奇談その四十 野中の一軒家

「あれかな?」

 未舗装の林道をリュックサック一つを背負って歩いていくと開けた場所に出た。そのほぼ中心辺りにある茅葺屋根の平屋が見える。日本各地を渡り歩き、「出る」と噂の空き家を探索するのが趣味の僕は足早にその平家へと進んだ。そろそろ日もくれようかというのに灯りが点いている様子はなく、空き家なのは疑いようがない。僕のような探索者にとってはその方がありがたいのだ。空き家であれば、気兼ねなく入れる。もちろん、警察などの組織が動くと面倒なので無理に中に入ったりはしない。

(中で寝るのは難しいかな?)

 近くまで行くと傷みが激しいのがわかる。いつ崩れるかわからない荒れようだ。強い地震が来れば、間違いなく倒れてしまうだろう。それ程大きい訳ではないので、手早くすませて宿がある所まで戻ろうと考え、スマホのライトを頼りに中へ足を踏み入れた。ネットの情報では小さい女の子の霊が出るという事だ。ある者は、昔悲惨な死を遂げてこの世に恨みを残して死んだ少女の霊だと推測し、ある者は座敷童子だと推理したが、何かいてくれれば、それでいい。

 まずあったのは広い土間だった。昔の造りだ。そのまま台所らしき場所へと続いている。ほとんど原型を止めていないかまども見えた。

「む?」

 背後で何かが動いたような気がした。振り向いたが、誰もいない。僕は高鳴る鼓動を抑えるために深呼吸をすると、更に奥へ進んだ。台所を抜け、一段高くなった板の間へ上がる。床には穴がたくさん開いており、危険な感じだ。

「おや?」

 しかし、ライトで照らすと靴の跡が残っている箇所があった。誰かが歩いたのだ。僕はその跡を辿り、板の間の向こうにある破れて半分骨組みが見えている襖に近づいた。思わず唾を呑み込み、襖に手をかけた。

「おい」

 突然背後で男の声がした。警察官かと思い、振り返ると、作業服を着た顔の下半分のほとんどをひげで覆った男で、どう見ても警察官ではない。

「どうしてここに俺が盗んだ金塊があるって知ってるんだ?」

 男は大きな登山ナイフを取り出して凄んできた。僕はそこでもう一つの噂を思い出した。この平屋に行った者は誰一人として生きて帰った者はないと。

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