第5話 不審戦隊☆ストレンジャー

 天道渡らとの騒動から2週間以上が経っていた。今のところ彼らが守を強請ったということはない。守の方はこれで平穏無事で終わったが、俺はあの騒動のあと、クラスの連中からヤンキーだと恐れられている。でも、中には「やっぱり」という声も聞こえるので遅かれ早かれこうなっていただろう。むしろ学校での俺の立ち位置を明確にできたのでよかったんじゃないかと思っている。

 実際この学校に入学してきた当初から俺は警戒されていた。近藤曰く俺の目つきの悪さや時折見せる不愛想な態度からヤンキーだと思っていた奴はこの学校にも少なからずいたらしい。俺の中学時代のちょっとした武勇伝はこのあたりでは都市伝説として触れ回っていたらしい。半信半疑という奴がほとんどだが中にはそいつの正体が俺だと見抜いた奴もいたらしい。最も証拠はどこにもなかったが。近藤も噂だけを頼りに俺に接近してきたようだ。

 かくして今回の騒動でちょっとした疑惑を完全なものにしてしまった。都市伝説と同一人物だということはバレてないと信じたいが、それも時間の問題でバレてしまうかもしれない。

でも、後悔はない。

 そんなある日の金曜日、東条が俺の家に遊びに行きたいと言ってきた。昼休みに俺が最近買った格闘ゲームの話をしていると東条もそのゲームをやってみたいと言ってきた。それに関しては特に問題なかったので俺は了承した。ついでに、近藤も誘ってみたが、

「すみません兄貴。今日は見たいアニメがあるのでやめておきます」

と言ってきた。ちなみに俺は念のため天道や他の奴が金を奪おうとしてきたりいじめたりしてきた場合に備えて、こいつを舎弟にすることにしていて、兄貴と呼ぶことも許している。前回の騒動は少なくても1年生の間では知れ渡っているので俺がバックにいればそうそう近づいてこないという判断だ。俺は冗談で、

「舎弟のくせに兄貴の誘いを断るとはいい度胸だな」

と笑いながらと言ってみた。

「す、すみません!僕が間違っていました!!そうですよね、僕には兄貴以上に優先しなければいけないことなんかありませんよね。もうこのアニメは一切見ません!購入したDVDやBlu-rayも全部捨てます!だからお願いします!許してください!」

近藤が頭を下げて許しを請う。そんなことを教室内でするものだから、クラスの連中の怯えた視線が俺に投げかけられる。

「わかったよ、そこまですんなよ!今日は来なくていいからアニメ見とけよ!」

ていうか録画しとけばいいんじゃね、と思ったがギリギリでその言葉を飲み込んだ。またあいつは騒ぎ出すに決まってる。

「でも誘ってくれて嬉しかったです。また誘ってください。毎週木曜は見たいアニメはありませんのでいつでもどーぞ」

「アニメ三昧じゃねぇか!!ほとんど誘えねーじゃん!」

と言う訳で東条が家に来ることになった。

 ここで東条との出会いについて語ろうと思う。あれは4月の終わりに差し掛かる時だった。あの頃の俺は何とか友達を作ろうとクラスの奴ら(ほとんどが男子)に話しかけていた。しかし馴染む気配はなかった。俺がヤンキーだと噂されていたし、俺の目つきや態度も悪かったのかもしれない。友達ができずにナーバスになり少し早い5月病になりそうだった。

 東条はと言うと、入学して1週間もしないうちにクラスの女子達の注目の的だった。ファンクラブまで作られているらしいとの噂もあった。男としてなんかムカついたので俺はこいつには話しかけなかった。

 いつものように一人で家に帰ろうとしていると二十歳くらいの女性が男に絡まれていた。男は耳にピアスをしてリーゼントにした金髪が特徴のいかにもチンピラという風情だった。男はしきりに女性に誘いの文句をかけ続けている。女性は断っているのだが諦めようとしない。

 ちょっくら助けようかなーと軽い気持ちで彼らに近づく。ここは学校からはそうとう離れているから治外法権だろうと踏んでいたし、困っている女性を助けなくては男が廃るとばかりに勇み足で男に接近。

「あ~ん、なんだお前は!邪魔すん、」

奴の言葉を遮り俺は得意の頭突きをかます。奴はその場で昏倒した。

「大丈夫ですか?」

そう言ったのは俺ではなく、いつのまにか女性に近寄っていた男だった。

それが東条だった。なんだこいつ、人の台詞横取りしやがって。

「大丈夫です!助けてくれてありがとう!」

その女性は目を輝かせながら東条にお礼を述べる。ん?助けたのは俺じゃねーのか?

「お嬢さん、大丈夫ですか?」

俺は最大限のキメ顔と低音ボイスを使う。

「ああ、うん。ありがとうございました」

なんだその淡白な応対・・・。深夜のコンビニ?

東条が俺の方を向いて、

「この人を助けてくれてありがとう。えーと、確か・・・いし・・・石・・・石頭君だっけ?」

「俺のキメ技で判断すんじゃねーよ!俺の名前は石川智樹だ!」

「うんよろしくね。じゃあこのひとも怪我はなさそうだし俺はこれで」

「待って~、お礼させて♡コーヒー奢るから」

「待って~、俺居させて!コーヒー奢ってもいいから」

「大丈夫です」

「なにが大丈夫なんですか?」

「さっき大丈夫?って聞いてきたじゃないですか」

「もう話変わってますよ!なにこの時間差?」

「はぁ」

なにその冷淡な応対・・・。

「どうして俺は誘わないんですか?俺も助けましたよね?ほとんど俺のおかげでしたよね?」

「あなたも私を誘うんですか?さっきの男みたいに。もう勘弁してください・・・男性不信になります」

流石にここまで嫌われたらもうこっちから願い下げだ。

「ああわかりましたよ!その男とコーヒー店でもラブホテルでも行ったらいいんじゃないんですか?このビッチがっ!!」

捨て台詞を言って俺は立ち去る。メチャクチャ感じ悪いな。暴漢から女性を守っていた勇敢な高校生はどこにいったんだよ。二人から遠く離れて行ったよ。

 次の日俺は教室で東条に話しかけた。

「昨日はお楽しみだったんだろ?女性に金払わせてコーヒー飲んでからラブホに直行ってか?あれれ~、これって売春ってやつじゃねーのか?」

「ラブホには行ってないよ」

「そんなの信用できないな~、とにかくこれは学校に報告しなければいけない。俺の使命感と正義感の為に」

そんなものはない。ただの嫉妬だ。

「もう報告してると思うよ?」

「はあっ!?」

「あの人この学校の理事長の娘さんらしいんだ。だからこのこと学校に報告して俺は近々感謝状を貰うらしい。そんなものいらないんだけどね」

「ちょっと待て!実際に暴漢を倒して、あの人を助けたのは俺だろ!?」

「そんな人記憶に無いってさ」

女の記憶改竄ってこえー。

「でも良かったんじゃない?そんな人をビッチ呼ばわりしたんだよ、もし石川君のこと覚えてたらまずいんじゃない?それに女性に執拗に誘いをかけてる男とはいえ、やっぱり気絶させるのはちょっと・・・」

確かにそうだな。むしろ忘れていて助かった。でも俺のムカムカは治まらない。

 はっきり言おう、俺は何もかも上手くいってしまうこいつのことが嫌いだった。でも今はこいつと一緒にいる時間が楽しいし、気に入っている。だから友達だと胸を張って言える。

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