奇談その三十九 こどもの日

 亮輔には二人の孫がいる。一人は年長さんでもう一人は一歳。上が女で下が男。亮輔自身も自分の子の順番をそう願ったが、思うようにはいかなかった。男、男、男。次こそはと思ったが、妻に拒否された。


 息子達は成長して結婚し、長男に女の子が生まれた。亮輔は仕事の合間ができると会いに行った。

(孫は可愛いよな)

 自分の子に愛情を注いだ記憶がない。妻には育児を手伝って欲しいと言われたが、仕事のふりをして逃げていた。三人目が生まれてからは家に寄り付かなくなり、遠い仕事を意図的に請け、現場の近くの旅館に寝泊まりする程だった。

(酷い父親だったな)

 苦笑いして過去を反省し、埋め合わせをするように孫には愛情を注ぐつもりだった。

 

 こどもの日。亮輔は自分の子にはおもちゃを買ってあげた事がなかったが、孫にはたくさん買い与えている。長男は何も言わないが、嫁が嬉しそうではないのに気づいた。亮輔は早々に長男の家を出た。

 帰り道、上の孫と同じくらいの男の子が公園のブランコに揺られているのを見かけた。

(似ているな)

 亮輔はその横顔に長男の小さい頃を重ね合わせて近づいた。

「一人か?」

 微笑んで声をかけると、

「おとうさん、おかえり!」

 嬉しそうにかけてきて亮輔に抱きついた。

「お父さんじゃないよ」

 亮輔は男の子を引き剥がすように押しのけた。男の子は、

「ぼくはおとうさんのこどもだよ」

 泣きながらまた抱きついてきた。亮輔は何故か男の子に嫌悪を感じてまた突き放した。

「あっ!」

 強く突き飛ばしたつもりはなかったが、男の子は背後にあった段差に足を取られて転び、頭を打って動かなくなった。

「え?」

 亮輔は男の子を抱き起こしたが、息絶えていた。


「うわあ!」

 大声をあげて起き上がると自宅の寝室だった。

(夢か)

 亮輔はベッドから抜け出して階下に降りると、朝食をすませて外へ出ようとした。

「どこへ行くの?」

 妻が尋ねた。亮輔は鬱陶しそうに、

「孫の所だよ」

 すると妻は、

「私達には孫はいないわよ。一人息子の卓司が公園で不審者に殺されて次のこどもを諦めたのよ。何言ってるのよ!」

 妻が泣きながら亮輔の背中を何度も叩いた。

(まさか?)

 亮輔は息子を殺した事を知った。

 

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