人生シーズンパスを持ってる人、持ってない人

ちびまるフォイ

どう頑張っても好転できないもの

41歳。職なし、彼女なし。


自分の人生をこうして書いてみるといかに終わっているかよくわかる。

でも悲しいことに死ぬ勇気はない。


「はぁ……人生って辛い……」


どこで人生の選択を誤ったのかわからないが、

俺の人生はベリーハード通り越してエクストリームな難しさだ。


もうこの状況で人生を良くなるのは期待できない。


「今日もネットざんまいか……」


ふと、リンクをたどった先に開いたサイトで怪しいものが売っていた。



『 人生シーズンパス -1年分- 』


これを持っていると、あなたの人生が成功へと動きます。




「……うわぁ。これってあれだろ。

 開運グッズとかそういうたぐいの商品じゃないか」


札束風呂につかりながら美女をはべらせた写真とかで見る「開運グッズ」。

うさん臭さしかないが、ただの話題作りに購入ボタンを押した。


そのときはまだ何の期待もしてなかった。


数日後、家にスーツを着た男がカードを持ってやってきた。


「このたびは人生シーズンパスのご購入ありがとうございます」


「え、ええ……」


「注意事項をよく読んで、このカードを常に持っていてくださいね」


男はクレジットカードほどのシーズンパスを差し出した。

カードを受け取って雑にポケットにしまいこんだ。


男が帰ってから、もうシーズンパスのことなど忘れていつものようにネットを巡回していた。


「……えっ!? 限定品が今だけ値下げ中!?」


いつも予約で買えないゲームがこともあろうに、俺がみたタイミングで値下げ+再販を開始。

こんな都合のいいことってあるのか。


外へ出てみると、偶然にも信号機が青続きになったり

運よく電車がぴったりのタイミングで到着し、奇遇にも席が空いたり。


自動販売機ではあたりが常に出たり、

たまたま入った店で100万人目の来店者として祭り上げられたり。


いくら鈍い俺でもここまでされればさすがに気付く。



「じ、人生シーズンパスってすげぇぇぇぇ!!!」


こんなにも人生がうまくいくなんて思わなかった。


その後も、就職活動を行っても負けなし。

彼女だってできてしまう充実ぶりに1年の期限はあっという間に近づいた。


「ようし、次のシーズンパスも買おうっと」


また以前のサイトにアクセスしたが今度ははじかれてしまう。



"人生シーズンパスはおひとり様1点かぎりとさせていただいてます"



「ええええ!? うそだろ!? それじゃラッキーなのは今年だけかよ!?」


シーズンパスの注意書きは2つあり、そのうち1つがおひとりさま1点のことだった。

こんなことなら、もっと1年のはじめに動いておけばよかった。


「くそ……なんとかならないか! 今の俺は人生イージーモードのはずだ!」


軽く検索すると、偶然にも「ウルトラシーズンパスG」の情報を手に入れた。



『ウルトラシーズンパスG』


期限:無制限

対象:シーズンパスご購入済みの方のみ限定


シーズンパスの期限を無制限にする拡張アイテムです。

人気商品のため、毎月30秒だけどこかのサイトで販売されます。



「うおおお! 購入するしかないだろぉぉ!!」


毎月ネットで30秒しか出現しないレア商品をタイミングよく見つけられた。

人生シーズンパスの期限が残っていてよかった。


購入後すぐにウルトラシーズンパスGは到着した。


「これでシーズンパスが無制限になるんだな!」


人生シーズンパスの期限も残っているので、偽商品でした、というオチもない。

シーズンパスGを使うと期限がついに無制限になった。


「やった! これで一生幸せが保証されたぞ!!」


実はシーズンパスGの効果はそれだけにとどまらなかった。



偶然、部屋に風で運ばれた宝くじが当選する。

偶然、大手会社の社長が俺に目をつけて2代目社長にしてくれる。

偶然、家を買ってもらえる。


などなど。


もはや、現実のつじつま合わせをガン無視した超ラッキー展開が続く。


「シーズンパスGになってから、ラッキーのレベルが一気に上がった!

 しかも無期限なんて最高すぎるじゃないか!!」


これを持っている限り不幸になることはない。


車道に飛び出しても、事故になるどころか恋にすら落ちる。

しかも運転手がグラビアアイドルで俺にひとめぼれしてしまうとか。


そして、そのまま結婚までトントン拍子で進んでしまうとか。


「汝、健やかなるときも病める時も夫を支え愛し抜くと誓い――」

「誓います」


そんな、ご都合主義すぎる人生も起きてしまう力がシーズンパスにある。



自動車事故未遂から結婚するなんて、普通じゃ絶対にありえないだろう。

この先も待っている永劫の幸せを想像するだけで涙が出そうだ。


「汝、健やかなるときも病める時も妻を支え愛し抜くと誓いますか」

「誓います」



「では誓いのキスを」


こうして、俺は幸せの最高までのぼりつめた。


 ・

 ・

 ・




「ちょっとあんた!! いつまで寝てんの!! 休日くらいどこかに吊れってよ!!!!」


「ふぁい……」


嫁の怒鳴り声でたたき起こされる、最低の日々がはじまる。


「あんたときたら、毎日毎日ぐーたら過ごして本当にやんなっちゃうわ。

 私があれをしてほしいっていったらいつも違うことをやるし。

 本当に使えないったらありゃしない。だいたい前からそういうとこあるのよ。

 デートの行き先ひとつ決めるのだって私ばっかりにやらせて自分はなにもしない

 前に食べに行ったファミレスだって、あんたはメニュー見てうんうんうなってばかりで注文ひとつ……」



「な、なんでこうなったんだ……」


すがるように人生シーズンパスを裏返してみた。




『人生シーズンパス ご利用についての注意事項』


1)おひとりさま1点かぎりとさせていただきます。

2)結婚すると「苦労シーズンパス」となってしまいます。




金色だったシーズンパスはどす黒い不幸シーズンパスへと変わっていた。



もちろん、期限は無制限のままで……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人生シーズンパスを持ってる人、持ってない人 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