第36話 野外訓練

本文


 ソフィアが襲われた事件から数ヶ月間、表立って彼らが仕掛けてくることはなかった。

 そして今日は数日間かけて行われる全クラス参加の野外訓練の初日だ。

「なんで貴族が多数いる学院で冒険者みたいなことを?」と疑問に思ったのだが、なんでもノブレス・オブリージュを意識させるためだそうだ。

 ――なるほど。確かに戦争になれば民を守るために自ら戦場に立たなきゃならないもんな

 説明を受けながら一人納得していると、


「教官! これはただのキャンプではないんですよね?」

 隣の赤髪が天を突くかの如く手を上げている。

「ん? まぁ訓練だし山だからな。魔物はいないが獣くらいはいるだろうから気をつけろよ。」

「獣は狩ってもいいんですか?」

 ――セシリアよ。なんでそんなに嬉しそうに聞いてるんだ


「もちろん。今回の訓練の貴重なタンパク源だ。食料は現地調達だからな」

 えぇぇぇという声が周囲から響き渡る。

 ――そりゃ貴族の坊ちゃん嬢ちゃんにはキツいわな

 自分も貴族のくせに、小さい頃から山中を走り回っていたリヒトは涼しい顔だ。


「まぁ教員も参加してるから危険はないさ。それと、班で行動するのも一人で行動するのも自由だからな。他に質問は?」

 生徒を見回し他に質問が出ないのを見届けると教官は解散を指示した。


 さて自分も出発するかと腰を上げた所でセシリアに声を掛けられる。

「リヒト。あなた誰と組むの?」

「え? セシリアを誘おうと思ってたけど……もしかしてもう組んじゃった?」

「そ、そうなの? ふふん。当然よね。し、仕方ないから組んであげてもいいわよ」

「良かった。よろしくね」

 上機嫌なセシリアをよそに

 ――これでタンパク源を楽にゲットだぜ

 などと思っているリヒトであった。



結局リヒトが組んだパーティーは自分含め三人。

なんでもセシリアと幼馴染だという少女だ。

最近まで国外にいたらしく、教室で空席だったうちの一つが彼女の物だったらしい。


――セシリアの幼馴染ってだけで不安なのは俺だけなのだろうか……

悪い予感しかしないリヒトであったが、当の本人達は涼しい顔だ。


「リヒト。紹介するわね。彼女がロゼリア・フォン・ハルディンよ。」

「初めまして。お噂は伺っておりますわ。宜しくお願い致しますわね」

 ――うん。なんというか……THE貴族! って感じの女の子だな。金髪縦ロールなんて現実で初めて見た

「初めまして。リヒト・フォン・パイシーズです。宜しくお願いしますねロゼリアさん」

「ロゼでいいですわよ。敬語もやめて下さいませ。そのかわり、わたくしもリヒトと呼ばせて頂いてよろしくて?」

「うん。わかったよ。よろしくね。ロゼ」

「ロゼ美人でしょー。スタイルもいいし。しかも侯爵家令嬢なんだから失礼のないようにね!」

 ふんぞり返ってるセシリアだが隣のロゼとの格差が酷い。主に胸の。

 可哀想なものを見たリヒトはセシリアの肩に手を置くと

「……セシリア。頑張ってね」

「な、何がよ?! どこ見て言ってるのよ!」

「うん。大丈夫。まだチャンスはあるさ。」

 バシン!



 頬を紅葉色に染めたリヒトとプンスカしているセシリア、苦笑いしているロゼのデコボコパーティー結成だった。





後書き

 新キャラ登場です

 ロゼリアは金髪縦ロールで赤いドレスが似合うお嬢様口調キャラです。

 彼女を巨乳にするか貧乳にするかで三日三晩悩んだ作者は本物のバカだと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る