成完了の通達。


 最優先事項、救出部隊のトラック。

 同、地下避難所。但し、戦術機侵入の可能性低の為、無視可。

 優先事項、敵戦術機の作戦地域外への誘導。

 ……雨儀は、優先事項を思い浮かべながら命令を重ねる。


「D2、射程内に敵が到達次第、攻撃を開始。破壊する必要はないが、奴らに自分が脅威であると示せ」


 敵戦術機は、明らかに"訓練"を受けた者の動きをしている。

 だから、雨儀は鹵獲を提案し操縦者を拷問しようとしたのだが、あのBR-101にコックピットは存在しない。

 遠隔操作か、はたまたAIか。しかし、AIだと膨大な学習データを用意しなければならない。端的に言えば、BR-101が戦前にもう稼働していたことになってしまうのだ。

 雨儀は思考による詮索を止めた。突如、トーギが切羽詰まった声を出す。部隊の指揮に集中するため、インカムのチャンネルを変えていた雨儀は知るのが遅れた。


「くっそ、まずった」

「なっ、何で」


 バギーの進んだ先には、人がいた。数人、数十人というレベルではない。

 そのすべてが布切れで肌を隠した状態、つまり、トラックに乗れなかった人々が道端に溢れたのだ。インカムに手を当てるトーギはさらに、トラックの数台が人によって倒されたとの連絡を受ける。

 #03,#04の即刻破壊を優先、状況が"誘導"を不能にした。

 雨儀、トーギは方針を切り替える。

 被害を"ゼロにする"ことから、被害を"最小限にする"方へと。


「D3,D4、#03の足と腕を狙え。グレネートは自由に使っていい。対象の無力化を最優先とす」

「AA,BB、次のシェルターに向かっているところだろうが、引き返しEEの支援に入れ。トラックが何台もやられちまったからな」


 トラックは、アジトと地下避難所を数度行き来しているが圧倒的に足りない。

 鳴り響く爆発音が悲鳴をかき消す。アスファルトが流れた血で固まっていく。

 #03の足が何度目かの爆風でぐらつき、膝をついた。


 2台のバギーが怯んだ#03に突撃をする。1台は50口径の餌食となった。

 雨儀たちは驚き、静止の声をインカムに送ったも空しく、約3キロの爆薬が#03とゼロ距離で炸裂する。


「……くっ」


 バギーのドアを蹴る雨儀の横で、トーギは#03を無力化できたことを確認し次の行動に移ろうとした。

 死体死体死体……その上を走ることも可能だが、トーギは雨儀の手前、あえて避けてバギーを走らせる。


 触発されたのか、#04に自爆の突撃を実行する者が現れる。

 軽い銃声が混じる。2人は自動小銃によるものと理解。

 裸体の女が血と涙を流しながら、安全装置の外された銃の引き金を引いている。

 現場には、散った"軍人"の火器が散乱。日本人のくせに、誰でも銃に触れられる状況。

 女は、戦術機に銃口を向け発砲したが、銃の反動リコイルであらぬ方向へと鉛玉は発射される。

 女の鉛玉に息子の息の根を止められた男が、銃を拾い女を撃つ。

 他の者が自分も撃たれると曲解し、武器を取る。

 故障した銃が暴発する。誰かの手投げ爆弾が悲鳴を助長する。


 トーギはアクセルを踏みしめ、現場からの離脱を優先する。命を優先した。自分のものではない、大切な命を。

 トーギは助手席に目を向ける。

 雨儀は目を閉じていた。それは、黙祷でも祈りでも諦めでもない。音に集中していた為だ。

 #04以外の音。BR-101とは異なる音。耳を澄ませるが遠くに聞こえた音は中々拾えず、雨儀は突如インカムから入った音声に驚く。不意打ちであったこと。そしてまた、その内容もであった。


『こちら、アジト管理局、豊洲副司令。司令官、お聞きしたことが……』



 ——どういった了見で異邦人にライフラインの管理を任せているのでしょうか。



 そう続いた言葉に雨儀は、血管が縮むのを感じた。

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