階段の幽霊とメガネの僕

ノータリン

噂の幽霊

僕の名前は唯人(ゆいと)今年からN大学の大学生となって岐阜の田舎町から大阪へと上京してきた。

「都会はあつっいなー」都会に来ての第一声がこれだった。春先だというのにやたらと暑い日だった。

その日の入学式を終えた僕は宿屋に向かうことにする。今日から夢の都会生活だ!と期待していた僕に残酷な現実が突きつけられる


都心の学校なはずのに宿屋の周りだけ妙に田舎っぽい雰囲気が漂っているのが漂っているというか、田舎なのだそこから2駅程度の場所はあんなにも都会都会しているというのに確かに駅が大学の駅と明らかに違い無人だったのだがもしかしたら駅から出ると商店街が立ち並んでいたり...という夢は儚く打ちのめされた


宿屋に着いたのとちょうど同じころ宅配乗車が来ていた。荷物をひとしきり部屋に詰め込んだら春先だというのにも関わらず体中から汗がじわじわと出てきていた。

田舎の宿屋に住むことになったはこの際諦めて田舎の宿屋特有のいいところ探しをしていると、あった。縁側だこういうところに腰かけてゆっくり休む少しじじ臭いかななんてことを思っていたら「はい、これどうぞ」左の方から声がしたので振り向いてみると麦茶を持った女の子がいた。

健康児という言い方がピッタリににあう子だった。どこで遊んだらこの季節にこうなるのかといったほどのこんがりと焼けた褐色の肌に先まできれいに整った黒髪、年齢的には僕の少し下といったところだろうか

高校生になっても都会の進学校に行きたいから勉強ばかりしていて浮いた話の一つもなかった僕からすると自発的に話しかけて来てくれて優しくしてくれる女の子というだけで一目ぼれするには十二分な条件だった。

「あ、っはい」と覚えたての言葉を使うようなぎこちない発音の日本語と共にお茶を受け取る。女の子はお茶を渡すと持っていたペットボトルから自分の分をついでから縁側に座った。(ち、近くない⁉)女の子のいい香りがするくらいに至近距離だった。

「キミが今日越してきた島田くん?」静かにうなずく

「そーなんだ同じ島田屋の一員としてよろしくね。私は秋山董(すみれ)呼びやすい方で呼んでいいよ」「秋山さん..ここにはほかにどんな方が住んでらっしゃるんですか?」「そんなかしこまらなくてもいいよー他には...ねーーう~ん説明するのが難しい人が多いかな直接会った方がイイと思う!あ、怖い人はいないから大丈夫!」

どうやら秋山さんは食べるが好きらしく周辺の美味しいお店についていろいろと語ってくれた。

話を終えると今日は予定もないので部屋の片付けを手伝うよと言ったてくれたが流石にそんなにお世話になるわけにはと思い断ってから逃げるように部屋へ戻った。部屋に帰って「かわいかったなぁ」なんて呟きながら部屋の片付けをしていた僕を顔を見たらきっと引かれるだろう可愛い子に出会えた希望とほかの人への不安を胸にしつつも片づけを終えた。


この宿は基本的に食事の時間が決まっていてそれ以外の時間の食事は基本的に認められないタイプなのだ

食事場をのぞくと既に男の人が座っていた。ゴツイのとチャラいの、見た瞬間咄嗟にUターンして手洗い場へと向かうそこで心の整理を済ませ手洗い場を出る。

今度覗くと、秋山さんもいた一人顔見知りが居るだけでも心強いもので、意を決して周りに人に居ない席に座る。そこで秋山さんが「なんでそんな端っこ座ってるの?今日の歓迎会の主役なんだからもっと人の多い真ん中座って座って!」と腕を引っ張って真ん中の方の咳へ連れて行ってくれる。事を少しだけ期待していたがそんなことはないチャラそうなのはスマホと睨めっこしていてゴツイ方はなんだあれ?目瞑って精神統一?秋山さんもスマホと睨めっこしてるようだった。

