第20話 コラボ4「眠れる森の美女×トラック転生」

※短編「トラック転生したら、茨だったんですけど……。」と同一作品です。



 気付いたら、俺は「いばら」になっていた。


 茨とはアレだ。

 つる性植物で、トゲトゲがあって、時に花を咲かせる。

 眠れる森の美女の城を取り囲んだという化け物的な植物も、茨だ。


 ――って何じゃこりゃああああああッッ!!


 体は最早手足などの区別のない葉緑体の塊。声帯はない。

 絶叫は俺の精神というか魂の主張だ。


 何でこんなわけのわからない事に?

 はあもうこれ夢決定だろ。

 瀕死の俺の脳みそが本当に死ぬまでに見てる夢だ夢。


 何故に瀕死かっつーと、俺はついさっきトラックに轢かれた。


 学校帰り、猛スピードで間近に迫るデカブツとぶつかった。

 冷たく硬い感触と一瞬にして全身に伝わる籠った衝撃音、まるで紙風船をパンと割るように鼓膜とか諸々が破裂した感覚をよく覚えている。

 つーか、これ、え?

 まさか俗に言うトラック転生?

 夢じゃなく?


 でも茨って、茨ってか……っ。


 こんな、こんな理不尽があっていいのか!?

 異世界転生のラノベなんて読み漁るんじゃなかった。

 そうしたら今の状況と創作物とのギャップに絶望することもなかった。


 ん? つーか俺の体、見知らぬ城にわんさと巻き付いてるが、そして見える範囲で人間皆眠ってるようだが、え、まさにこれ「眠れる森の美女」舞台じゃね?

 ウソだろー意味わかんねえよ何でー?


「――お見事。正解です」


 生身だったら頭を抱えて嘆いている俺の耳(精神体の)に声が舞い降りた。

 舞い降りたなんて変な表現だが、実際そう感じたんだから仕方ない。


「そうですここは眠れる森の美女の世界。そしてあなたは茨に転生致しました」


 がああああッやっぱりか!


「そう悲観するものではありませんよ。流行りに乗っ取ってあなたにはチート能力が備わっています」


 何だって……!?

 それは真ですか女神様(推測)!!

 一体、一体俺にどんなチートが!?

 茨だけど人間の姿になれてこの世界で俺TUEEE無双ですか?

 すると女神様(推測)が微笑んだ気配がした。


「無双は無双ですが、茨のまま、無双です」


 は?


 茨のまま無双……と女神(推測・呼び捨て)の言葉がこだまする。

 ついでに俺の脳裏にうねうねうごうご蠢く緑色のトゲトゲ蔓が悪人をバッサバッサと倒して行く光景が過ぎる。


 正直、気持ち悪い……。


 想像してみてくれよ茨無双を。

 茨っつーかこれは緑色の巨大ミミズの束がうにょうにょしてる光景に近いと思う。

 はははめっちゃキメエだろ?


 あ、それが俺か――――ってふざけんなああああああ!!


 もういっそのこと茨はいいから来世に送ってくれよおおおお!


「ぷぷッ諦めて今世を全うして下さい。自殺なんて駄目ですよ? 二度と転生なんてできませんから」


 今平然と諦めてとか言いやがった!

 しかも噴き出したよね確実に!!

 この女神(推測)かなりいい性格してやがる。


 つーか何でよりにもよって眠れる森の美女の世界に?

 異世界どころか創作の世界じゃんここ。

 最近のアニメじゃあ創作物が現実世界に出て来たとかあったけども!!

 その逆!?


「いいえ。この広大で偉大なる多次元宇宙には人間の創造する物は必ずどこかに存在します。なので童話世界もその一つなのです。つまり、異世界の括りです」


 それっぽく言っても童話は童話だ。

 まさか現実世界のダチや親兄弟の誰も、絵本の中の茨が俺だとは思いもしないだろう。

 自殺はしない。そもそも茨が自殺する方法なんか知るかっ!

 勝手に光合成して養分作ってるからな。栄養失調だけにはならない。


 ……茨役を放棄する事はできるのか?


「放棄? それはそれであなたの眠れる森の美女の物語になるだけなのでお好きにどうぞ」

「俺の物語?」

「端的に言えば出来損ないの物語です。その場合また茨生の初めからやり直すことになりますのでお勧めましませんが」


 降板は無理、と。


「ああそれと他の茨との交配はしないで下さいね。色々と面倒なので」


 するか!

