星に願いを

水田真理

星に願いを



七夕の朝。

人身事故が起きた。

私は、人身事故の先頭車両に乗っていた。

ビーと響く低い音を鳴らしながら、電車は停車した。

これまでの私なら死ぬなら人に迷惑をかけないで死んでほしいって思ってた。冷たくて、どうしようもない感情。資本主義的な考え。


でも、今日は違った。

今日は七夕だったから。

自分ののっている電車がひいてしまったから。


飛び降りた人が死にたいと思っていても、生きてほしいと助けている人がいる。


どうして飛び降りたのか。

飛び降りた人には家族がいたのか。

心配してくれる誰かがいなかったのだろうか。

こんな世の中でも生きててもいいやって思えることはなかったのだろうか。

何を考えたとしても、第3者にしかなることができない 。


私も死にたいって思たことがあった。それでも生きている。死にたい理由は多くあっても、生きたい理由はたったひとつしかなかった。

明日のテレビ見たいなって、あのアーティストの発売日まではって思うだけかもしれない。でも、それだけで人は生きられる。


今、七夕に願いを込めるなら、今日が七夕だって知ってほしい。

七夕だし、って願いを込めてほしい。


飛び降りたことも、ひいたことも、亡くなったことも、見ていたことも間違えようのない事実で変えることもできないし、当日そこにいた誰かのせいではない。第3者の放つ綺麗事ほど残酷なものはない。でも、私は忘れたくなかったから。


私もあなたも今日は傍観者だった。

でも、いつか当事者になる。あなたも私も。

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星に願いを 水田真理 @mizutamari_tukitomo

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