数分すると鈴の音が聞こえた。すると、いきなり皆が一斉に立ち上がり同じ方向へと歩いていくのだ。なにがなんやらさっぱりだったので首をかしげながら後ろをついていくと後ろにいたゴツイ奴が「お前今日入って来たんか?」というので「はい、あ、よろしくお願いします」と言い終わる前に説明が始まる「ここはな鈴が鳴ったら管理人のオバチャンのとこに飯貰いに行くんやんで食ったらお膳を返す定食屋みたいやつや」言い終えるとゴツイのが話を切り上げそうになったので咄嗟に話を続けようとする。せっかく話しかけてもらえたんだこっちから話す勇気がないのにこのチャンスは逃せない「あ、教えてくださってありがとうございます。あのお名前はなんていうんですか?」「あ?大橋だよ2年の大橋剛だ」「よろしくお願いします。僕ずっと田舎に住んでてこっちで友達の一人もまだいなくて...」「同じ寮の誼やしな宜しく」

高橋さんも食べるのが好きらしく「周辺の安くてうまい店」をたくさん教えてくれてほかにも2人ほどこの宿にいること等を教えてくれた

高橋さんに勧められてサークルに入ってみると皆優しくて友達も簡単にできゼミのおかげもあってクラスでの友達も徐々に増えて行った、入学前の不安はどこへ行ったのかとても充実した学生生活を送っていた


そんな中、転機が訪れたのは学生生活が始まってから二か月後のことだった

その日はゲーム友達と遅くまでゲームをしていて休憩がてらトイレに行った、階段を下りていると異変に気付いたさっきまで見えていた階段の下の段と廊下が無いのだかわりにあるのは真っ暗な空間もしや夢かと思うがそうでもなくゲームのし過ぎで目が疲れたのかとも思ったがこすっても何も変わらない、急に怖くなってきて灯りの方自分の部屋へと駆け上がろうとしたが気づく上の段の階段もないそれどころかいつの間にか一本廊下に立っているのだ周りは全て真っ暗こういうのを暗闇が詰まっているとでも言うのだろうかなんてことを思っていたときに廊下の奥の方から何かを引きづる音がした。ずるずると音を立てて何かが近づいて来る。

いつの間にか怖さから下を向いていたことに気付く、怖さと同時に好奇心もあって前を向くまで時間はそうかからなかった見た瞬間好奇心で見てしまったことを後悔した。


前に在ったのは幽霊だった、それも全身血まみれでめちゃくちゃな方向へと曲がった左足を引きずった幽霊だった

「bjdがウ府dg財布g」何を言ってるのかわからないが口から音を発する。

聞き取ろうと恐る恐る顔を近づけると「うわっ!」と言って尻餅をついてしまった

霊は口からは音を発するたびに歯が零れ落ち鼻は見るも無残な形へと変形していた

これを見るまでは幽霊ものとか好きだしもしかしたらなんとかなるかもなんて根拠のない自信を持っていたが全てが変わった

「あ......あああ」怖くて声を発しようとするが恐怖のあまり音が出ない

その間に幽霊と自分の距離はもうなかった尻餅をついて動けない僕に幽霊は近づいてきて顔の方に手を伸ばす。まっすぐ僕の目へと手を伸ばす「コン」僕の眼鏡と霊の詰めが当たった音だった、その時、霊がよろけた。よろけて尻餅をついたのだ、まるで不可解で予想外な何かが起こったかのような反応だった霊の顔には恐怖と驚きの色があった

その瞬間に僕は走り出した。アレとこれ以上同じ空間に居られないそう思った一本廊下を無我夢中で走り続けるずっとずーっと走るすると道の端に来ていたそこから先は暗闇のみそれでもアレに捕まるくらいならそう思って僕は飛び込んだ


