穴の中の君(改稿版)

 土手の横。

 うさぎ穴の中で君を見つけた。

「なにしてるの?」

 君はこたえない。

 ああそうだった。君は秘密が好き。っていってもかなり恥ずかしい状況だよ?


 なにかの実験をしているんだろう。そうだよね?

 それじゃあ、とボクも手伝いをかって出る。

 君は了解のサイン。

 だけどあれ? 気づくと姿がない。

 どこへ行ったの? まるでわからない。穴の中を移動してるみたいに。


 ドーン!


 ひどいよ、つき飛ばすなんて。

 それとも仕返しかい?

 ボクが君の居場所をあばいたから? そりゃそうか。


 だったら、食事もとらずに埋まってたらよかったんだ。

 ボクは帰ろうとする。ああ、なんと言われようとそうすべきだったんだ、最初から。


 ポツリ、雨粒が降ってきた。

 だめだ。帰ろう。ほらこっちへ来て。

 ボクのコートはせまいから、二人くっつきあって。ちょっと胸が高鳴るシチュエーション。


 雨、やまないなあ。

 公園の遊具の中に隠れたけど、きっとそれは仕方のない成り行きで。

 君はまたそこいらの穴ぼこに収まりかえってる。穴が好きだなあ。

 帰るんだって言ってるだろ?


 穴なんかにハマってる場合じゃないだろ?

 思わず笑って、手をのばす。

 汚れた頬をぬぐい、腕をとる。

 さあ、帰ろう。みんな待ってる。

「私にはあなたがいればいい」

 耳を疑った。なんだって? とボクは頭を叩く。耳の穴までほじったけど、やっぱり気のせいかな。いや、そうだね。そうに決まってるよ。

「ずっとここにいたいって聞こえたけど、ボクはつきあわないよ」

「……!」

 君はしゅんとして出てきた。少し笑っちゃったよ。



               END

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る