第3話  試される勇気と友情

 歓迎会の次の日、登校し教室に入った僕を一人の男子生徒が呼びつける。

「守く~ん、わたるさんが呼んでるよ~」

またあいつか。うんざりしながらも表情には出さずに呼び出しに応じるまま、天道渡てんどうわたるのもとに向かう。

「おう、守く~ん。この前貸した金返してほしいんだけど~」

僕は財布から3万円を取り出し奴に差し出す。

「いや~、守くんは本当に俺からたくさん金借りるよね~。

すぐに返してくれるからいいんだけどね。次も頼むよ~?」

僕は無言で奴らから立ち去る。

 嘘だ。本当は奴に金なんか貸りていない。

僕は定期的に天道渡に金を渡している。でもあいつも教室で白昼堂々カツアゲするわけにはいかないから貸した金を返すという名目で僕の金を奪っている。僕を狙う理由は僕が金持ちの家の人間だから、という理由だけではないだろう。奴らは楽しいんだろう、僕をいじめるのが。

 実際中学時代からこんな経験は何度もあった。こんなことをされないために一生懸命勉強して比較的レベルの高い学校に入学したのに、まさかここにもこんなクズがいるなんて・・・。クラスの連中も薄々感づいてるだろうけど、厄介ごとには関わりたくないのか見て見ぬふりをしている。

 でもそんな日々ももうすぐ終わる。かつてあいつらみたいなクズをぶっ飛ばしてきた石川智樹が用心棒になればきっと僕へのいじめはなくなる。昨日路地裏を通った時、わざと遠回りしてあいつらを観察した。クズ共がこちらを威嚇しながらもおびえている様子だったことからも間違いない。あの人は本当に僕のヒーローになってくれる。



 近藤守と出会ってから1週間以上が過ぎた。近藤はあの日から俺の舎弟になった気分で毎日漫画本やパンを献上してくる。もちろん俺は反対したが、奴は聞く耳もたずで俺を「友達」ではなく「兄貴」呼ばわりしている。東条はというと

「毎日パン買ってきてくれるの?いいなあ、俺の舎弟にもなってくれよ?」

なんてふざけたことをぬかしやがる。お前は舎弟どころか奴隷みたいに働く専属のメイドになってくれる女がそこらじゅうにいるだろうが。

 昼休みにいつものようにあいつがやってくる。

「兄貴、焼きそばパンかってきました!」

「だからいらねぇって言ってんだろ。昼飯弁当なんだよ」

「でもせっかく買ってきたんだから食べてくださいよ~、

兄貴の弁当は僕が食べますから」

「なんでそうなる!」

「じゃあせめて焼きそばパンの「パン」の部分だけでも食べてくださいよ。焼きそばは僕が引き受けます」

「焼きそばパンから焼きそば抜いたらもうパンしか残らねーじゃん!残パンだよ、残パン」

「うわー兄貴食事中にザンパンとか言わないでくださいよ~」

近藤がそんなことを叫びだすもんだから食事していたクラスの奴らが俺を睨んできた。って俺が悪いのかこれは!

東条が口を開いた。きっと俺の汚名を晴らしてくれるはず。

「食事中に喧嘩するなよ、ザンパンマン」

まさか俺を汚名で呼ぶとは思わなかった。

「誰がザンパンマンだ!新しいアンパンマンの仲間?んなもん日曜の朝っぱらから放送できるわけないだろ!」

「顔面にモザイクつければいいんじゃありません?」

「余計気色悪いわ!つーか乗っかってくんじゃねえよ近藤!!」

「でもこのパン消費期限が今日なんですよね~。今日中に食べてもらわないと本当にザンパンになってしまいますよ」

「智樹、ここはザンパンマンの汚名を晴らすために頑張って食え」

「ザンパンマンを命名したのは東条だろ!」

しかしこの険悪な空気を一変させるためには本当に俺が食わなければいけなくなってしまった。俺は無理やりこの炭水化物の塊を口に放り込んだ。

 それから少し経ってから一人の男子生徒が教室に入って来た。

「おう、ここにいたか守くん。渡さんが呼んでるよ~」

「うん・・・。今行く」

近藤は席を立ち一礼してから隣の教室に向かう。

 胸騒ぎがしていた。さっきまで楽しそうに話していた近藤の態度が一変して急に深刻な顔をしたからだ。それに「渡さん」が呼んでると言っていた。その名前には聞き覚えがある。最も俺の想像と同一人物かどうかはわからないが。

「トイレに行ってくる」

東条にそう言い残して俺は隣の教室に向かった。そうして目撃した。

近藤が天道渡に金を渡している現場を・・・。

そして俺はようやく理解した。近藤が俺の舎弟になろうとした本当の理由を。

 近藤は俺に用心棒になってもらって自分をいじめの対象から外したかったのだ。確かにあいつら悪ガキ集団なら俺が傍にいるだけで十分抑止力になる。

 実際こんなことは何度もあった。今まさにヤンキーに襲われていて俺の助けを求める人間、ほかのグループを潰そうと俺を用心棒にする輩。後者に関しては引き受けようとはしなかったが。

 もしここで暴力沙汰を起こせば間違いなく教育指導の教師に絞られる。周りからはヤンキー扱いされて平穏とは程遠い学校生活を送ることになるだろう。

 だが、近藤は仮にも俺のことを「兄貴」だと慕っていた。俺もあいつのことを「友達」だと思ってる。どちらにしろ見捨てるわけにはいかないよな。

 近藤、今助けるからな!


ついでに一人のいじめられっ子を救った英雄として女の子に慕われたい、という下心も胸に秘めながら。

 

 

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