第三話 魔王の影

 オークは、言葉を勉強した。

「サカナをトる? マカせろ」

 ゆったりとした布を脱ぎ、地面に置く。ブタ顔でたくましい体つきの男が、川に入って魚を掴む。

 彼は真面目だった。

「本当にらなくてもよかったんだが、まあいい」

「それは、言わなくていい情報だと言える。カッテラ」

 短い髪の若者は、独自の言い回しだ。

 普通の髪のカッテラは何も言わず、長い髪の若者が言う。

「言葉どおりに、全部やっちまいかねないぜ。イウシカ」

 短い髪の若者は、独自の名前だった。

「なるほど。一理あると言える。トウリイ」

 短い髪のイウシカは、長い髪のトウリイに賛同した。

 三人の若者が、オークに言葉を教え続ける。


 日が傾き、オークのお腹が鳴った。

 すこし悲しそうな表情。

 村を流れる川の側。草の上に座って勉強中の四人。簡易かんいな木造の傘が日差しを防いでいる。

「みなさん、ありがとうございます」

 十代半ばの少女がやってきて、お礼を言った。

「ミウナ。こいつ、なかなか使えそうだ」

「そのうち、役に立つ日がくると言える」

「上から目線は、良くないと思うぜ」

 三人の若者がオークに手を振る。その場を後にした。


「私たちも、帰りましょう」

「はい。キョウカン。リョウカイであります」

「なにを言っているのよ!」

 おさげの少女は、目にもとまらぬ速さで裏拳うらけんを放った。

 魔力まりょくで強化されたツッコミが直撃。

 ブタ顔の大男は、川の上を跳ねながら上流へ向かう。水を切って跳ねる石のようだった。

 三人の若者は、余計なことまで教えていた。


「グリフォンの煮つけ、うまかったな」

「あら。ヒッポカンポスの揚げ物は?」

「ウマかった。アリガトう」

 夕食を食べたオークは、ミウナの両親に感謝した。

「お? 馬だけに、ってか?」

 父親の言葉に反応した少女は、ツッコミを我慢した。父親のモケスタに、魔力まりょくはない。当たれば無事ではすまない。

 母親は、娘の成長を笑顔で見守っていた。

「ウマかったと、ザイリョウがウマ。ウマいことをイう」

 ブタ顔の大男が笑った。

「なんで言っちゃうの!」

 ミウナのツッコミが衝撃波しょうげきはを起こした。

 母親のイハナンは、即座に反応して空間転移魔法くうかんてんいまほうを使う。

 いつもの採石場さいせきじょうに飛ばされたオーク。

 衝撃波しょうげきはも一緒だから、寂しくなかった。


 リビングルームで眠るオーク。

 夢を見ていた。色はない。白黒だった。

 誰かがいる。人間ではない。

「……」

 何かを話した。しかし、言葉が分からない。

 相手は、立派な椅子に座っている。

 広い場所。立派な建物の中のようだ。

 夢はそこで終わった。


「カラダをキタえる」

 早朝。ブタのような顔をした大柄おおがらの男は、運動していた。見守る少女。

 ゆったりとした布は脱いでいる。

 オークは、汗を洗い流すため、川に入った。

 すぐに川から出る。水びたしの身体を吹き抜ける、優しい風。

 水が消えている。母親が魔法まほうを使ったことに、ミウナが気付いた。

 隣の少女の笑顔に、オークも笑顔を返した。


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