命の教えを刻み、少年は幾重もの屍を踏み進む。兼定とともに。

やり直すはずだった日常が、壊れていく。
突然のことに主人公、上町邦彦は現状に追いつけない。中学生、15歳なら無理もないでしょう。
彼は祖父をはじめ、様々な人達――個性豊かな仲間たちに生きることを教わりながら、迫り来る「死にかけ」を倒し、踏み、進んでいく。
幼馴染の女の子、ユミを救うべく。ただの幼馴染という枠を越えて、大事な存在となっていく彼女を想い、時には辛い別れも刻みながら一歩ずつ強くなっていくのです。
好きな子を救うために敵を討つというシンプルな構成ですが、それがいい。最後まで圧巻でした。

「ゾンビVS日本刀」ってキャッチコピーに惹かれ、そしてタイトルの「カネサダを北極星へ向けろ」がかっこよくて、パッケージ買いっていうのかジャケ買いっていうのか…読み始めた動機はそんなでしたが、本編がめっぽうかっこよく、物語に引き込まれました。
武道に関する知識や描写が作者様らしく、とにかく説得力があるので安心して読み進められます。いや、内容はまったく安心できないんですが。
生きるか死ぬかの瀬戸際で、それに仲間が容赦なく死んでいく……つらいです。好きなキャラクターが死んでいくのはつらいです。
それでも生きなきゃいけない。死ぬわけにいかない。邦彦とともに前を向いて進んでいきました。

リアリティあふれる情景に、この悲惨さがどうにも身近に起こりそうで、怖い。
たとえゾンビに襲われないにしても、日本は災害大国ですから生き抜くための術、知恵や武器を備えるに越したことはない。便利になりすぎた現代だからこそ必要な知識ですね。
正吉おじいちゃんの教えに頷きながら、ショウさんのマニアックな知識に唸りながら、読者も主人公とともに術を蓄えていける。
スリルなサバイバルアクションだけでなく、たくさんのことが学べる一作でもあります。
また、物語もさることながら、筆致のかっこよさに惚れました。
愛すること、生きること、死ぬこと、戦うこと、大事なものを得られる作品です。ぜひ、ご一読ください。

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