 つーか面倒って? 化け物茨と普通の茨のハーフが生まれると人類の害になるとかか?


「私には便宜上あなたの姿は人間の形に見えてますので、盛っている姿はちょっと不潔……」


 さっさと天界でも神界でも元の所に帰れ!


 確かこの話の主人公はオーロラ姫だったか?

 けッ、さっさと王子様のキスで目覚めてこの世界を終了させてくれ。

 俺は不貞腐れていたが、俺の本体である茨は光合成を楽しんでいるのかうねうねしている。

 だあああああキモイな俺!!


「まあ伝える事は伝えましたし、私はそろそろ……」


 しっしっ。


「――あ、暇ならオーロラ姫を見てみるといいですよ。そこの窓から見えるはずですから」


 童話の女に興味はない。

 どうせ絵本にあるようなまつげばっさばさお目目ぱっちりの少女マンガ顔だろ。

 俺は二次元に食指は動かない。

 ああ戻りたい生前のリアル世界。


 俺の態度などどうでもいいのだろう、女神(推測)はふっと冷笑染みた吐息を漏らした。

 あなたこそ平面顔ですよとか言われても違和感ない蔑みの気配。


「ではどうぞこの世界での使命と天寿を全うして下さい」


 だが余計な発言はなされず声はそれきり聞こえなくなった。


 使命? なんだそりゃ。

 俺はどうせただの茨だろ。

 ――そう。

 悲しいことに俺は茨だ。


 だから、次の瞬間本当にこの世界を呪ったよ。


 どうせだから拝んでおくかと覗いたオーロラ姫の寝室。

 ベッドの上の美少女に俺は一目惚れした。

 二次元顔じゃなかった。

 地球の何処を探してもいないだろう究極のスーパー美少女がそこにはいたのだ。


 ああそうか。だから童話の中の茨は侵入者を必死に撃退していたのか。


 姫を見ればそれも納得だった。

 だけどさ、何で俺は茨なんだあああああああ!

 せめて村人Aとかで良かったのに。

 茨と人じゃあ、遺伝子レベルでも交配無理でしょ。

 チクショーッッ! 生殺し!!


 その後、俺は毎日姫の寝顔を見守りながら童話の通り数多の挑んでくる猛者たちを駆逐し茨無双した。


 100年経って王子様がやってきた頃、俺はようやく過酷な転生茨生を終える事ができた。

 オーロラ姫が他の男と良い感じになるのを泣く泣く受け入れはしたが。

 力を緩めて王子を通してやる。

 若人よ、頑張るんじゃ……。

 そんな心境だった。

 と言うか、茨でいるのに疲れた。

 はは、自分の容姿にここまで劣等感を持った人間はいないだろう……。

 だが、やり切った。

 そんな達成感はあった。


 ああ、完結したからか世界が宇宙に帰して行く。

 心なし意識も朦朧と…………。


「――100年お疲れ様です。まさかやり切るとは予想外でした」


 いきなりだなおい!

 余韻に浸る暇さえねえ。

 本当に久しぶり過ぎて最初ちょっと誰だか忘れていた女神(やっぱまだ推測)の声が聞こえた時、俺は猛烈に嫌な予感しかしなかった。

 気付けば俺の意識は変な宇宙みたいな空間に滞在している。


「それでですね、次の転生先が決まりました」


 いやもう結構です。


 反射的に答えていた。


「ええ、結構な転生先です」


 いやそっちの意味じゃなくてね!?

 おいこら女神(推測)ややこしい日本語勉強してから来いや!

 駄女神って呼ぶぞ?

 俺の反抗なんぞ屁の河童なのか、女神(推測)は愚民を踏みつける領主みたいに喉の奥で笑った。


「ふっ、今度も童話世界です。私が上層部に推薦しておきましたから」


 余計な事すんじゃねえええええええええ――――っっ!!


「あなたの次の転生先は――――……」


 やめろおおおおおおおおおお――――っ!!


 向こうから新たな生への光(たぶん)が近付いて来る。


 俺の魂の底からの絶叫が何処とも知れない空間に響き渡っていた。



 ああ――――エンド……レス転生……。

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