「ハッ!」突然目が覚めた机にうつぶせになっているパソコンもつけっぱなしだ、どうやら自分は寝落ちしてしまったらしい

時計と見るともう大遅刻の時間だ、悪い夢を見た気がするのでとりあえず何か飲もうと下に降りようとした時ズボンから何かが落ちた

見てすぐに何か分かった「歯」だ紛れもなく人間の歯だった。自分のズボンを確認するとどす黒い血に塗れていた。それは昨日の出来事が夢で無かったということを語っていた

その日は学校を休んだ

怖さのあまり階段を降りられなくて一日何も食べないつもりだったが、やはりお腹は空くもので空腹の余りに階段を下りて何かを食べに行ったが昼間なのが功を奏したか何も起こらなかった


ご飯を食べて精神を落ち着けた自分の中には恐怖と同じくらい疑問と好奇心があった、アレは何なのか?これからも出てくるのか?全てを知るためにはもう一度会う必要があった。第一これから四年間も住んで学校へ通うのにずっと怯えながら生きていくのかと思うと気が気でなかった

そしてゲーム友達に全てを話し今から言ってくると言い残した

階段を下る。一段...また一段と踏みしめて降りるものの変わったことは何もない。

そう、最後の段になるまでは何も無かった最後の段を下りる瞬間に周りが一瞬で暗闇になり一本廊下が現れた。現れたというか何というか元からあったかのような感じだ全く違和感を感じない

やがて音が聞こえてくる...あの音だ今更怖さがこみあげてくる足が震える止めようとしても止まらないいつの間にか歯もかたかたと音を立てていた

だが目だけはまっすぐ前を見据えていた絶対に前のようなことにならないため段々からだが見えてくるこの前と変わらず全身血まみれに足を引きずった状態だ

イメージトレーニングは何度も何度もした。が、実物を目にすると話が違う

空気が重い 今すぐ逃げ出してしまいたい そんな思いが頭を駆け巡る 

イメトレだけでは覚悟が足りないことは分っていた、だから、この場で補わなければならない恐怖と対峙する心を

深呼吸をする澱んだ空気を肺いっぱいに吸い込んで全力で吐き出す。目は離さない


目の前まで来る「アレ?」さっきまで見下ろしていたものがいつの間にか見上げている。腰が抜けていた。それにも気づけないぐらい僕は緊張して怯えていた

見上げると顔らしいところから真っ白な歯が見える。それ以外は真っ黒だった

急に逃げ出したくなって足に力を込めるが立てない

霊の手が目に近づけられる

「コンッ」幽霊の手の爪とメガネのレンズが当たった音だった。霊が後ろにのけぞる

前と全く同じ光景だった。ここで前は逃げたじゃあ今は?

身体は極度に緊張で動かないが声は出せる、そして頭が人生で一番冴えていた

一言この状況で最も有効な一言を考える「目が見えない...のか?」霊の動きが止まる

そしてれ霊の顔が鮮明に映るおそらくそれは生前のものなんだろうが、そこにはとても整った顔立ちをした少女が居た。ただ目がある場所のはずに大穴が開いていることを除けば整った顔立ちをしていた

頭の中に様々な記憶が流れ込んできた。戦時の記憶、幼い彼女にとってその現実は重すぎてあまりにも辛すぎた。負の感情が流れ込んでくるあまりにも悲惨な現実そして彼女の夢。彼女はこう言ってたのだ「痛いよぉ...真っ暗で何も見えないよぉ」

その日、僕は彼女の目になることを誓った


次の日起きると床で寝ていた

そして部屋の隅に彼女がいた三角座りをして周りを確認している様は何も知らない人からするときっと小動物の様に愛らしくて可愛らしいものなのだろう。でも、僕にとっては真っ暗闇で彷徨う女の子にしか見えなかった。

僕は少女の手を取ってから言った「行こうか」それから彼女との二人三脚の旅が始まった。大学からすると数日の無断欠勤になるわけだし、今考えると大学に連絡の1本ぐらい入れたほうがよかったのかもしれないがなんて言えばいいんだろう?まさか「幽霊の女の子のために旅に出ることになったんです」なんて言って公欠扱いにしてもらえるわけでもないんだしまぁいいや


駅のホームには僕と彼女以外誰もいない、春先なのにやたらと暑い日だった。



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