2017年7月8日「夢は終わらない」

 いよいよだ。高校の始業式。待ちに待っていたこのシチュエーション。

 髪を二つのおさげにして肩に垂らし、ダテメガネOK.スカートはひざ丈。胸のリボンは曲がってない。よし完璧!

 夕べは九時になる前に寝たし、肌のコンディションもいい。ウィーン少年合唱団の音源で目覚めたのも幸先が良い。さて、あとは八枚切りのパンにレタスとハムを挟むだけ。


 もちろん、それにはわけがあって、ズッシリ重い朝食は苦手なのだ。だから水だしのインスタントコーヒーを一気飲みして用意したサンドイッチをくわえて家を出た。


 当然遅刻寸前……というわけではない。私は確かに時間にルーズだ。だからこそ、どうあっても遅刻しないですむ方法を小学生の時からとっている。朝、星を見ながらパンをほおばってのんびり歩く。こんな時間にでくわすクラスメイトもいないから、何だか知らないが一昔前のギャルゲーのようなことにはならない。


 しかし私は新聞屋のバイクと接触してしまった。

 だいじょうぶですって言ったんだけれど、相手が気にして連絡先と病院を勧めてくれた。

 なんか。なんかな……最近のお年よりって過保護だな。


 そんなこんなで始業式には遅刻した。

 肘のところをちょっと打っていたらしいので、シップを処方されて包帯を巻かれた。


 クラスの女子がよってたかってからかう。そんなに私の遅刻がめずらしいのか。そうだろうな。しかし、ケガの事情には触れてこない。やっぱ、うわっつらだな。


 そう思っていると、昼休み。

 座席が教室の対極線上にいる男子に話しかけられた。

 え? なんだろ。今まで口きいたこともない奴……。


「何の用?」

 弁当を食べる手を一旦止めた。

「部活でもないのに、いつも登校一番のりなのに、どうしたのかなって」

 私はゴクリと卵焼きを丸のみ。

「今日はオレが一番だったからさ。気になっただけ」

 つまんない男。でも意外なことでもあった。

「明日はいつも通りくる?」

「ああ、うん。そうじゃない?」

 適当に言ってるだけだけど、彼はうれしそうに微笑んで、

「そっか、ならよかった」

 意味はわからないけど、なんか、顔が熱くなった。



               END

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